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村井満チェアマンが、単独弾丸視察で触れたジーコとブラジルサッカーの深さ

2018.01.30

昨年末、単独でブラジルへ渡ったJリーグの村井満チェアマン。王国で何を感じ何を見たのか

昨年末、Jリーグの村井満チェアマンが単独でブラジルへ渡った。Jリーグの黎明期を支えた元鹿島アントラーズのジーコの誘いに応じたチェアマンが、ブラジルで目にしたもの、そして感じたこととは。

文=藤原清美


◆30年が経っても、共有され続けるタイトル獲得

 昨年の12月26日、真夏の年越しを目前にしたブラジルのリオデジャネイロに、東京からたった一人で飛行機に飛び乗り、降り立った人物がいた。小さなキャリーバック一つで、にこやかに到着ゲートから出てくる。しかも、日本での仕事の都合上、現地滞在時間はたったの1日半しか取れないにも関わらず、地球の反対側までやってきたフットワークの軽さを見せたのは、Jリーグの村井満チェアマンだ。

 チェアマンの旅は、ジーコの誘いがきっかけだった。ジーコは毎年12月下旬に、リオでチャリティーマッチを主催している。今年で創立25周年を迎えるJリーグの節目に「サッカーというものが持っている、公共的な意味、社会的な価値を、本場ブラジルで、もう一度、肌で感じたい」というのが、チェアマンの目的だった。

 そんなチェアマンがまず向かったのは、「フラメンゴの87年ブラジル全国優勝30周年記念イベント」だ。ジーコの古巣フラメンゴは、過去6回の全国選手権優勝を達成していて、その4度目の優勝から30周年。87年のチームでは、ジーコをはじめ、ジョルジーニョ、レオナルド、ベベット、アルシンドといった元鹿島アントラーズ勢や、ジーニョ(元横浜フリューゲルス)、アイウトン(元柏レイソル)と、元Jリーガー達が活躍していたのだ。

 会場では、優勝した87年の試合映像を見た後、当時の選手や関係者が、順々にステージに立ち、表彰し、表彰されながら、スピーチをおこなった。それぞれが披露する当時のエピソードに、会場では爆笑や、感動で涙も。また、このイベントを企画し、実現したのが、クラブではなく、一人の名物サポーターとその仲間達だったことから、当時の会長以下、スーパースター達がみんな、彼に感謝をした。会場が総立ちとなったのは、ジーコがステージに上がる瞬間だった。

 その一部始終を見ていたチェアマンには、大いに感じるものがあった。

「ブラジルでタイトルを獲ることの意味ですね。30年経っても、当時の選手達を称え、亡くなった選手の代わりにはご家族が出てきたり、縁の下の力持ちの方々が壇上にあがって。こうして一つのタイトルを、30年に渡って共有しているっていうことのすごさを、まず感じましたし、その中心にいるのがジーコでね。クラブ最大の黄金時代を築いたジーコが、いまなお、このフラメンゴというクラブでは、伝説的な存在で。

 その彼が、チャリティーマッチを開催して、恵まれない子供達のために寄付をし、ブラジル中に大きな話題を提供している。そういうジーコのスケールの大きさを、あらためて感じましたね」

◆年中行事となっているジーコのチャリティーマッチ

 チェアマンの言うチャリティーマッチとは、ジーコが2004年に始めたものだ。ブラジル代表やフラメンゴの現役・OBをはじめ、アルゼンチンからマラドーナが参加したり、「ジーコ、ロナウド、ネイマール」と、3世代のスターが一緒にプレーするなど、ファンを魅了する選手達がマラカナンに集い、毎年4~6万人の観客が詰めかける。

 12月のブラジルでは、短いシーズンオフを活かして、こうした慈善活動が盛んに行われる。スター選手達ともなれば、大なり小なり、チャリティーマッチを主催したり、何らかの団体や協会などの主催する試合に出場する機会は多い。ただ、個人で主催し、毎年これだけのスターを揃えて集客する規模とレベル、しかも、14年もの間、毎年欠かさず行っているのはジーコだけ。試合はテレビでも生中継され、ブラジルサッカーの年中行事となっている。

 そして第14回を迎えた試合当日。4万7000人の観客は「いろいろなチームのスターが一緒にプレーするのが魅力」「子供達がこんなに楽しそうに観戦しているのが、この試合の価値」「ジーコのおかげで、私達も助けを必要とする人に手を差し伸べることができる」と、笑顔で語ってくれる。「ジーコのゴールをナマで見てみたい」と意気込む幼い少年もいた。

 今回も、前日に集合した87年優勝メンバーをはじめ、ロマーリオやアドリアーノといったフラメンゴの英雄達や、元ブラジル代表、元オランダ代表のエドガー・ダーヴィッツも駆けつけた。レアル・マドリードと高額の契約をしたヴィニシウスJrなど、フラメンゴの新星もいる。元Jリーガーも多い中、現役Jリーガー代表として、京都サンガの田中マルクス闘莉王選手も出場した。

 闘莉王は「いろんな世代のヒーロー達と一緒に出場できて、本当に光栄ですね。これがサッカーだ、というのをすごく肌で感じました」と、笑顔。目の前でロマーリオにゴールを決められたシーンもあり、チェアマンには「みんな結構本気で上手かったです」と、苦笑いしながら報告した。

 フラメンゴサポーターが多いため、全体にチームカラーの赤で染まったスタンドで、大歓声や拍手喝采、時々ブーイングも聞きながら、チェアマンも試合を存分に満喫した。

「本当に楽しいね。サッカーをみんなで楽しんでいるのが感じられたし、夢のようなスタジアムでした。みんな、局面ではすごく技術力が高いし、視界の広さとか、ボールコントロールとか、ジーコなんかも往年の雰囲気を感じましたよね」

 試合後、ピッチに降りてきたチェアマンがジーコに声をかけにいくと、ジーコは観客へのサービスの真っ最中だった。スタンドの最前列まで降りてきて、サインや写真を頼むサポーターと、ジーコは一人ひとり握手をする。その応対は1時間半に渡った。

 チェアマンは「ジーコってすごいですよね。これだけ多くの人を全部背負っていながら、一人ひとりをものすごく大事にしている」と言い、そんなジーコの姿と、サポーターの幸せそうな様子を、チェアマン自身、スマホを取り出して、写真に収めていた。

サッカー王国で見られた深い深い愛

 そんなチェアマンがこの1日半、ジーコとその活動、そして、彼を取り巻く人々や、その環境を目の当たりにして感じたこととは。

「ベースにあるのは、クラブに対する愛ですかね。フラメンゴというクラブを、多くのサポーターが支えているという。特定のスター選手だけじゃなくて、クラブに対する深い、深い愛。日本にも、そういうものが芽吹き始めているんですよ。クラブによって種類やパターン、表現の仕方、それに選手とサポーターの関係などは違うんですけど、それぞれのクラブに対する愛が芽生えつつあるので、大事に育てていけば、将来こういう雰囲気が見られるようになるんじゃないかという、期待を感じましたね」

 ジーコは「村井さんがここに来てくれて、とても幸せに思ったよ。闘莉王も、このフェスタを輝かせてくれた。本当に幸せだ」と、しみじみと喜んでいた。そしてチェアマンはジーコに、Jリーグ25周年の来日をお願いしたそうだ。Jリーグのスタート時点での大功労者に、彼自身の言葉で、この25年を振り返ってもらうために。

「ジーコが息吹を与えてくれたスピリットは、ずーっと今も生き続けていて、まずはありがとうと言いたいですね。そして、これからの25年で、必ずこういう、サッカーに対する愛に溢れた社会にしたいと思っているので、ぜひ見ていて欲しい」

 チェアマンとジーコ。サッカーを通じた友情が、Jリーグの明日に繋がっていく。凝縮された収穫を得て、思いを新たにしたチェアマンが、最後に、サポーターへのメッセージを残してくれた。

「いつもJリーグを支えてくれる皆様、ありがとうございます。今回はたまたま、私がこういう立場でしたので、素晴らしい機会を得ることができましたが、こうしてサッカーを通じて人と人が触れ合う、そんな素敵な社会を、皆さんと一緒につくっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします」

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