2017.12.13

【ライターコラムfrom湘南】J2優勝の裏に葛藤と重圧…「ゼロからのスタート」で見出した“新・湘南スタイル”

湘南ベルマーレ
J2優勝を果たし、1年でのJ1復帰を決めた [写真]=JL/Getty Images for DAZN

 優勝にまさる結果はない。曺貴裁監督の指揮のもとでは、12年と14年に続き3度目となるJ2の舞台に臨んだ今季、湘南ベルマーレは目の前の一戦一戦に全力を傾ける先で最も高い場所に達し、J1昇格を決めた。だがタフなリーグ戦にあって、その道のりは順風満帆であるべくもなかった。

 苦境は、開幕して間もなく訪れた。第3節ツエーゲン金沢戦でチーム在籍4年目の藤田征也が試合途中に負傷離脱し、第5節ジェフユナイテッド千葉戦では主将の高山薫もケガに見舞われ、同じく前半のうちにピッチを後にした。

 12年にタクトを託されて以来、指揮官は湘南のトップチームの監督として6年目のシーズンを迎えていた。攻守にアグレッシブな、いわゆる「湘南スタイル」は季節を重ねるごとに周囲にも浸透し、12年は2位で自動昇格を、14年にはJリーグ記録となる開幕14連勝や史上最速のJ1昇格など圧倒的な成績でJ2制覇を果たした。チームの成果とシンクロして、伸び盛りの才能たちがJ1の強豪クラブへ移籍するなど、クラブは健やかな新陳代謝を繰り返してきた。

 育成型クラブとしてポジティブなこの歩みを踏まえ、曺監督は今季「ゼロからのスタート」をテーマに掲げ、湘南がこれまで育んできたスタイルとともに、「もう一度自分たちと向き合って強くなろう」と選手たちに語りかけた。そうした中、リーグ屈指の走力でチームのスタイルを体現する高山や3年前のJ2優勝を経験している藤田が離脱を余儀なくされたのである。6月には副将の菊地俊介もケガで戦列を離れた。改めて足もとを見つめるシーズンだからこそ、チームに長く在籍する彼らの長期離脱の影響は懸念された。

 近年J1でシーズンを重ね、また記録的な成績を収めた14年の戦いぶりも記憶にそう遠くない湘南に対し、かたや相対する相手の温度は総じて高かった。過去の残像から分析や対策が進む一方、ゼロからスタートし、成長の途上にある彼らには、勝たなければいけないというプレッシャーも人知れずのしかかる。必然、難しい戦いは増した。

 メンバーの揃わぬ苦しいチーム状況はしかし、別の作用ももたらした。「自分がチームを引っ張っていかなければいけないという想いは相当あった」。例えば、山田直輝がのちにそう明かしたように、あるいは岡本拓也が「自分がチームの勝利への責任を負っていかないといけない」と語ったように、それぞれが自身に矢印を向け、自覚を太くした。

 培った責任感は年齢を問わない。例えば、第17節V・ファーレン長崎戦でゲームキャプテンを務めた18歳の齊藤未月は、こんなふうに語ったものだ。「年齢に関係なく責任感を持ってしっかりプレーすることを意図して監督も自分にキャプテンマークを託してくれたと思う」。ジュニアから育った生え抜きは、指揮官のメッセージをしかと受け止めていた。

曹貴裁

湘南を指揮して6季目に突入した [写真]=Getty Images

 また湘南の今季を振り返るうえで、ポジションを固定しない柔軟な起用法も見逃せない。3-4-2-1のフォーメーションをベースとする中で、開幕からセンターバックの一角に立ったのは、それまでおもにサイドアタッカーとしてプレーしてきた山根視来だった。背番号13は果たして持ち前のドリブルでチームの攻撃の推進力を最終ラインから喚起した。高山や藤田が離脱した両ウイングバックには、センターバックの岡本や高卒ルーキーの杉岡大暉が起用されることも少なくなかった。指揮官は選手個々の可能性を広げ、と同時にチームとしてのバリエーションも増やしていったのである。

 第39節ファジアーノ岡山戦で優勝を果たすまで、湘南は6つの敗戦を喫している。常にゲームの内容を見つめる彼らは、そのたびに修正を図り、次への糧とした。これもまた、彼らの道のりにおける重要な要素に違いない。

 例えば、0-3で今季初黒星を喫した第6節カマタマーレ讃岐戦、相手の入念な対策もあり、自分たち本来の縦への推進力を発揮しきれずにいると、次の東京ヴェルディ戦では、チャレンジする姿勢を改めて見つめ直し、加えて神谷優太や杉岡、石原、齊藤といった当時10代の選手の躍動とともに、今季初の逆転勝利を収めた。セットプレーの失点により0-1で敗れた第9節大分トリニータ戦のあとには、勝たなければいけないという重圧の枷を取り払い、ふたたび自分たちのベースに立ち返った。そうして次のファジアーノ岡山戦では、ラインを高くコンパクトに保ち続けるなど基本を徹底し、勝ち点3を積み上げた。0-3と大敗を喫した第24節モンテディオ山形戦のように、球際や競り合いで相手の後手を踏んだ試合内容を踏まえ、オフ明けからキャンプさながらのビーチトレーニングでハードに追い込んだこともあった。

「負けるときは意味のある負け方をしたほうがいい。力の差や自分たちが悪かったことをきちんと感じたほうがいい」と、あるとき指揮官が語ったように、彼らは常に自分たちに目を向け、目の前の一戦にすべてを傾ける原点を再確認した。勝敗はあくまで結果論だが、一度も連敗を記すことなくシーズンをフィニッシュした背景には、こうした弛まぬ日々があった。

 後半戦に入って間もなく首位に立った湘南は、件の山形戦の大敗後9勝3分けと12試合負けなしで上位争いの混戦を抜け出した。攻撃的な自分たちのスタイルはそのままに、縦が消されるなら一度持ち、耐えるべき時間帯が訪れれば、菊地からキャプテンマークを引き継いだGK秋元陽太を中心にゴールを守るディフェンスにシフトする。選手たち自身がピッチの上でゲームの流れを感じ、共有して、勝つためになすべき振る舞いを皆で全うした。

 あるとき山田直輝は語っている。

山田直輝

攻撃のタクトを振るう山田直輝 [写真]=Getty Images

「内容が良くて勝てないならフォーメーションやサッカーどうこうの問題ではないだろう、最後ゴール前で体を張れていなかったりゴールを入れたりする気持ちが足りないんじゃないかと、曺さんに言われたことがある。サッカーはいい内容であっても負けたら意味がない。本当に大事なところは何なのかをみんなが思い出させてもらい、そこから変わった気がします。細部でこだわることができているから1点差の勝利が多いのかなと感じる」

 湘南は今季、アビスパ福岡と並び、リーグ最少失点をマークした。だが個人の成績も含め、それ以外のデータに突出した数値は見当たらない。相手が温度高く対策を講じ、難しい戦いも増す中で、仮にチャンスが少なくともセットプレーでゴールをこじ開け、ピンチに晒されればそれを受け止め守り抜き、勝ち点3を手繰り寄せる。そんなふうに、自分たちのスタイルを自覚したうえで「勝つために」身に付けた全方位的な戦いは、チームとしての大きな深化といえるだろう。

 今季のチームを、指揮官がこんなふうに評したことがある。

「自分たちは上手いとか、やれるという気持ちより、『もっと上手くなりたいんだ』という気持ちが今年のチームは強い。ただJ1に上がってプレーするために、という言葉さえ当てはまらない。選手自身がハードルを高くして取り組んでいる」

 そして目を細めるように言った。

「お互いに言い合えるような人間関係がすごくあったと思う。チームワークというものの質が上がった。だから本当に全員でやってきたなと改めて感じた1年だった」

 勢い良くピッチを駆け続けた12年とも、相手を圧倒し続けた14年とも違う。その意味では、曺監督の指揮のもとで昇格を果たした過去2シーズンのように見た目に分かりやすいスタイルではなかったかもしれない。だが年月をかけ、指揮官とともに変わらず育んできたからこそ、見えなくとも息づく自分たちの色がある。苦境の季節を越え、それぞれに成長し、2017年版の湘南スタイルを確立した先で、彼らは最良の結果を手にした。

文=隈元大吾

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