2017.11.24

【ライターコラムfrom仙台】菅井直樹、多くは語らずとも黙々と…ピッチでは熱く己の役割に徹する

菅井直樹
大宮戦は3バックの一角としてプレーした菅井 [写真]=JL/Getty Images for DAZN
ベガルタ仙台を中心に追いかけるライター。書籍に『在る光 3.11からのベガルタ仙台』など。

「それは多分……。ジョークじゃないでしょうか」

 明治安田生命J1リーグ第31節、ベガルタ仙台対大宮アルディージャが終わった後のことだった。

 この試合では、仙台が3-0で大宮に快勝。前半のうちに増嶋竜也の仙台加入後初ゴールと相手のOGで2点をリードし、後半にも三田啓貴の鮮やかなミドルシュートで突き放す。しかし、その後も試合を有利に進めながら、次のゴールが生まれない。最後の力を振り絞って攻めに出てきた相手に対して、渡邉晋監督は「右のウイングバックで彼の推進力を生かして、もう1点、2点を取りにいこう」という狙いで75分に菅井直樹を投入した。

 ところがその5分後に、増嶋が脚に違和感を覚えて交代することになった。代わってピッチに入ったのは茂木駿佑で、それまでの出場時と同様に左のウイングバックに入り、そのポジションにいた蜂須賀孝治は右に移った。では、その前に右ウイングバックを務めていた菅井はどこに行ったかというと、増嶋の抜けた最終ライン、3バックの右だった。

 公式戦においてこのポジションで菅井がプレーするのは初めてのことだが、ぶっつけ本番というわけではない。この秋に仙台は負傷者が各ポジションで相次いでいたために、渡邉監督は緊急時に備えていくつかコンバート策を練習や練習試合で試していた。その一つが、菅井の最終ライン起用だった。

 投入後5分で配置換えを余儀なくされた菅井だったが、「最初に入ったときは、相手が一人少ない状況でとどめを刺しに行くという覚悟があったのですが、一つ下がって3バックになったときには、やはり失点をしないように考えてはいました」と切り替えて、守備に徹した。パワープレー気味に放りこんできた相手に対しても、体を寄せて対応した。

 菅井はプロ生活における出場記録の大半を守備的ポジションで記録しているが、J1リーグ戦だけでも20ゴールを決めている。J2時代と合わせればさらに20点増えて40ゴール。もともと攻撃的MFとして2003年に仙台に加わり、翌04年のJ2開幕戦でJ公式戦デビューを飾ったときはトップ下だった菅井だが、06年に右サイドバックにコンバートされてからゴールを量産するようになったというキャリアを持つ。もちろん、激しい守備も彼の持ち味の一つだが、最終ラインからいつの間にかゴール前に攻め上がって得点する形は、菅井直樹という選手の個性を象徴している。

菅井直樹

高い得点力も菅井の持ち味 [写真]=JL/Getty Images for DAZN

「ゴールはサッカーの醍醐味だし、お客さんも一番期待しているのは何かといったらゴールだと思うので」と、彼は得点への意欲をよく口にしてきた。一時期はゴールから遠ざかっていたこともあったが、今季は右ウイングバックとして出場した第9節・清水エスパルス戦で3年ぶりとなるリーグ戦でのゴールを決めた。

 その攻撃好きな菅井が、このときは「失点をしないように」と、無失点で試合を締めくくる使命を、仲間たちと果たした。試合後に渡邉監督は、「もっと点を取らなければならなかった」と攻撃面での反省点を口にする一方、守備について言及する中で菅井の働きを称えた。「経験値の高い選手として、非常に素晴らしいゲームの締め方をしてくれたので、今日の勝ち点3は菅井の力によるところも非常に大きいのかなと思います」。名指しで評価された一人である菅井に、試合後のミックスゾーンで自己評価を聞く際に、監督のコメントも引用したところ……。返ってきたのが、冒頭の言葉だった。

「あまり覚えていなかったんですよね。うまくいったという実感もないし。もっともっとできると思うし、もっといい準備をしていかなければいけないと自分の中では感じているので……。やっぱり、監督の言っていることはジョークじゃないでしょうか」

 もともと彼は多くを語らないし、浮かれる様子も見せたことがない。それでも言えるのは、現役選手としてはチーム最古参、プロ15年目の菅井直樹は、発展を続ける仙台というチームにおいてこの日も大きな役割を果たしたということである。黙々と、しかし熱く。

文=板垣晴朗

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