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【ライターコラムfrom山形】山形で確かな成長を続ける茂木力也…「もったいない失点」を未来の糧に

2017.11.10

山形の守備を支える茂木 [写真]=J.LEAGUE

 88分にもぎとった阪野豊史の先制ゴールは、そのまま決勝点になるはずだった。しかしわずか2分後、カウンターから失点。明治安田生命J2リーグ第40節・大分トリニータとのアウェイ戦はドロー決着となった。モンテディオ山形は、前節の愛媛FC戦も2-1から95分に追いつかれ勝ち点2を失っている。既にJ1昇格プレーオフ進出の可能性が消えたとはいえ、個人としてもチームとしても来季につながる成長を積み上げていこうとしていただけに、同じ轍を踏んでの引き分けは痛恨だ。

 その失点の最後のシーンだけを切り取って見れば、茂木力也のクリアミス、あるいは彼とGK富居大樹との連携ミスに見える。一気に駆け上がった大分トリニータFW後藤優介のクロスをスライディングでクリアしようとした茂木の足からボールがこぼれ、詰めた大津燿誠に決められたのだ。富居も飛び出して来ていたが、対応を茂木に譲った形でゴールを許した。


 この試合後のオフ明け、全体のトレーニングを終えた練習場に、大和田真史コーチと長い長い時間をかけて話す茂木の姿があった。

「最後のシーン、もう少し冷静さや余裕があれば対応できたんじゃないか。スライディングしなくても良かったんじゃないかとか、後から見直すと対処法はいくらでもあった。あれがいい経験だったと言えるように今後やっていけばということも含めて、いろいろと話しました」

 さすがに「試合直後は辛かった」と苦笑いを浮かべたが、いつものように試合を数度見直し、オフ明けには冷静に分析と反省を終えていた。

大分戦は悔いが残る一戦に [写真]=J.LEAGUE

「そうしないと追いつかないと思ってスライディングしたんですが、予想したほどボールは前に行っていなくて、懐に入り込んでしまった。(後から見れば)スライディングしなくても追いつけていたし、スライディングしなければクリアできていたんじゃないかなと。富居さんの『キーパー!』という声は聞こえていたけど、もうスライディングに入っていたので、避けるのは無理だったかなと思います」

 ただし、あの「もったいない失点」は決して茂木個人の責任ではない。むしろその逆だ。木山隆之監督は「あれ、力也じゃなかったら戻れていない」と、言葉に力を込めて茂木の素早い判断と走力を評価した。それは選手をかばうためではなく、他にあるいくつもの問題点が見えなくなってしまうことを危惧するが故だ。終盤でリードを奪って残り時間が少ない中で、敵陣内でのマイボールのスローインを急ぐ必要があったのか。簡単にボールを失ってしまったのは何故なのか。前線でキープしようとする意識が「前がかり」の状態を作ってしまったこと。ハイボールの競り合いの後ろでカバーすべきDFがこぼれ球に食いついてしまったこと。最後に責任を負うべきGKの強さ。失点を回避できたかもしれないポイントはいくつもあったと指揮官は残念がる。そしてもちろん、こうした修正点は一つひとつ改善していくのだが、結局のところ、サッカーでは全く同じ場面が繰り返されることはない。1点リードで残り2分という状況が再び訪れたとしても、今回の反省点を生かせば勝ちきれるというものでもない。では、どうしたらリードした試合を勝ち試合として締められるのか。「トータルで言うと、『落ち着いて賢くやれよ』ということ」。グラウンドに目をやりながら、木山監督が言う。

「たとえチームのルールがどうあろうと、その試合を勝つために今必要なことを発信する人が必要かもしれない。『ここは全員マンツーマンだ』とか。それができていないから、ちょっとした変化にアジャストできない」

 常にゲームの状況と流れを読み、今、チームとしてどう戦うかを判断して具体的な指示を出せるクレバーなリーダー。茂木は21歳になったばかりだが、十分にその資質を備えたプレーヤーだと思う。浦和レッズユースからトップ昇格し、出場機会を求めて移籍した愛媛FCで木山監督と出会い、センターバックとして試合経験を積んだ。監督とともに山形に加入した今年は3バックの一角として開幕から先発出場を続け、4バックのサイドバックやボランチに入るなどユーティリティーぶりを見せた。途中、控えに甘んじた時期もあったが、ここ2試合はアンカーのポジションで起用。文字通りチームの真ん中にいる。ピッチを離れればいつも温和な童顔の21歳は、U-17ワールドカップを戦いベスト16まで進んだ経験を持つ。愛媛から山形への移籍は、もう一度あの青いユニフォームを着たいという思いから逆算した決断と言っていい。

 茂木は浦和からの期限付き移籍中だが、来季こそ山形が昇格を果たし、J1で戦える大人のチームになっていくためには、間違いなく必要な選手だ。大分戦の失点をめぐる検証を聞きながら、改めてそう感じたのである。

文=頼野亜唯子

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