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「ゆくゆくはキャプテンに」…順天堂大DF坂圭祐、湘南加入の決め手となったクラブの熱意

2017.09.25

来季の湘南加入が内定している順天堂大DF坂 [写真]=梅月智史

「お前、いいな」

 今年3月、順天堂大のDF坂圭祐が初めてJクラブの練習に参加した時のこと。湘南ベルマーレの曹貴裁(チョウ・キジェ)監督からそう声を掛けられた。


 ただ、その時は「最初だから、みんなに同じことを言っているんだろう」と謙遜して受け取った。それが本心だと分かったのは、もう少し先のことだ。

■坂はすごく素直で聞く耳を持っている

四中工の1年時には全国高校サッカー選手権で準優勝(坂は後列右から3番目) [写真]=Getty Images

 四日市中央工業高時代、坂は1年時の全国高校サッカー選手権大会でチームの準優勝に貢献。3年時には日本高校選抜に選出されるなど早くから注目を集める選手の一人だった。進学した順天堂大では、2年生の時に就任した元日本代表DFの堀池巧監督に才能を高く評価された。

 堀池監督は選手たちの自主性を尊重し、カウンター攻撃を主流とするサッカーからポゼッションサッカーへの転換を試みた。守備に関しても「偶然奪えたではなく、意図的に奪うこと」を意識づけた。その中で当時、坂については能力だけでなく、人柄の部分にまで言及していたことが印象深い。

「坂は頭が良くて気が利くので、後ろならどこでもできる。日常を見ていればすぐに分かるんですけど、すごく素直で聞く耳を持っているんですよ。そうやって自分でチャレンジしようとする選手はすごく伸びる。僕は自信を持って彼を起用しています」

 3年時からはキャプテンマークを巻くようになり、名実ともにチームの中心となった。身長174センチとセンターバックとしては小柄ながら、驚異的なジャンプ力や激しい体の寄せで相手FWに自由を与えない。対戦相手の選手が驚いていたのを聞いたことがある。

「順天堂大はセンターバック2枚とも高さがないから、こっちは前線に大きい選手を起用してロングボールを入れるという作戦だった。なのに、ことごとく坂選手に跳ね返されて全く歯が立たなかった。完敗でした」

 今夏、ユニバーシアード日本代表として優勝に貢献した後、来季からの湘南加入内定が発表された。坂は複数の選択肢があった中で、湘南を選んだのだという。

■ここなら選手としても人間としても成長できると思った

試合中にもキャプテンとしてチームメイトを気遣う姿が度々見られる

 湘南では3、4回の練習と2試合の練習試合に帯同。そこで早くも曹貴裁監督から評価を受けたが、その時は「社交辞令だろうと思った(笑)」と半信半疑だった。

 その後、他クラブの練習にも参加したが、加入クラブを決めるにあたって高校時代の恩師・樋口士郎監督に湘南を薦められた。坂自身も湘南の「成長できる環境」に魅力を感じていた。

「ここなら自分がサッカー選手としても、人間としても成長できると思った」

 湘南は曹貴裁監督の下で“走るサッカー”を展開。そのトレーニングの厳しさはJ屈指と言われる。「僕が参加した時はそれほどキツくない日でしたけど、それでも短時間で追い込んだので心肺的にキツかった」。また、「四中工の大大大先輩」である坪井慶介からもらったアドバイスも良い刺激になった。

「それまでセンターバックのポジショニングには自信を持っていたんですけど、坪井さんによく指摘されて、自分はまだまだだったんだなと思えたし、もっと吸収して成長したいと思いました」

 坪井も179センチと上背に恵まれているとは言えないが、スピードや判断力など他の要素で補い、日本代表にまで上り詰めた選手だ。そんな彼もまた、自身の成長を求めて湘南に加入した一人。意識の高いチーム内の競争が坂にとっては新鮮だった。

 そして、湘南から感じた「本気度」が決断の決め手となった。

「7月の(「アミノバイタル」カップ2017第6回関東大学サッカートーナメント大会)国士舘大戦をチョウさんがわざわざ会場まで見に来てくれて、『(湘南に)来いよ』と言ってくれました。また、スカウトの牛島(真諭)さんは順天堂大のさくらキャンパスまで何回も熱心に足を運んでくれて。それで『本気やったんやな』と感じました」

 オファーをもらった際、牛島から掛けられた言葉に心を揺さぶられた。「牛島さんからは『遠藤航選手(現浦和レッズ)のようになってほしい』と言われました。攻撃面ではドリブルで運ぶ、縦パスを入れるなど前への推進力を見せてほしい。守備面では、湘南の3バックは3人のうちの1人が前線に上がっていって2バックになるケースも多いので、そこで対人の強さを発揮してほしいと」

 湘南からの期待はプレー面だけにとどまらない。「ゆくゆくはキャプテンとしてチームをまとめるくらいの選手になってほしいとも言われました。そうやって人間性の部分まで評価してもらえたのはすごくうれしかった」

 湘南で育ち、ファン・サポーターから愛されて大きく羽ばたいていった遠藤の名前を出して期待を掛けるのも、クラブの熱意の表れ。坂には十分に伝わった。

アミノバイタル杯決勝はけがのためベンチ外。スタンドからチームを鼓舞した [写真]=池田みのり

 プロ生活のスタートまであと約4カ月。坂にはまだやり残したことがある。順天堂大でのタイトル獲得だ。チームは今シーズンのアミノバイタル杯で優勝を果たしたが、坂は負傷で準決勝と決勝を欠場している。

「(アミノバイタル杯の優勝は)チームとしてはうれしかったけど、個人的には何もうれしくなかったので……。今年は関東大学選抜とユニバ―シアードで優勝できて、順天堂大でも優勝したいっていう気持ちが余計に強くなっているんです。もうこれからは進路のことを気にせずサッカーに集中できるので、優勝だけを目指して取り組んでいきます」

 JR東日本カップ2017第91回関東大学サッカーリーグ戦では、第13節終了時点で首位筑波大と勝ち点1差の2位。J1昇格に向けてひた走る湘南と同じく、坂は自分の場所で今を全力で戦っている。チームの勝利のために、その先にある最高の歓喜を呼び込むために。

文=平柳麻衣

※『サッカーキング』では2016シーズンより湘南ベルマーレのチョウ・キジェ監督の表記方法につきまして、クラブ側と相談の結果、「曹貴裁(チョウ・キジェ)」とすることにいたしました。

By 平柳麻衣

静岡を拠点に活動するフリーライター。清水エスパルスを中心に、高校・大学サッカーまで幅広く取材。

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