2017.09.21

【ライターコラムfrom清水】代表入りも現実味を帯びてきた急成長株・松原后…そのポテンシャルは本物か

松原后
清水不動の左SB・松原后 [写真]=Getty Images
スポーツ専門誌の編集者を経て、95年からフリーのスポーツライターに。静岡に拠点を置き、県内のチームを中心に取材を行っている。

 今季J2から復帰した清水エスパルスがJ1に残留できるかどうかは、まだ予断を許さない。だが、若い選手たちは着実に成長を見せ、チームの底上げが少しずつ進んでいることは間違いない。中でも昨年から成長が著しく、清水の中で「もっともA代表に近い選手」とささやかれ始めているのが、左サイドバックの松原后だ。

 プロ3年目の21歳で、J1ではまだ32試合出場2得点(9月20日現在)という選手だが、左利きで高さもある(身長182cm)攻撃的な左サイドバックという特徴は、日本では貴重な存在。まだ荒削りながら身体能力も高く、潜在能力の高さが周囲の期待を集めている。

 父親はかつて清水でプレーしていた松原真也氏で、叔父の松原良香氏は元アトランタ五輪代表というサラブレッドでもあるが、特にエリート街道を歩んできたわけではない。中学時代はジュビロ磐田のジュニアユースでFWとしてエース的な存在だったが、あえてユースには昇格せず、浜松開誠館高校に進学。同校でも当初はFWを務めていたが、FWとして年代別日本代表に選ばれたことはない。

 そして高校3年時に、自ら青嶋文明監督に志願してDFに転向。プロとして成功するには、FWではなくDFとして勝負したほうが良いと考えたからだった。その可能性がスカウトの目にも止まって、2015年に高卒で父と叔父の古巣・清水に加入。そこからは左サイドバックに専念して急成長を見せ、昨年の途中からレギュラーポジションを獲得。今季も、第26節の川崎フロンターレ戦で出場停止(警告累積)になるまで、フィールドプレイヤーとしてチームで唯一フルタイム出場を続けてきた。

浜松開誠館高校から清水に入団した [写真]=Getty Images

 そんな松原后のどこがすごいのか。まずフィジカル面から注目していくと、土斐崎浩一フィジカルコーチが指摘したのは次のような一面だ。

「1試合の中で走る距離も多めですが、その中の高いスピードで走る割合が高くて、チームのトップクラスなんですよ。瞬間的に速い動きをする回数も多いです。また、それを試合終盤でも出せるというのも彼の特徴ですね」

 確かに試合終盤でも、彼がチャンスと見たら自陣深くから相手ゴール前まで猛スピードで一気に上がっていく場面をよく目にする。第2節アルビレックス新潟戦で90+3分にJ1初ゴールを決めた時も、まさにそのパターンだった。そうした走力に関しては、すでにJ1でもかなり高いレベルにある。

 もう一つ、「倒れそうで倒れない粘り腰というか、バランスを崩しかけても自分で立て直してもう一度足が出るという強さもありますね」(土斐崎コーチ)という面も、松原の大きな特徴と言える。それが、守備で逆をとられて抜かれかけても、すぐに立て直してスライディングで止められるといった1対1の強さにもつながっている。

「普通の選手はスタンスをあまり広げないほうが次の足は出しやすいんですが、彼はスタンスを広げていても、そこからまた次の足をスッと出せる強さがある。かなり無理が利く選手だと思います」と土斐崎コーチは補足するが、小林伸二監督も「球際でよく足が出る」と松原の特徴を評価している。相手選手との駆け引きなどはまだ発展途上だが、他の選手がうらやむような身体的特徴を備えている。

 その粘り腰は攻撃にも生かされていて、ドリブルが相手の足に引っかかって一度ゴチャゴチャとなっても、強引にボールを前に持ちだして突破してしまうという場面が目立つ。クロスに関しても、ボールを縦に大きく持ちだして軸足(右足)がボールから多少遠くなっても、右足でしっかりと踏ん張って強いボールを折り返すことができる。

 日本人選手は、アジリティには優れているが強さが足りないと言われることが多いが、松原は強さを伴ったアジリティを備えている。それは海外でも通用する要素の一つと言えるだろう。

 クロスの精度や安定性に関してはまだ課題があるが、最近になってグラウンダーのクロスによるアシストが増えてきたことは、ゴール前の状況が見えるようになってきた証拠でもある。本人も「J1のレベルでも自分が中を見てイメージした通りにアシストできる場面が増えてきたのは大きいと思います。相手がクロスに対して足を上げた時に、その股間を通すチャンスがあるので、グラウンダーのクロスというのも意識しています」と自らの成長を実感している。

松原のクロスは今や清水の大きな武器に [写真]=Getty Images

 メンタル面に関しても、相手が誰であっても物怖じしない向こうっ気の強さを、加入当初から見せてきた。「相手が年上でも代表でも関係ないというのは、子どもの頃から変わらないです。とにかく目の前の相手に絶対負けたくないという気持ちでスイッチが入っちゃいます」と本人も言う。

 高校時代のポジション転向にも表われているように、上昇志向も非常に強く、まだほとんど試合に出ていない頃から「代表に入って海外に行く」と言い続けてきた。初めはそれを聞いて「いや絶対無理だろと笑う人もいました」と言うが、今となっては笑う人などどこにもいない。

「強い想いがないと上には行けないですからね。自分で口に出していくことで、それに向かっていけると考えています。だから何を言われも気にしてなかったし、言ったからにはしっかり成し遂げるという気持ちでやっています」

 フィジカルやメンタル面の資質は、代表や海外を目指すという意味でも申し分ない。さらに伸ばしていける伸びしろもある。そこは血筋もあるかもしれないが、後から獲得するのが難しい要素をすでに備えているのは大きな強みだ。

 あとは技術と経験をより積み上げていけば、さらに大きくスケールアップしていけるだろう。清水サポーターの期待は日に日に高まっているが、松原自身は周囲の人よりも高いところを見据えながら、今の自分の足元を見ることも忘れずに日々精進を続けている。

文=前島芳雄

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