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【コラム】“ボールは友達”を地でいく中島翔哉。「楽しむ」思いを胸にポルトガルへ

2017.08.27

横浜FM戦でのプレーを終えてポルトガルへ旅立つ中島翔哉 [写真]=上野太郎

 別れの一戦で手にした時間は、アディショナルタイムを含めて15分間ほどだった。「今日で最後だから、長く出られるとは思っていなかった」。それでも彼はいつも通り、遊び心いっぱいにボールと戯れながらゴールをめざした。

 26日の明治安田生命J1リーグ。FC東京の中島翔哉は横浜F・マリノス戦で80分からピッチに立った。この夜を区切りに、ポルトガル1部リーグのポルティモネンセへと移籍する。先制され、ギアを上げた。87分。縦パスを呼び込んで1タッチで前向きにターン、反則を誘った。89分。ペナルティーエリア右でパスを受け、中に切れ込むと見せかけて外へ。目の前の相手を外し、右足でループシュートを放った。柔らかな軌道はしかし、バーをたたいた。


「次、日本に帰って来る時は、あれを決められる選手になっていたい」。横浜FMの同年代・前田直輝らの握手、同僚のピーター・ウタカの抱擁、そしてサポーターの「ショーヤ」コールに送り出され、試合後のミックスゾーンに現れた中島は覚悟を口にした。

 もともと海外志向は強かったが、どこでもよかったわけではない。代理人らと熟慮を重ねた末に決めた移籍だ。まだFC東京での出場もおぼつかなかった2年前、将来性を買われて中欧下部リーグのクラブから打診を受けた。今回も「興味を持ってくれたクラブは他にもあった」。J1で残すべきキャリア、どうすれば自分らしく成長できるかを見定め、欧州でも特に技術を重視する国に新天地を求めた。リオデジャネイロ・オリンピック代表の背番号10。小刻みなタッチで相手の懐をすり抜けるドリブルは、164センチ、64キロの小柄な体をむしろ長所に変える。「本当に攻撃的で、失点を恐れず前に出るスタイル(がポルティモネンセ)。試合を見てしっくり来たし、自分にすごく合うと思った」

 自らに言い聞かせるように繰り返した言葉は「サッカーを楽しむ」だった。

 意気込みを。「どこでやっても、サッカーを楽しみたい。サッカーなんで」

 楽しめない時期も来るかもしれないけれど。「ないと思います」

 試合に出られなくなったら。「それはもう、FC東京で経験している。その時も(練習であっても)サッカーをすれば、変わらず楽しめる。楽しむため、向こうに行くので」

 そんなメディアとのやり取りを見守るクラブスタッフが、苦笑しながら、ふともらした。「アイツ、本当に『キャプテン翼』なんですよ」

 例えば開幕前の沖縄合宿。ひたすらに体を追い込むクロスカントリーが終わる。選手が一様にへたり込むなか、中島は一人、「ちょっと、蹴ってもいいですか」と立ち上がって周りを驚かせる。ボールさえ手なずけていられれば、それで幸せ。23歳は、ボールは友達、を地でいく。

 文化の違い、環境の違い、言葉の違い。ピッチ外でも様々な壁が待ち受ける海外移籍。中島も悩むだろう。それでも彼なら、結局は純粋にサッカーと向き合い、楽しんでしまうのかもしれない。プレーする者が心から楽しめれば、見る者も心から楽しめる。そんな光景を想像したくなる。

 そう、キャプテン翼の世界のように。

文=中川文如


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