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【ライターコラムfrom川崎】運ではなく、技術の問題…阿部浩之が向き合い続けた“1本のシュートの大切さ”

2017.08.16

鹿島戦で鋭いシュートを決めた阿部浩之 [写真]=J.LEAGUE

 ホーム等々力陸上競技場に、首位・鹿島アントラーズを迎えた後半。

 前半アディショナルタイムに失点を喫し、ハーフタイムにネジを締め直したであろう相手の出鼻をくじく一撃が、阿部浩之の一振りから生まれた。


 立ち上がりの46分、エウシーニョが鮮やかに右サイドの局面を突破すると、サイドから中央に向けてナナメのクサビを打ち込む。それを落としたのは、左サイドから中央に絶妙のタイミングで中央に侵入していた登里享平だった。

「エウソン(エウシーニョ)がうまい具合に出してくれたので。ワンタッチで打てるように阿部ちゃんに落としました」(登里)

 丁寧な落としに走り込んでいた阿部が、それをダイレクトで左足で合わせる。抑えの効いたコントロールショットは、GK曽ヶ端準も届かないゴール右隅のサイドネットに綺麗に吸い込まれていった。ともに大阪出身で、プライベートでも仲の良い登里からのお膳立てにゴールシーンを振り返る阿部の言葉も滑らかだ。

「ノボリ(登里)から珍しくいい落としが来た(笑)。ノボリの右足で、柔らかいパスが来た。これは決めなあかんなと。入り方も左のほうが打ちやすかったので、あの角度だと」(阿部)

阿部のゴールを称える登里
[写真]=JL/Getty Images for DAZN

 実はこの鹿島戦前日の全体練習後、阿部が一人残ってシュート練習に励む姿があった。金通訳にパスを出してもらいながら、セカンドGKである新井章太が構えるゴールマウスに向かってシュートを打ち込み続ける。ただ数を打つのではなく、毎回打つエリアを変えながら、コースギリギリを狙ったシュートを放っていた光景が印象的だった。

 思えばJ1リーグ再開となった第19節のジュビロ磐田戦、彼はミドルシュートが2度連続してゴールポストに弾かれている。1度ならず2度もポストに嫌われたのならば、「この試合は不運だった」として自分を納得させてもおかしくない。しかし、彼は違った。

「両方、ポストの外側に当たっているので。(ポストの)内側に当たって入らなかったらしゃあないと思うけど、(外側なので)自分の精度(の問題)もある。磐田も最後の最後はちゃんと寄せていたし、コースもあんまりなかった」

「運が悪かった」とは認識せず、あくまで自分の技術の問題として向き合っていたのが阿部なのである。続く第20節のFC東京戦でも、決定機はポストに嫌われている。前半終了間際に巡ってきた小林悠からの絶好の折り返しを流し込んだが、またもポストの「外側」に弾かれたのだ。そして後半の立ち上がりにチームは失点。終了間際に追いついたものの、試合後は自らの責任を口にしていた。

「ああいうのは決めていかないといけない。自分のシュートで試合が左右するし、それを感じるゲームだった。それ(運が悪かった)で片付けたくはない。それを次に生かさないといけないし、もっともっとシュート練習をすることですね。一本の大事さを感じ切れるようにしたい」

 そしてリーグ再開後の3試合は無得点。

 ワントップとして出る以上、ゴールがないことの責任も感じていたのだろう。何より、自分のシュートがポストに弾かれたのは、運ではなく、技術の問題であるとして彼はそこに向き合い続けた。ゴールポストの内側にも当たることなく、サイドネットに吸い込まれていった鹿島戦のあのゴールは、阿部らしさの賜物と言えるのかもしれない。

移籍1年目からチームに定着している [写真]=J.LEAGUE

「やっと決まってホッとした。勝ちにつながるゴールを取れて良かった。ただこれだけゴールを取れたのは初めてなので」

 これが今シーズンの9ゴール目。キャリアハイを更新した阿部浩之は、1本のシュートの大切さを噛みしめながら、さらに自分の技術を高めていくことに向き合っていく。

文=いしかわごう

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