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川崎戦の布陣変更は失敗だったのか。大岩監督の挑戦で見えた鹿島の伸びしろ

2017.08.15

川崎戦で敗れ、大岩監督は就任後の不敗記録が9戦で途切れた

 あえて敗者にスポットを当てたい。

 13日の明治安田生命J1リーグ、川崎フロンターレが鹿島アントラーズを3―1と打ち砕いた一戦。攻守とも縦に縦にベクトルが向かった川崎の、いい面ばかりが目立った90分間だった。


 もっとも、鹿島が鹿島らしくなかったのも事実。逆襲が十八番だ。敵地でパスを回されるのは想定済みだから、いつも通りに前半を耐え忍べていたら勝機は巡ってきたかもしれない。

「異変」は40分頃に起きた。

 大岩剛監督が大きな身ぶり手ぶりで指示。ボランチの三竿健斗を最終ラインに下げ、代わりに西大伍山本脩斗を前にせり出させた。チームが頑なに貫く伝統の4バックから、3バックへの移行。

 決断は裏目に出た。ボランチ周辺に隙間が生じ、そこを使われて前半アディショナルタイム、後半開始早々に失点。72分にはお株を奪われるような逆襲から3点目を献上した。

 布陣変更の意図やいかに。大岩監督の記者会見に耳を傾ける。「支配される時間が長く、変化を与えたかった。ただ、やり慣れないせいか、ボールをうまく動かせなかった。やっぱり、こういうレベルの高いゲームではなかなかうまくいかないということを、僕自身、考えさせられました」。練習で試してはいたが、選手が「戸惑っていた」とも振り返った。結果的に3バックは小さくない敗因となった。

 でも、この挑戦と失敗、長い目で見れば前向きにとらえていいと思う。

 与えたかった「変化」について、大岩監督は「前線に人数をかけたかった」と説明した。後手に回っていたサイドの選手配置を高めに設定し直し、相手の裏を取る狙い。後半に入ると、3バックの並びを入れ替えて中央の三竿健を右へ。組み立てに秀でる三竿健を、より押し込まれていたサイドに移し、やはり守勢を攻勢に反転させようと試みた。

 攻められて守りを固めるのではなく、攻め返すことでピンチの芽を摘む。目には目を、歯に歯を、の発想。唯一の得点は三竿健が右から入れたクロスによってもたらされた。

 1カ月前、引き分けたFC東京戦後の記者会見がよみがえる。大岩監督は言っていた。「堅守速攻といううちのカラーを持ちながらも、もっと攻撃的に、もっと得点に固執して、もっとリスクを冒してもいいと思っている」。選手としてコーチとしてクラブに籍を置いて15年目の45歳が発した言葉なだけに、意外で、興味深かった。

 4―4―2の堅守速攻は不変。勝利から逆算して現実的に事を運ぶ。そうやって国内19冠を積み上げ、昨年末のFIFAクラブワールドカップで準優勝も果たした鹿島の何たるかを、大岩監督は知り尽くしている。知り尽くしたうえで妥協しない彼が「もっと攻撃的に」と描いていた形の一つが3バックなのだろう。名古屋グランパスでアーセン・ヴェンゲルの薫陶を受け、ジュビロ磐田で黄金期を過ごした大岩監督だ。理想は高い。

 就任後の不敗記録が9戦で途切れ、試合後のミーティング。「慢心があったかも」と自身の責任を認め、選手に語りかけたという。「原点に立ち返って、チーム一丸となって戦おう」

 足元が揺らいでいないのは、さすが。だからこそ、もう一度、いつかどこかで再挑戦してみてほしい。らしさを失わないまま、勝負どころで練り上げた3バックに転じて波状攻撃を仕掛けられるようなチームになったら。持ち前のしたたかさに、押しの強さが加わったなら。

 鹿島の新たな可能性が広がる。

文=中川文如

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