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【ライターコラムfrom広島】逆転残留なるか…17位広島、言葉でサッカーを伝える指揮官とともに改革へ

2017.07.28

広島を指揮するヤン・ヨンソン監督

 大きな賭けといっていい。だが、賭けに出るのは不可避でもあった。人間も組織も時に、ギャンブルに近いチャレンジに出ないといけない場合がある。

 サンフレッチェ広島が降格圏の17位に沈むという苦境は誰も想像できなかった。2012年~15年まで続いた黄金期が終わることは予想がついていたから変化は必然だった。森保一前監督も気づいていたのだが、その変化の過程を彼は漸進主義をとった。過激に、大きく変化させるのではなく、ゆっくりと着実に。だが、時代の流れは想像以上に急進的であり、期待して獲得した選手が結果を出せない、あるいは彼らの能力を生かしきれないという事態も状況の悪化に拍車をかけた。17試合を終わってわずか2勝。もはや指揮官の退任以外に、チームの流れを変える手立てはなかった。


 残された時間は少ない。こういう場合、内部事情をよく知るコーチを昇格させて対応するのが一般的だ。今季は大宮アルディージャや鹿島アントラーズがこのパターンでチームを好転させているし、2002年の広島も同様の決断を行っている。だが、2017年の広島はあえて、その常識に逆らった。この苦境を脱するには、今までの流れを継承するというよりも、全く違う発想が必要だという判断なのだろう。

母国スウェーデンやノルウェーで指導者キャリアを重ねた [写真]=Ombrello via Getty Images)

 新監督に就任したのは、ヤン・ヨンソン。1993年にコーチ兼選手として広島に在籍したことのあるOBで、ノルウェーで2部に沈んでいたクラブを4年で1部優勝を成し遂げた実績を持つ。アーセナルの名将アーセン・ヴェンゲルとの親交も深く、理想のスタイルも少ないタッチでのパスを交換し、主導権を握ってゴールを陥れる形だ。そういう意味では広島が2001年、ヴァレリー・ニポムニシを招聘してスタイルの大改革を行って以来の流れを継承する人選とはいっていい。とはいえ、ミハイロ・ペトロヴィッチ→森保一と続いた3-4-2-1は捨て去り、4-2-3-1を導入。引いてブロックをつくる守備ではなく「ラインを高く設定したい」と語り、ゾーンに入ってきた時の厳しいプレスを徹底させた。チャレンジ&カバーなどの基本的なことを繰り返して指導することも、外から来た監督ならでは。ペトロヴィッチ来日当時を思い出した。

 驚いたのは、その指導スタイルだ。就任以来、ほぼ毎日のようにミーティングが繰り返される。トレーニングの間も頻繁にプレーを止め、その場でポジションや判断、プレーのバリエーションなどを選手に伝え、逆に選手からの言葉も求める。練習が終わった後も選手たちを捕まえ、長い時間をかけてコミュニケーションを取る。森保前監督も選手との会話を大切にする指導者ではあったが、ヨンソン監督もその系譜ではある。ただ、彼ほど「座学」というか、言葉でサッカーを伝えることを大切にする指導者も珍しい。筆者は第2代監督のビム・ヤンセン以降、9人の監督の指導を見てきたが、10人目であるヨンソンが最もプレーを止める回数が多い。初代のバクスターにしても、ここまでではなかったと古くからのスタッフは指摘する。

 その「指導好き」の象徴は2017JリーグYBCルヴァンカップの対FC東京戦、彼にとっての初陣で見えた。前半、ベンチスタートのメンバーがベンチに座っている側に指揮官が立ち、ピッチを見ながら一つひとつのプレーを身振り手振りで「解説」していたのだ。もちろん、重要な公式戦ではあるのだが、指揮官にとっては重要な教材の一つ。ピッチ内で起きる現象は、生きた教科書である。それを後に映像化して検証するのではなく、リアルタイムで見ながら選手たちと「会話」する中で、やるべきことを感性に訴えかけようという手法だ。

途中出場の選手には念入りにポイントを伝える [写真]=Getty Images

 一方でそうせざるを得ない事情もある。就任して選手たちと共にトレーニングを始めたのは7月18日。リーグ再開の30日まではわずか12日しかない。休息を除けば実質は10日。この間に監督の考えるサッカーを攻守ともに叩きこむのは、どんな名将でも不可能だ。身体を動かせる時間は限界がある。だったら、頭を使おう。言葉で伝えよう。ミーティングを入れて毎日2.5~3時間のトレーニング時間を設定し、その後はコーチ陣と徹底して議論をかわす。話して、話して、話して。それしか、改革の道はない。そんな信念も新監督からは感じる。

 果たして広島とヨンソンの挑戦は実を結ぶのか。それは、わからない。FC東京戦でも、タイトな守備などの成果はあったが、結果は0-1で敗戦。攻撃のトレーニングがほとんどできておらず、選手たちの発想に頼らざるを得なかった状況では致し方ないとはいえ、多難な前途を予感させた。

丹羽ら新戦力の活躍も大事になる [写真]=Getty Images

 それでも指揮官は「残留を果たすのは難しいと思ってはいない」と語る。記者会見で「攻撃的なサッカーがやりたい」と語った彼に「それができるチーム、選手たちだと思っているか」と尋ねると、即座に「そう思っている。このチームのクオリティは高い」と言い切った。FC東京戦で温存したパトリックも、サガン鳥栖戦では先発に名前を連ねるだろう。トレーニングでも、彼がいるといないとでは、破壊力が全く違う。他にも、AFC U-23選手権予選に出場するためチームを離れていた森島司もいるし、ネイサン・バーンズもコンディションが上がってきた。負傷リハビリ中のミキッチの復帰も近そうだ。

「巻き返していコーネ」

 7月17日のファン感謝デーで、前十字靱帯断裂からの復帰を目指している佐々木翔が広島オリジナルの焼肉素材である「コーネ」にかけて意気込みを示した。その言葉が現実と化すことを、全広島が祈っている。

文=紫熊倶楽部 中野和也

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