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【中溝康隆J連載】90年代ロン毛、2000年代坊主、02年へアカラー…髪型で振り返るJリーガーヒストリー

2017.07.19

Jリーガーの髪型も時代の流れとともに、流行は変化し続けてきました [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

「サッカーの前園というのもさ、ピアスするなら髭くらい剃れってんだ。ピアスぴかぴかさせてさ無精髭じゃあね。何がマッチョなんだ、あんな男」

 20年以上前に『サンデー毎日』で作家・村上龍と対談した石原慎太郎の発言である。つまり、あの昭和のガンコ親父日本代表みたいな石原さんも無視できない勢いが90年代中盤の前園真聖にはあったわけだ。


 96年3月、マレーシアで行われたアトランタ五輪アジア最終予選。キャプテンとして日本代表を28年ぶりの本大会出場に導いたことで、サッカーファンを飛び越え世間的にも有名になり、夏の本大会でも最強ブラジル代表を敗る“マイアミの奇跡”で人気はピークに達する。

 キレキレのドリブルに私生活ではピンクのポルシェに乗るゾノ。もちろんテレビ業界でも売れっ子となり、中田英寿を従え「ヒデ、ラーメン食いてぇなあ」と疾走する日清ラ王。「愛してる人と、ピーしてる。」というまだ携帯電話が珍しかった時代のアステルPHS。ドヤ顔の決め台詞「前園さんの言う通り」が話題になったマンダムのウォーターヘアクリーム。そして今も語り継がれる公共広告機構の「いじめ、カッコ悪い」と数々のCMに出演した。

 あの“キングカズ”こと三浦和良は幅広い世代に人気の正当派スターだったが、前園はファッション誌に登場する回数も多く若い男性人気が高かった。ピアスに無精髭、そして長髪。いや、あえて懐かしい言葉で言うとトレードマークはロン毛である。今の『ワイドナショー』で松本人志にイジられている姿からは想像できないモテキャラだった俺らのゾノ。90年代の日本三大ロン毛と言えば、木村拓哉、江口洋介、そして前園真聖である。

 90年代の「Jリーガー=ロン毛」というイメージは、やはり前園の影響力が大きかったように思う。ラモス瑠偉や三浦知良も独特な髪型だったが、彼らは個性的なキャラ過ぎて他の人には真似しにくい(これはのちの中田英寿や本田圭佑にも同じことが言える)。けど、隣のやんちゃな兄さんゾノならいけそう。というわけで当時の若手Jリーガーにはロン毛が多かったし、高校サッカー部にも前園風ヘアにピアスが何人かいた記憶がある。

2000年代は「オシャレ坊主」と金髪がトレンドに

2002年日韓W杯の日本代表メンバーは大半が金髪だった [写真]=Getty Images

 この流れが変わったのは90年代が終わり、00年代に突入したあたりだ。坊主頭の小野伸二の活躍である。18歳で出場した98年フランスW杯ではまだ天然パーマの短髪だったが、01年にはオランダのフェイエノールトに移籍して、UEFAカップ優勝に大きく貢献。その天才と称される異次元のボールコントロールと天真爛漫な笑顔でアクエリアスのテレビCMにも起用され、全国区のスター選手へとなる。その後の小野は時期によっては髪を伸ばすが、同じ79年組のストライカー高原直泰や快速DF坪井慶介も一時期スキンヘッドに近い坊主頭だった。

 一昔前は野球部の束縛の象徴でもあった坊主が時代の変化とともにオシャレ坊主へ。何よりロン毛に比べたら坊主は格段に手入れがラクだ。もちろんヘディングしても乱れないし、意外に清潔感があると女子ウケもいい。

 ちなみに98年W杯で中田英寿は直前まで盟友・前園の代表復帰を望んでいたが、岡田武史監督はヒデに何かアクシデントがあった時は小野の才能に懸けようと思ったとのちに明かしている。もしもこの時、岡田さんが小野ではなく前園を選出していたら、その後のJリーガーヘアヒストリーも大きく変わっていたかもしれない。たかが髪型、されど髪型。思えば、02年日韓W杯は金髪の稲本潤一や鈴木隆行、赤毛モヒカンの戸田和幸のヘアスタイルとともに記憶している人も多いのではないだろうか?

 そして、2017年。Jリーグ選手名鑑の表紙を見ると、中澤佑二のボンバヘッドや中村俊輔のマッシュルームカットは健在だが、全体的に坊主でも長髪でもないノーマルなショートやミディアムヘアが目立つし、髪の色も落ち着いている。海外組の香川真司や長友佑都は同世代の会社員のようないたってノーマルなヘアスタイルである。昨今、その髪型が話題になるJリーガーは浦和レッズの槙野智章くらいだろうか。

 プロなんだから見てくれじゃなくプレーでアピールすればいい? いやプロだからこそ、髪型も含めたキャラ作りから勝負だと思う。同僚選手も、街行くお兄ちゃんもみんな真似したくなる髪型。そう、15年前の日本にソフトモヒカンブームを巻き起こしたベッカムヘアのようにだ。

 手元に興味深いデータがある。04年におもちゃメーカーのバンダイが実施した『子どもの憧れのスポーツ選手ランキング』アンケート。ここで1位松井秀喜、2位イチローに次いで3位にランクインしたのがなんとベッカムである。いつの時代も子どもたちは分かりやすくカッコいいモノに憧れるわけだ。

 90年代のNBAテレビ中継では、よくコートにいる全員がスキンヘッドという異様な光景が見られた。バスケットボール界の伝説の男、マイケル・ジョーダンの影響である。Jリーグにも、そのプレースタイルだけじゃなく、髪型まで思わず真似したくなるようなスーパースターの出現を待ちたい。

文=中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)

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