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【東京五輪・2020への予習ノート 】J2を席巻する「浅野拓磨2世」…水戸で花開いた“韋駄天FW”前田大然/第6回

2017.07.16

水戸で飛躍する前田大然 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 高卒1年目のシーズンに指導していた松本・反町康治監督は、現水戸ホーリーホックのFW前田大然を「浅野拓磨2世」と称した。俊足を武器にするストライカーになぞらえた形だが、確かに前田は速い。かなり速い。J2最速かもしれないし、J1の選手を含めても最速候補だろう。

 今季のプレーぶりは目覚ましい。開幕時点ではその速さを活かせるスーパーサブ候補と見込まれているようだったが、結果を出しながら自らの地位を押し上げていった。FW林陵平という高さがあってタメも作れる“相棒”がいたのも大きかった。二人は相乗効果も感じさせる試合内容でJ2の前半戦で合計17得点(林10得点、前田7得点)を記録。躍進を見せる水戸における双輪の牽引車として機能してきた。


 前田は1997年10月20日、大阪府生まれ。強豪の街クラブ・川上FCから越境して山梨学院高校へと進み、2016年シーズンから松本山雅FCにルーキーとして加入した。松本では反町監督もその個性を買って開幕戦を含めて9試合で起用しているが、なかなかフィットしないまま無得点に終わってしまう。それを受けた2017年シーズン、前田は水戸へ期限付き移籍。そしてブレイクに至った。

 言葉で「スピードを活かす」と言ってしまうと何だか陳腐にも聞こえるのだが、アバウトに見えるロングボールでも、林の高さと前田の速さで脅威になってしまう水戸の攻めは観ていても面白い。何より「まずゴールを考えている」と言う前田のアグレッシブな姿勢(と林の余裕あるプレー)が、そのエンタメ性を高めてくれている。強烈な野性を感じさせるストライカーぶりは、それだけで一見の価値がある。水戸がカウンターに入ったとき、本拠地ケーズデンキスタジアムのお客さんのボルテージがグイッと上がるようになったのは、この前田がいるからにほかならない。

 水戸を率いる西ヶ谷隆之監督は自身も認めるとおり、「育成畑」出身の指導者だ。ユース年代や大学生を指導してきた経験から、「課題はたくさんあるのは分かっているが、『今はまだ要求しないでおく』とか、そういう幅は取ってある」という。こうした西ヶ谷監督のあえてファジーな部分を残す、さじ加減のある指導が、前田にはこのやり方が肌に合ったのだろう。個性を出す、活かすことを求められる中で自信も蓄え、試合中の表情まで変化が見られるようになってきた。

 誤解のないように補足しておくが、「育てるために若手を使うことはない。若手を使うのは勝つためだし、勝つための要求をしている」と指揮官が言うように、別に前田に対する要求が“ぬるい”わけではない。むしろ選手に対して、勝敗への強い責任を求める姿勢は一貫している。後半戦の幕開けとなった8日の熊本戦後、前田は敗戦の責任を自分に向けるような言葉を残しているのだが、それも西ヶ谷監督が自覚を促してきたからこそだろう。得意なプレーを出すことを許されるということは、得意なプレーで結果を出す責任があるということだからだ。

 一巡したことで、対戦各チームが「前田対策」を採ってくることも増えるだろう。前田自身、「全然ラインを上げてこなかったり、『あ、警戒されているな』と感じることは増えている」と言う。警戒された上でなお結果を出せるならば、それは自然とホンモノの証明にもなる。「活躍していけば、必然的にそういうところもあると思っている」という日の丸を付ける未来があるのかどうかは、J2後半戦において「対策」を打ち破るだけのモノを前田大然が出せるかで、自ずと見えてくることになるだろう。

文=川端暁彦

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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