2017.06.15

【ライターコラムfrom千葉】巻き返しのために“火をつける”…GK山本海人がピッチで示したチームへの鼓舞

山本は第18節の福岡戦でおよそ1年半ぶりとなった公式戦出場を果たした [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
千葉県在住のフリーライター。Jリーグ(ジュフユナイテッド市原・千葉と浦和レッズ)をメインに取材活動をし、県内アマチュアスポーツも追いかける。

 J2リーグ第18節――。首位を走るアビスパ福岡との一戦は、ジェフユナイテッド市原・千葉にとって負けられない戦いだったが結果はスコアレスドローで終わった。

 この試合で今シーズン、ヴィッセル神戸からチームに加入してきたGK山本海人が公式戦デビューを飾った。初陣を勝利で終えることが出来なかったが、背番号29番の顏からは充実感が窺えた。

「(ドローという結果は)残念でしたが、次に繋げられたことは良かった。後ろから見ていても、みんな落ち着いていたし、自分たちのリズムでサッカーをしようとしているのが分かったので安心しました」

 ただ、ここまでの17試合は佐藤優也がゴールマウスに立ち、今シーズンのジェフ千葉のスタイルである“ハイライン&ハイプレス”という戦術を最後尾から支えてきた。最終ラインの裏の広大なスペースのカバーを徹底し、単にクリアーするのではなく、リスクを恐れず、リベロのようにビルドアップに参加。まさに11人目のフィールドプレイヤーとしての働きが求められる。足元の技術もさることながら実戦経験での積極性と瞬時の判断力が求められる役割だけに、怪我や累積以外でのGKの変更は小さくはない驚きだった。

 しかし、その理由をフアン・エスナイデル監督は「(試合に向けて)全員が準備をしておかなければいけない。海人は常に準備をしていた。彼は経験もある選手。同じように機会を与える。この時期が一番良いと思い起用した」と、語った。

 リーグ戦118試合に出場してきた今年32歳を迎えるベテランGKは、足首の怪我の影響と難易度の高い戦術をゼロから必死になって身に沁みこませようとするが、頭では分かっていても、これまでのキャリアで培ってきた経験との摺り合わせを中々消化できずにいたが、それと同時にレベルの高いプレーを求められることで大きなやりがいも感じていた。

「ここだったら打たれそうという感覚が先行してしまって、勇気をもって前に出て行くことを躊躇してしまい、シーズン当初は難しさを感じました」

“もっと出来るはず”という焦燥感だけが先走る中で、妻・美也さんの何気ない一言も、心と体のスイッチを“オン”にし、山本の心に“火をつける”要因の一つとなった。
「(妻に)ウォーミングアップ時や練習試合時に、自分がどう見えているのかを伝えてもらいました。『もうちょっと出来そうなのにやっていない気がする』と。(体が)動かないと決めつけて、自分(心)が制限していた。その殻を破ることで幅が広がりました」

 そこに、エスナイデル監督が“チャレンジをすることへの意識”を芽生えさせたことで奮い立つ。

 自分のプレーにブレーキをかけず、思い切りプレーをすることで感覚を掴むと新たなチャレンジへの取り組みに自信を感じ、チームにフィードバックする力を貪欲に吸収していった。

「上を目指すために、自分のベースと戦術との距離を埋めて行く作業をしました。優也(佐藤)のいい所、割り切った所、思い切りの良い姿勢を吸収しようと、ラインズマンの視点からも見て詰めていきました」

 殻を破り進化を遂げた山本は、福岡戦に向け大きな決意をもって臨んでいた。それが「結果がなかなか付いてこないチームに、もう一度上を向かせる、“火”を起こすこと」だった。

「一緒にピッチに立ってプレーで熱いモノを見せれば、チームも反応してくれる」昇格へ向けて再びチームに闘争心をもたらす“火つけ役”を担う [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 およそ1年半ぶりとなった公式戦。実戦での緊張感やフィーリングのズレが生じ体が思うように動かないことも心配されたが、それは杞憂に終わった。

 山本は堂々としたプレーで決定的なピンチを防いでいく。68分、左サイドを突破したウイリアン・ポッピのシュートを片手で防ぐと、71分には、再びポッピのシュートを弾くと、そのこぼれ球に詰めた三門雄大のシュートも阻んだ。

 山本は言う。

「シュートストップには自信があります。止めることが出来て良かったと思いますが、そこの色はもっと出していかなければいけない。あそこで決められていたら自分じゃない。リスクを背負い戦っているからこそ、早めに潰すコーチングや的確なポジショニングでピンチになる前に防ぐことを監督はもっと求めている」

 大きな声を上げ守備を組織化し、相手の好機を潰して行く。ひとつのミスで失点をすれば批判を浴びるポジションだけに、彼はこの大役を最後まで全うすることでチームに安心感を与えていた。

 櫛野GKコーチは「久々のプレーだったと思うが、僕としては満足している」と、笑顔で話す。

 山本に訊いてみた。チームに“火を起こす”とは一体、どういう意味だったのか――。

「試合に出ていない時、ハーフタイムでも口を出すことをしていましたが、一緒にピッチに立つことが一番“火を起こす”ことにつながる。そこでチームを鼓舞して、プレーでも熱いモノを見せれば、チームも反応してくれます。負けていい試合は1つもない、特にアウェイではもったいない失点が多いので、そこを含めても引き締めて“火を起こす”役をこれからもやっていきたいと思います」

 あらためて感じるのは、“止めることが自分の仕事だ”と言い切る彼の背中が大きく見えたことだ。ゴール前で存在感を放つ山本は「1試合に限らず、これを続けないと信頼に変わらないのでやっていきたい」と、意気込む。

 ただ、ポジション争いはこれからも激しさを増すだろう。山本はチームに闘争心と昇格を目指す争いに“火を起こし”チームを一歩一歩、前に進めさせて行く。ここからが自身の価値を証明する戦いとなる。

文=石田達也

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