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【コラム】「レイソルの一員として世界へ」…異色の経歴を持つ小池龍太が抱く新たな野望

2017.06.05

浦和を下した柏は8連勝で首位の座を守った [写真]=Getty Images for DAZN

 勝負を懸ける時が来た。右タッチライン際、それも敵陣の深い位置でパスを託された柏レイソルの右サイドバック、小池龍太はアドレナリンが一気に増え、全身を駆け巡るのを感じていた。

 すかさずFW高木俊幸がマークに付く。相手の呼吸と心理状態を冷静に読みながら、左足で小刻みにボールをコントロールする。迎えた4タッチ目。やや大き目にボールを前方へ持ち出した小池は次の瞬間、上半身を強烈に捻り、連動させるように右足を思い切って振り抜いた。


「中にいる味方を信じて常にクロスを上げ切る練習を日々積んできたし、その通りのクロスからゴールが生まれたのは本当に嬉しかった」

 ホームの日立柏サッカー場に浦和レッズを迎えた、4日の2017明治安田生命J1リーグ第14節。破竹の8連勝と“暫定”の二文字が取れ、真の意味での首位を手繰り寄せた千金の決勝弾は前半アディショナルタイムに生まれた。

 小池が上げた渾身のクロスは、鋭いカーブ回転を描きながらファーサイドへ。ニアサイドをケアしていた浦和のGK西川周作、DF森脇良太の反応が遅れる。そこへ以心伝心で走り込んできたMF武富孝介がジャンプ一番、打点の高いヘディングを見舞う。

 狙いを定めたのは西川と森脇がポジションを修正したことで、ポッカリと空いたニアサイド。詰めてきた身長155センチの最小兵Jリーガー、MF中川寛斗が頭で押し込んでゴールネットを揺らした。

小池のクロスから決勝点が生まれた [写真]=Getty Images for DAZN

 わずか3年前の2014シーズン。小池はJFLでプレーしていた。JFAアカデミー福島を卒業した18歳の少年に憧れてきたプロから声はかからず、レノファ山口FCとアマチュア契約を結んだ。

「2チームの練習に参加したんですけど、Jクラブからのオファーはなかったですね。自分としてはもっと練習に参加したかったんですけど、チャンスを得られなかったのも実力だと今では思っています。すべての面で足りなかったからこそ、プロには行けなかった。基礎的な部分を補い、自分の特徴や武器を築き上げて成長してきたからこそ、この舞台にまで来られていると思うので」

 サッカースクールのコーチとしてアルバイトしながら、月収15万円ほどで生計を立てていたルーキーイヤーから17試合に出場。翌2015シーズンにはJ3が創設され、山口も参入が認められる。背番号が「18」から「4」に変わった小池は、右サイドバックとして不動の存在となった。

山口で結果を残し、柏へステップアップを果たす [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 チームはFC町田ゼルビアとのデッドヒートを制し、参入1年目でJ3を制する。昇格を果たした2016シーズンのJ2では全42試合に出場し、プレー時間はチーム最多の3743分間を数えた。ますます存在感を際立たせる169センチ、63キロの小柄な右サイドバックに、オフになって柏からオファーが届いた。山口への感謝の思いを抱きながら、小池は迷うことなく移籍を決断した。

「素直に嬉しかった。自分が思い描いた通りに1年1年、飛び級することなく自らの足で一歩一歩(カテゴリーを)上っていくという意味では、4年かけなきゃダメだと思っていたので」

 しっかりと実力を養いながら、自らが戦う舞台を1年ごとに、ひとつずつ上げてきた異色の経歴。すべては強い信念に導かれたものだと力を込める小池は、柏でも最初のチャンスをものにする。

 3月15日、清水エスパルスとの2017JリーグYBCルヴァンカップ予選リーグ初戦。柏で公式戦初先発を果たすと、開始わずか3分に高い位置でボールを奪って鋭いクロスを供給。これは相手の必死のクリアに防がれたが、こぼれ球を公式戦初出場だったMF手塚康平がダイレクトボレーでネットを揺らした。

 1-0で勝利した一戦で結果を残した小池は、手塚や中川とともにリーグ戦でも先発に定着する。怒涛の8連勝を達成した浦和戦の先発を見ると、柏のアカデミー出身選手が実に8人を数えている。クリスティアーノと伊東純也の両FW、そして小池以外は全員が同じコンセプトのサッカーを叩き込まれてきた。

 柏のバックボーンを聞かれた下平隆宏監督は、「アカデミーからの継続です」と即答する。もっとも、現役時代は柏のボランチとしてプレーし、引退後はU-18のコーチや監督を歴任した指揮官は「守備の部分で、今のトップチームは特化していますけどね」と笑顔で付け加える。

「相手のビルドアップを阻止したい、自分たちが早くボールを保持するために奪いたいと望んで、選手たちの意思で前から積極的にプレッシャーをかけにいっているので」

 対戦相手を辟易とさせるハイプレス集団と化すターニングポイントがルヴァンカップの清水戦であり、例えるなら「戦闘的ユニット」の中に組み込まれた一人が小池となる。

「自分は決して上手い選手ではないので、(アカデミー出身の)彼らがやってきたことを短い時間の中で理解して、自分的にどのようなプレースタイルが合うのかを考えながら、目の前の試合に臨んできました。その中でも最後のところで失点を防ぐとか、人一倍、体を張らなきゃいけないと思っています」

 4月22日の第8節横浜F・マリノス戦では、対面に来るMF齋藤学を組織で封じることを厳命された。終わってみれば小池が“タイマン”で勝つ場面が圧倒的に多く、試合後に「こちらが驚くほど齋藤選手を抑えてくれた」と表情を崩した指揮官の信頼を一気に勝ち取った。

横浜FM戦では攻撃の起点・齋藤を封じた [写真]=Getty Images for DAZN

 ボールを繋ぐスタイルに長けた柏の中で、異彩を放つ存在と言っていい。逆境をはい上がってきたハングリー精神は泥臭さと勝負強さと化してピッチ上で体現され、ついには浦和戦で攻撃面でも貢献した。

「レイソルの一員として世界へ行きたい。来年のACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場へ向けて今をしっかり戦わないといけないけど、自分がレギュラーを確立したとも思っていない。慢心できないところがいい結果につながっていると思うし、その意味でも自分が歩んできた道は間違いではなかった」

 5年目以降の挑戦を思い描きながら、今という刹那を無我夢中で生きる叩き上げの苦労人。柏に来て良かったと思いますか、と尋ねられると笑顔を浮かべながら首を縦に振った。

文=藤江直人

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