2017.04.22

【コラム】鄭大世の褒めない“愛情表現” 相棒・金子翔太への毒舌の裏にある確かな手応え

鄭大世の若手に対する厳しい叱咤激励は期待と愛情の裏返しともいえる [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

 可愛くてしかたがないからこそ、素直に喜べない。公の場で称賛するのがちょっぴり照れくさいから、思わず突っ込みを入れたくなる。

「いやぁ、正直、悔しいです。アイツがメモリアルゴールを決めるのは嫌でしたね」

 2トップを組む11歳年下の相棒・金子翔太がJ1リーグ通算20,000ゴール目を決めた、21日の明治安田生命J1リーグ第8節。かつてプロとして第一歩を踏み出した川崎フロンターレのホーム、等々力陸上競技場の取材エリアに姿を現した清水エスパルスのキャプテン、鄭大世はいきなり毒舌を吐いて周囲を爆笑の渦に巻き込んだ。

「パッと出の金子には、まだちょっと早いです。アイツ、全然ゴールを決めねえくせに、何かいいところだけを持っていくんですよ。J1昇格を決めた試合の決勝ゴールもアイツだったし」

 決めるのだったら自分か、あるいは攻撃陣では33歳の自身とともに30歳を超えているMF枝村匠馬に「決めて欲しかったですね、個人的には」と苦笑いしたメモリアル弾が飛び出したのは14分だった。DF鎌田翔雅の縦パスに反応して右サイドへ抜け出した鄭大世が、マークにきたDF谷口彰悟がステップを踏む瞬間に狙いを定めて、股間を抜いてグラウンダーのクロスを通す。

 標的はそのままニアサイドへスプリントしてきた鎌田。惜しくも合わず、飛び出したGKチョン・ソンリョンも触れられずにファーサイドへ流れていく。そこへフリーで駆けこんできたのが金子。左足を合わせた一撃は、体勢を整えてダイブしてきた韓国代表守護神の右手を弾いてネットを揺らした。

「(谷口が)股を開くのは分かっていたし、(鎌田)翔雅が勢いよく上がっていたから、キーパーとの間にゴロで入れれば絶対にいけると思ったけど、触れられなかった。ただ、僕がああいう形でクロスを出すのを好きだと、金子も知っているからね。あんな良いクロスが来たら、ホントに簡単ですよ。オレが欲しいくらいなのに、(左サイドバックの)松原(后)は絶対に出せないからね。松原とは合わないですよ」

 後輩の今シーズン及びJ1通算2ゴール目をアシストとしても、「後世に繋ぐという意味では、名前は残りませんよ」と憎まれ口をきいたが、顔は笑っていた。金子が歴史に名前を残すことが、本心では嬉しい。初体験のJ2を戦った昨シーズン。夏場からまるで別人のようにゴールを量産し、終盤戦にはJ2記録と並ぶ7試合連続得点をマーク。26ゴールで得点王に輝き、1年でのJ1復帰に導いた軌跡と金子の存在とは、実は密接にリンクしていたからだ。

試合後には金子とともにメモリアルゴールを祝福 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 JFAアカデミー福島から2014シーズンに加入した金子が、2トップの一角で先発の機会を得たのは昨年6月。主力だった大前元紀(現大宮アルディージャ)が肋骨を4本折り、その中の1本が肺を傷つける大けがを負い、約3カ月も戦列を離れたことがきっかけだった。

 代わりに相棒として指名されたのが金子。最前線でコンビを組んですぐに、163センチ、58キロの小さな体には対戦相手の守備陣を辟易とさせ、自身の得点感覚を蘇らせてくれる最強の武器を搭載していることが分かったと、鄭大世は笑顔で語ってくれたことがある。

「それまで全然点を取れていなかったのに、金子がすごく守備を頑張ってくれるから僕は前残りできて、相手のディフェンスラインの裏を取れる体力の余力を残すことができた。プレーしていて『ああ、これだ』と唸る場面が何度もありました。感覚的な部分を取り戻せたことについては、本当に金子に感謝している」

 大前も攻撃的な選手なので、どちらかと言えば前残り気味になる。その分、鄭大世が守備にも奔走して体力を浪費していた。翻って金子は無尽蔵のスタミナを全開にして、自分の分まで走り回ってくれた。鄭大世をして「覚醒したみいたい」と言わしめたからこそ、復帰した大前と再び2トップを組んでも、ゴールラッシュは衰えるどこかますます加速された。

 オフに大前が大宮へ移籍し、迎えた今シーズン。開幕戦からレギュラーを務める金子の仕事ぶりは、今までと何ら変わらない。J1勢と対峙する守備組織を作る上で、欠かせない戦力だと鄭大世も太鼓判を押す。

「アイツは自分の長所が分かっている。守備と走ることを、組織のために完全に生業としてやっている。みんなが一丸となって組織を作る戦い方に、すごく貢献してくれている」

 だからこそ、プロになって4年目の愛すべき後輩へ、もうひと皮むけて欲しいと注文もつける。鄭大世によれば、金子は攻撃時に“消える”という。相手DFの視界から“消える”動きをすればゴールにつながるが、実は味方の視野から“消える”と苦笑いする。

「ボールを受けるためではなく、守備に入るためのポジションを取っているんですよ。もうちょっと攻撃の部分で存在感を出して欲しいというか、もうちょっとボールに絡んでくれないと、オレが真ん中で孤立しちゃう。そんな感じですね」

 攻守の切り替えの速さは、新生・清水にとっての生命線でもある。金子は試合展開を読み、高い位置からの守備を常に率先しているのだろう。そのタスクを今後も実践した上で、ストライカーとしても自分と一緒に相手に脅威を与えて欲しい。

「僕個人の目標はJ1残留で、チームとしては一桁順位だけど、今やっている感じだともうちょっと上に行けそうな感じもするかな」

 試合は後半に入って逆転されたが、ラストワンプレーで新加入のFWチアゴ・アウベスの劇的な来日初ゴールで追いついた。8試合を終えて3勝2分け3敗は、上々の滑り出しと言っていい。この日は不発に終わったが、鄭大世自身もすでに4ゴールをあげている。

 戦いを重ねるごとに膨らみつつある手応えを具現化するためにも、勇猛果敢かつ小柄なファイター・金子と、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)代表としてワールドカップの舞台でも戦った「重戦車」が組む2トップが、攻守両面で脅威を与える構図が必要になる。

文=藤江直人

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