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【コラム】公式戦3連続完封勝利の浦和…悲願のJ1制覇へ槙野智章が自腹購入した“秘密兵器”

2017.04.17

槙野を中心に守備陣で映像を見ながら選手だけでミーティングをしてきた積み重ねが、今ようやく実を結んできている [写真]=©J.LEAGUE PHOTOS

 敵地・味の素スタジアムに乗り込み、FC東京と対峙する明治安田生命J1リーグ第7節を翌日に控えた15日の夜。前泊していたホテルの一室に、浦和レッズの選手たち数人が集まっていた。

 FC東京が1‐2で北海道コンサドーレ札幌に逆転負けを喫した前節の映像を、電気を消した室内で食い入るように見つめる。もっとも、札幌ドームでの一戦が映し出されていたのはテレビではない。アップル社製のプロジェクターを介して、映像が投影されていたのは部屋の白い壁だった。


「ただ、正直言って参考にならなかったですね。FC東京(の状態が)悪すぎて」

 苦笑いを浮かべたDF槙野智章の部屋が、選手ミーティングの会場だった。プロジェクターも槙野が購入したものだ。シーズンの開幕へ向けて、4万9000円をかけて手に入れた“秘密兵器”を駆使した話し合いが、ここにきて効果を発揮し始めている。

「チーム全体ではなく、選手個々でやっています。特に後ろの選手を中心に。大原グラウンドのクラブハウスでもやっていますよ。壁でも床でも、白い場所があって電気を消せばどこでも見られるので」

 映像は槙野がいち早く加入したDAZN(ダ・ゾーン)から引っ張ってくる。この夜は次の対戦相手のものだったが、いつもは自分たちの映像が中心だ。いつでもどこでも、必要だと感じた時にはすぐに映像を介してチェックできるように、槙野は常にキャリーバッグの中にプロジェクターを忍ばせている。

「自分たちが失点したシーンだけをただピックアップするのではなく、やられてはいないんだけれども選手のポジショニングやチーム全体のバランスが悪かった、といったシーンも。3失点して負けた横浜F・マリノスとの開幕戦から失点していた試合が続いた中で、映像を見ながら『このボールの出しどころに対してお前はこう行っているけど、この場面ではこうして欲しい』と面と向かって、お互いに腹を割って話し合いを重ねてきた時間というものは、決して無駄じゃないと思っています」

 それぞれが思ったことを、忌憚なくぶつけ合う。指摘された瞬間こそカチンと来ても、もちろん喧嘩腰にはならない。些細で見逃してしまいがちなミスを丹念に消し去り、一切の妥協を排除していく先にタイトル獲得が待っていると槙野は信じて疑わない。

「外から見ている視線と、実際にプレーしている僕らの見方が全然違うこともありますので。もちろん外からの意見もしっかり受け止めながら、僕たちも考える。ピッチの上でプレーするのは僕たち自身ですから」

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制になって6年目。上位争いの常連にこそなったが、手にした国内三大タイトルは昨年のYBCルヴァンカップだけにとどまっている。最も欲しいリーグ戦のそれは、3シーズン続けてあと一歩で逃してきた。

 特に2ステージ制で行われた昨シーズンは、年間勝ち点1位で明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ決勝へシード。鹿島アントラーズとの第1戦を完封勝利で制しながら、第2戦で喫した2失点で逆転されて悪夢を味わわされた。

 リーグ戦では34試合で28失点とJ1で最少を記録した。それでも画竜点睛を欠けば、次の瞬間には奈落の底へ突き落される。3年ぶりに1ステージ制に戻る今シーズン。もう二度と悔しさで全身を震わせたくない、初優勝した2006シーズンから遠ざかっているJ1を制覇したいという熱い思いが、槙野が自腹を切って購入したプロジェクターに込められている。

「皆さんもご存じの通り、僕たちは最後の最後でタイトルを落としてきている。その意味ではたくさんの勉強代を支払ってきたことで、監督から言われる前に『こうしたほうがいい』と選手同士で話し合ってきた。逆に勝った時こそ質の高いミーティングができているので、前へ突き進むためにお互いに高い要求をし合えることは、非常に良い雰囲気とモチベーションを生み出していると思います」

FC東京戦は集中した守備で公式戦で3試合連続の完封勝利を達成した [写真]=©J.LEAGUE PHOTOS

 午後2時のキックオフで迎えたFC東京戦。今年初の夏日となり、気温は26度を超えた。汗ばむような陽気が、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージの大一番、上海上港戦から中4日だった浦和の選手たちの体を蝕んだ。

「正直、みんな疲れています。だからこそ『じゃあ逆にやってやろう』という声掛けが、選手たちの中でも自然とできている」

 開始14分にFW興梠慎三があげた先制点を守り、残り15分間は展開だけを見ればFC東京の波状攻撃にさらされた。もっとも、これは「肉を切らせて骨を断つ」という共通認識の下、自分たちの状態をも考えた浦和が割り切った戦い方を選択した結果だ。実際、試合は1‐0のまま終わった。

「戦っている僕たちからすると、それほど怖さはなかった。相手にあえてボールをもたせて、攻めさせてカウンターを仕掛ける。ボールホルダーに対して絶えずプレッシャーをかける、後ろは絶対にラインを下げない、セカンドボールを拾うという3点を徹底したからこそ勝ち点3を取れたと思う」

 これで前節のベガルタ仙台戦、ACLの上海上港戦に続いて、公式戦で3試合連続の完封勝利を達成。ヴィッセル神戸が柏レイソルに負けたことで、今シーズン初めて首位に立った。

「ゼロで抑えることでより自信を持って、より試合を攻撃的に進められる。攻撃の浦和と呼ばれるのは嬉しいですけれども、後ろの選手が助けて勝ち点3を取る試合もこれからは増やしていきたい」

 7試合を終えて総得点21は、2位・ガンバ大阪の13に大差をつけるトップ。一方で失点数も7と、ようやく試合数とイーブンになった。試行錯誤しながらも6戦連続無敗を続けてきた浦和の中で、攻守が至高のハーモニーを奏でつつある。

文=藤江直人

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