2017.04.06

【ライターコラムfrom山形】モンテの“お釈迦様” を知っているか。DF瀬川和樹が挑む定位置争いに注目

2015年に群馬から山形に加入した瀬川は今季、開幕の京都戦で先発出場を果たした [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
広告代理店等勤務を経てコピーライターとして独立。2006年からサッカー取材を始め、モンテディオ山形を中心にライティングを行っている。仙台市在住。将棋×サッカーコラボに傾倒する“観る将棋ファン”。

 来たる4月8日は灌仏会(かんぶつえ)。お釈迦様の誕生日をお祝いする日である。という場違いな書き出しにも、勘のいい山形サポーターなら「ははーん」と思ってくれるだろう。そう、今回はモンテディオ山形のDF瀬川和樹の話をしたい。その眉間に、お釈迦様のご尊顔を思い出させる大きなホクロを持つ男の話を。

 瀬川は2015年に群馬から山形に移籍加入した。前年の対戦での活躍が山形フロントの目に止まり、左サイドの職人として引き抜かれた形だ。新加入会見では「特徴のない顔なので、早くサポーターに覚えてもらいたい」と言って自らホクロをネタに笑いを取ろうとした。あまりにも真顔で言うものだから、この時は報道陣も同席したサポーターもどう反応していいかわからず、会場が少しざわついただけに終わってしまったのだが。

お釈迦様のご尊顔を思い出させる大きなホクロが瀬川の特徴だ [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 山形に来てからの2年間は、本人にとって不本意なものだったろう。J1だった2015年の公式戦出場は4試合。J2に降格した昨年の出場はわずか1分だ。石﨑信弘監督が退任し、木山隆之新体制となった今季は「今年が勝負。後がないと思っている」と、背水の陣でキャンプに臨んだ。そして、1カ月半の長いキャンプが明けて迎えた開幕・京都戦。瀬川は左ウイングバックのスタメンとして西京極のピッチに立っていた。35分には、左のスペースでボールを受けると狙い澄ましたクロスを放ち、逆サイドから走りこんだ瀬沼の先制点をアシスト。山形の8年ぶり開幕戦勝利に貢献した。

 出場1分からの逆襲。雌伏の2年間を経て、監督交代を機にポジションを掴み取った男。今年の瀬川はちょっと違うぜ! と期待を集めてコラムを閉じたいところだが、それほど簡単でないのがこの世界である。瀬川は続く第2節・ジェフユナイテッド千葉戦でも先発メンバーに名を連ねたが、どういうわけか開幕戦の思い切りのいいプレーは影を潜め、攻守に精彩を欠いて63分に途中交代した。

 第3節、第4節と、左のウイングバックで起用されたのは同じレフティのDF高木利弥だった。瀬川が先発に復帰したのは第5節のホーム、アビスパ福岡戦だ。この日は初めて、1歳になる娘さんを抱いて入場した。途中交代はしたものの、「千葉戦での課題を見つめ直して、できた部分もあった」と手応えを口にした。

 しかし、指揮官にはまだまだ物足りなかったようだ。

「御殿場のキャンプでやっていた時のガツガツ感とは全然違う。今回の(福岡戦の)先発は消去法で回ってきたチャンスだけど、でも回ってきたんだから、もう一回開幕戦の時のような気持ちで『掴んだポジションは放さない』ぐらいの強さがないと。でも正直、そういうのもあんまり見えない」

 歯がゆさを隠すように苦く笑いながら、木山監督の口からは堰を切ったように言葉が溢れ出す。それはもちろん、期待の表れでもあるのだろう。果たして、次の第6節長崎戦でも瀬川は先発した。今季初黒星となってしまったものの、これまでの6試合の中では最も「チームがやりたいと思っているサッカーに近かった」(木山監督)ゲームで、瀬川は少し輝きを取り戻したように見えた。アシストになりそうなクロス、ゴールになりそうなシュート。得点や勝利という果実は得られなかったが、積極的に裏を狙って走り、仕掛けて行く姿勢は、次回の収穫を匂わせた。

「結果にはつながらなかったけど、あれぐらいやってくれたら使っていく価値がある。もっと練習してもっと精度を上げてくれよと言える。そういうチャレンジがたくさん見えた」(木山監督)

 さて、これで何かを掴んだ瀬川、定位置確保! 次節から大ブレイク!——となれば美しい物語だが、何度も言うけれどやっぱりそう簡単なものではないだろう。地道なトレーニングと自問自答、3歩進んで2歩下がるような日々を積み重ね、己れがこのチームの先発にふさわしいか否かを指揮官に問い続けるだけだ。次節はホーム大分トリニータ戦。先発メンバーの中に瀬川の名前はあるだろうか。そして今シーズンが終わる時、この「勝負の年」を彼は笑顔で振り返ってくれるだろうか。それはまだ、お釈迦様にもわからない。

文=頼野亜唯子

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