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【ライターコラムfrom広島】叱責は愛情の裏返し 森保監督が街でかけられた「嬉しかった」言葉

2017.03.23

広島を率いる森保監督 ©JFA

 街を歩いていると、選手たちはいろんな声をかけられるものだ。

「頑張ってください」
「応援しています」
「ファンなんです」

 そんな嬉しい言葉もある。


「この前の試合は惜しかった」
「まだまだ、これからだから」

 励ましもある。だが、決してそんなポジティブな言葉ばかりではない。

 たとえば森保一監督は火曜日、所用で広島の街に出かけた時、年配の男性からこんな言葉をかけられた。

「何をしとるんか、サンフレッチェは」 
「どうしてこんなに順位が低いのか。ウタカを残していた方がよかったんだ」

 まったく見知らぬ人である。監督も正直、驚きを隠せなかったという。

 自分に、あるいは自分たちに対する批判を目にしたりすることは決して気持ちのいいものではない。まして、面と向かって、まったく見知らぬ人に罵倒されたのである。それも「プロの仕事」の一つとして受け入れてしまうのか。それは正直、疑問だろう。

 だが、森保監督は「言われたことは、嬉しかった」と言う。なぜか。

「もちろん、そんな言葉を掛けられたことは驚いたし、悔しさもある。だけど」

 言葉を選びつつ、Jリーグで3回優勝の名将は、一気に吐き出した。

「こういう状況で我々のことを気にして下さっている。17位という順位のこともそうだし、ウタカが(期限付きで)移籍したこともご存知だった。それは、本当にありがたい」

©J.LEAGUE PHOTOS

 この想いについて、おそらく説明が必要だろう。

 広島において、スポーツとは長らく「カープ」のことだった。1950年に設立され、原爆によって破壊され尽くした広島の街の希望となった復興のシンボル。カープが広島に残してきた歴史的な価値や伝説については、紙幅がいくらあっても説明しきれない。カープは日本プロ野球史上においても、そして広島においても、その歴史的な貢献度や成り立ちについて特異かつ特別な存在である。人気が落ちたこともある。だが、それでも、どんな時も、カープが広島にとってのNo.1。覆すことは容易ではない。肩を並べることも相当の努力が必要だ。

 その環境下において、サンフレッチェがいかに存在感を発揮していくことが困難か。まして今は、1975年の初優勝以来と言っていい空前の赤ヘルブームである。今季もカープのチケットはシーズンを通してほぼ完売状態。平日でも関係無く、カープのホームスタジアムであるマツダスタジアムは常にフルハウスが期待される。一方、スタジアムの立地問題を抱えるサンフレッチェは勝っても勝っても、カープに追いつくことが難しい。しかも今季は4試合で1分3敗。厳しく、苦しい状態が続いている。

 そういう中で、森保監督は一人の市民に叱責された。もちろん、気持ちのいいことではない。だが、叱責の裏側は愛情である。愛の反対は嫌いではなく無関心。もっとも辛いのは無視だ。無関心からは何も生まれない。正であっても負であっても、エネルギーすらそこに存在しないからだ。森保監督が「嬉しい」と表現したのは、それがネガティブな言葉であっても、関心をもってもらっていたからだ。しかも強い時でなく、結果が出ていない時に。

「悔しい思いをしながらも、真剣に応援してくださっている方がいる。不甲斐ない戦いの中、ストレスを溜めているサポーターのためにも、いい結果を見せて巻き返したい」

 3月19日に放送された『サンデーモーニング』で、広島出身の野球評論家である張本勲氏がサンフレッチェ広島に「喝」を入れた。それもきっと「愛」の現れ。

 「しっかりと結果を出せば、サポーターの皆さんからも張本さんからも、『あっぱれ』を頂けるのではないか」

 森保一監督はまなじりを決した。4月反攻へ、叱責も愛と受け止め、パワーに変えていく。

文=紫熊倶楽部 中野和也

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