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【ライターコラムfrom山形】雪がもたらした団結力。開幕アウェイ3連戦を無敗で乗り切った新生山形の強さ

2017.03.16

開幕アウェイ3連戦を1勝2分けで乗り切った山形は19日にホーム開幕戦を迎える [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 羽海野チカさんが将棋のプロ棋士を描く人気漫画『3月のライオン』をご存知だろうか。いや「ご存知だろうか」と言うのもはばかられる話題作で、NHKのテレビアニメにもなって放送中だし、18日からは神木隆之介さん主演の実写映画も公開されるのだから、知っている人は多いだろう。

 この漫画は将棋の話なので、日本一の将棋駒の生産量を誇る山形県天童市が出てくる。春の一大イベント「人間将棋」の開催地としてはもちろんのこと、主人公に大きな影響を与える棋士が、山形県(天童市近隣の村)の出身という設定なのである。


 ところで、モンテディオ山形の本拠地がこの天童市にあることは、意外と知られていない。ホームスタジアムであるNDソフトスタジアム山形も日々の練習場も、クラブハウスもクラブ事務所も、天童市にある山形県総合運動公園内にあるのだが、アウェイサポーターも山形初遠征を計画するに至って初めて「山形市じゃないの!?」と驚いたりする。

 さて、『3月のライオン』の中では、その山形出身の棋士が追い詰められた対局の場面で、目の前の相手の圧倒的な強さを、おそらくは故郷・山形の雪と重ね合わせて描写する場面がある。

〈ああ…
 雪だ 
 どんなに
 もがいても
 容赦なく
 うめつくしてくる
 目もくらむような
 まぶしい闇〉
(『3月のライオン』第4巻より)

 容赦のない雪。山形に住めばきっと、その意味が実感できるのだろう。今季愛媛FCから移籍加入した瀬沼優司が「山形に来て1日か2日は、めっちゃ綺麗だなあ、いいなあ、と思ったんですが、正直、雪にはだいぶうんざりしています」と苦笑するように、美しいけれど果てしのない雪の風景が、山形の冬にはある。だからこそ、モンテディオは毎年1月下旬から開幕戦(必ずアウェイ)まで、長い長いキャンプに出ることになる。今季は第2節がキャンプ地に近いジェフユナイテッド千葉との対戦だったため、キャンプが1週間延長された形になり、キャンプ期間は47日に及んだ。チームが山形でキャンプ明けの初練習を行ったのは実に3月7日のことである。それからさらにアウェイのロアッソ熊本戦を経て、やっと、やっと、3月19日、第4節にしてホーム開幕を迎える。

毎年恒例のサポーターによるスタジアムの雪かき [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 3月も後半に入ったし、例年に比べると今年の降雪量は控え目とのことで、毎年恒例のサポーターによるスタジアムの雪かきも半日で終わった。とはいえ、最近も雪のために練習が中止になったり、急遽屋内練習に変更になることがあった。この時期のコンディショニングには毎年苦労するのだ。

 それでも、チームはアウェイ3連戦を1勝2分の負けなしで帰って来た。3試合で2得点を挙げている瀬沼に1カ月半のキャンプと開幕アウェイ3連戦について尋ねると、極めてポジティブな答えが返ってきた。

「ホテル生活が長いとストレスがかかるし、アウェイ3連戦はコンディション的にもメンタル的にも難しいのかなと予想していましたけど、やってみたらネガティブな要素は一切なかった。チームのみんなとすぐ仲良くなれますし、共同生活が長いのでまとまるのも早かった」

 監督が代わり、12人が新加入した今季は特に、お互いの特徴を知り連携を深める意味で、長いキャンプは良い効果をもたらしたのかもしれない。しかし、8年ぶりの開幕勝利も、開幕3戦負けなしの悪くない結果も、待ちに待ったホーム開幕戦に勝ってこそ、その価値を増す。

「これまでネットで山形の応援の動画を見てモチベーションを高めたりしていたので、ホームで試合をすることがすごく楽しみでしたし、19日は一人でも多くの方々に見に来ていただいて、いいサッカーをして勝つ姿を見せて、また山形の試合を観に行きたいと思ってもらえるように、戦う姿を見せたいと思います」(瀬沼)

 ちなみに、瀬沼は将棋に関しては「ルールはなんとなくわかります」という程度だが、自分を将棋の駒に例えると? との問いには「馬」と、いきなり成ってきた。そのココロは「馬のように走って、駆け抜けたい」。ホーム開幕戦でも、待ちわびた青いサポーターの前で、ゴールに向かって走り抜いてくれるはずだ。

文=頼野亜唯子

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