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【ライターコラムfrom広島】“絶対に大丈夫” 理不尽な運命に立ち向かう佐々木翔を僕は信じる

2017.03.09

開幕戦、得点した工藤壮人の後ろには佐々木への寄せ書きが記された横断幕が ©SANFRECCE

 身体中から湧き上がるサッカーへの意欲は、寒い鹿児島の夜空も焦がしそうなほど、熱かった。1月18日、すっかりと陽が落ちて星も瞬きはじめた頃、佐々木翔は自身の復活への想いを吐き出したのだ。

「絶好調ですよ。傷めた右ひざも、問題はない。段階を踏んでいる時期なのでまだ試合には出られませんが、しっかりと練習を重ねていきます」


 昨年3月20日の対大宮アルディージャ戦、後半アディショナルタイム。5-1という大差の中でも攻撃の意欲が衰えない佐々木は、大宮の不用意なパスをカットした。カウンターだ。だが次の瞬間、強烈なタックルが襲う。もんどりうつ。右ひざを抱えて、のたうちまわる。尋常じゃない。前十字じん帯断裂。2016年シーズンの佐々木翔は、もう出場できない。

 もちろん、不可抗力である。サッカーではありがちのことで、不運だったとしか言えない。佐々木はこの時のプレーについて一言も口にせず、未来についてのみ語った。「来年のキャンプから復帰しますよ」。苦しいリハビリの中、佐々木は笑った。

 前年のチャンピオンシップ決勝・第1戦で見せた魂の同点ヘッド。試合終了間際にチームを救って優勝に貢献したDFは、2017年開幕からポジションを確保する。スピード、バネ、強さ、戦う意思の熱さ、破壊力に満ちた攻撃性。サンフレッチェ広島が求めるストッパー像を体現する佐々木にとって、2016年は大きな飛躍となるはずだった。日本代表まで駆け上がるきっかけを掴むはずだった。

 ただ、昔であれば選手寿命の終わりを意味したこの大ケガも、しっかりと治療・リハビリすれば復活できる。そんな例は山ほどある。間違いなく、2017年には復帰してくれるはずだ。そう信じていた。だが。

 1月22日の午前中、トレーニングでの出来事。佐々木はジャンプしてハイボールをクリアした。その時の着地。バランスを崩した。前十字じん帯、再断裂。またしても、佐々木はサッカーをする権利を取り上げられた。

佐々木翔

2015年チャンピオンシップ決勝第1戦。得点後に力強いガッツポーズを見せた佐々木 [写真]=Getty Images

佐々木翔も大丈夫。絶対に大丈夫

 実は昨年末、トレーニングに合流したあとで彼は一度、同じ箇所を損傷している。ただその時は手術の必要はなく、保存療法で治療。サッカーをやれると確認したところでキャンプに参加した。その時の経験も踏まえ、逸る気持ちを抑えつつ、強度的にも段階を踏んでトレーニングを行っていた。それなのに。

 神様は、いったい佐々木にどれほどの試練を与えれば、十分だというのだろう。自身の情熱をサッカーだけに注入している青年なのだ。真摯で、周りを笑顔にさせる空気感を持ち、仲間に気を使う。昨年、まだリハビリが始まったばかりの時に、自分がボールすら蹴れない時に、試合のメンバーから外された後輩を心配していた。そういう男に対して、あまりに理不尽な運命ではないか。

「本当に残念。ようやく、復帰が見えてきたところなのに……。本人が誰よりもつらい。チーム全員で彼を励ましたい」

 受傷から二日後、森保一監督は深刻な表情で言葉を探した。どんな言葉であったとしても、佐々木の気持ちを癒すことはできまい。二度目の前十字じん帯断裂。一度、厳しいリハビリをやっているだけに、なおさら絶望的になっているだろう。励ます言葉がどこにあるのか。

 ところが2月6日。安芸高田市・清神社に広島が参拝した時の映像を見た時、驚いた。手術を1週間後に控えた佐々木が、そこに笑顔でいるではないか。そこに曇りはない。彼らしい、にこやかな表情で、立っているではないか。

 言葉がなかった。なんて強さだ。自分だったら、笑えるだろうか。その場所に立てるだろうか。

 2月14日の手術から全治8カ月。焦らせるつもりはない。今度こそ、完璧に治してほしいという気持ちが強い。彼のような好漢がピッチに立って、堂々たるプレーを見せてほしいと願うだけだ。ただ、一つだけ、いくつかの例をあげておく。

 広島で前十字じん帯断裂という大ケガを負った後、厳しいリハビリを克服して日本代表にまで登りつめた男が、3人いる。上村健一(現カマタマーレ讃岐コーチ)、駒野友一(現アビスパ福岡)、そして青山敏弘だ。そのうち上村は佐々木と同じように復帰直後に再断裂。しかしそこから見事に復活し、代表選出の栄誉に浴した。青山はリハビリ中の激しい筋トレで鍛え上げ「広島のエンジン」と称されるほどの肉体をつくりあげる。その後、右足の剥離骨折、2度にわたる左ひざ内側半月板の手術、腰痛。全身を襲うケガと戦い抜いて、彼はブラジル・ワールドカップのピッチに立った。

 きっと、佐々木翔も大丈夫。絶対に大丈夫だと信じる。

 その気持ちだけを持ち続け、彼のこれからを見守っていきたいと思う。

文=紫熊倶楽部 中野和也

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