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<アウェイゴール>年間勝ち点。鹿島、167分の逆転【チャンピオンシップ第2戦レビュー】

2016.12.08

チャンピオンシップ第2戦が行われた埼玉スタジアム

Jリーグチャンピオンシップ決勝第2戦は鹿島アントラーズが制した。一旦、今季限りでの終了が決定した2ステージ制は、最後に大きな事件を巻き起こしていた。年間勝ち点よりも優先されたアウェイゴールが、両者を翻弄した。

▼2つの赤い兄弟の杯
西日が地面をゼブラに彩る。道は太陽に照らされた柵の影で模様ができていた。一行が目指すのは、“居酒屋”、埼玉スタジアム2002。人目を気にせず、昼間からアルコールが飲める天国だ。

埼スタに詰めかけた59,837人の中から見つけた懐かしい顔と、笑顔で赤い兄弟の杯を交わす。心の中では、シャーレを奪い返そうと年間1位のプライドを持ち合わせている。


もう一つの赤も杯を交わしている。背中の黄色い帽子のスポンサーロゴが見分けるポイントの一つ。こちらも、シャーレを持ち帰ろうと微笑んでいる。その横で、アルコールを我慢する警備のお兄さん方が険しい表情をしている。にぎやかな光景を見つめるスタジアムは、似たような険しい表情になる真剣勝負の時間を迎えた。

手が届くところにある銀のシャーレの横を通り過ぎ、両選手が左右に分かれピッチ上に整列した。現地時間11月28日、コロンビアでの航空機事故に対し黙とうが捧げられる。犠牲となったブラジルのシャペコエンセの選手たちに哀悼の意を表す。コパ・スダメリカーナ決勝を戦う予定だった彼らは、『スルガ銀行チャンピオンシップ』で来日する可能性があった。浦和レッズの選手、鹿島アントラーズの選手はともに喪章をつけ、冥福を祈った。

▼7分と悪夢、40分の悪夢
冷たい夜風を振り払うアイドリングは7分で終わる。わずかに設けられた高密度の鹿島サポーターの目の前で、高木俊幸がクロスを上げた。低く抑えたボレーを放った興梠慎三が、かつての所属チームの夢を遠ざける。4日前のカシマスタジアムと同じく、スコアボードには浦和1-0鹿島。第1戦がそのまま続いているような数字が表示された。

しかし、開始直後の変化を「焦らないように」と小笠原満男、ならびに鹿島アントラーズは冷静に何をすべきか理解をしていた。浦和ベンチがアップをする横で、遅れて鹿島の面々が体を温めようとベンチコートをゆっくりと脱ぎ始めていた。

スタジアムから、たびたび金崎夢生の名前が聞こえる。元・鹿島、現・浦和のエースに得点を奪われた、ならばこちらもエースが。お前しかいないんだと、鹿島サポーターは2度3度と金崎コールを続けた。何度も削られながらも走り続けた金崎が期待に応えたのは40分、遠藤康のいつもとは違う右足からのクロスを飛び込みながら頭で叩き付け同点に追い付く。そして、すべてを決める45分に向け、しばしの休憩に入った。

▼年間勝ち点以上の価値があるアウェイゴール
鹿島の地で指揮官が嘆いた、“空き過ぎた日程”によるコンディション不足が見え始めた。パスを出しても一足先に鹿島が追い付き奪われる。浦和の足が止まった。59分に青木拓矢、61分に駒井善成と、立て続けに交代のカードを切る。対する鹿島は、浦和が動いた1分前の58分に鈴木優磨を投入し攻撃態勢を強める。優勝への最優先事項“勝利数”で1勝1分と上回る浦和が苦しみ、追い詰められていた鹿島が勢いを増していた。

ペトロヴィッチ監督はもう一つ、あることを嘆いていた。試合前、優勝への条件がビジョンで説明される。勝利数が並んだ場合は“得失点差”、その次は“アウェイゴール数”と条件が移行。それでも決まらない場合は、“年間勝ち点差”とアナウンスされる。1年を通して得た74ポイントを、最も評価されていないことにイラ立っていた。

77分、金崎のパスを受けた鈴木がペナルティーエリア内で倒れる。倒された鈴木はパスを出した金崎と「オレが蹴る」と言い合いながらも、ボールを年長者に譲った。“勝利数”と“得失点差”は並び、3番目の“アウェイゴール数”が適応される。第1戦の90分と第2戦の77分、2試合合わせて180分中の167分に机上の劣勢が覆った。

▼欲深い“常勝軍団”
得点の数分前、交代を告げられた小笠原は、バックスタンド前を歩いて鹿島サポーターの前を通過し、ベンチから信頼する味方を見つめていた。「鹿島はレギュレーションに沿った戦い方ができる」とキャプテンは、攻撃的や守備的を超えたチームの強さを語る。18個目のタイトルは、何個取ってもまだ取りたい欲、勝負強いわけではなく必死に戦ってきた結果。「ジーコスピリッツじゃないけど」とポーカーフェイスを少し緩ませた。タイトルとともに賭けられたクラブW杯出場権を手にし、お正月の風物詩天皇杯加え、来年のACL制覇を狙う次なる欲に向かっていった。

ファーストステージ王者がセカンドステージ王者を破る。J創設当初の旧世紀は当たり前だった。だが時を超え現在は、年間1位が破れ年間3位がチャンピオンとして記憶される。記録として、記憶として、歴史に残る“復刻版”2ステージ制が終わった。制度が作り出す残酷さと醍醐味の両方を出し尽くし、賑やかだったスタジアムは人の気配がしない静寂さに包まれ眠りについた。

佐藤功
岡山県出身。大学卒業後、英国に1年留学。帰国後、古着屋勤務、専門学校を経てライター兼編集に転身。各種異なる業界の媒体を経てサッカー界に辿り着き、現在に至る。

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