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J2ライセンス不交付の鹿児島ユナイテッドFC。昇格するための“青写真”とは?

2016.11.07

鹿児島ユナイテッドFCを率いる浅野哲也監督

9月28日、吉報を待つ鹿児島ユナイテッドFCへ、Jリーグから伝えられた審査結果は、J2ライセンスの不交付だった。チームはJ3参入1年目ながらも、J2昇格圏に肉薄。しかし、この結果により、来季のJ2昇格への道は完全に絶たれてしまった。あの日を境に近い将来のJ2昇格へ向けて歩み始めたクラブは、今後の展望をいかにして描いているのか。クラブの代表者である徳重剛社長の証言を下にその“青写真”に迫った。

▼不交付はスタジアムが原因に


鹿児島ユナイテッドFCに関わる人たちが失意に暮れたJ2ライセンス不交付の発表から、1カ月が過ぎた。しかし、一つのシーズン目標だったJ2昇格という夢はついえたものの、元日本代表MF浅野哲也監督率いるチームは、士気を落とさずにJ3・1年目ながらも、成績上はJ2昇格圏を狙える位置にいる。“ラスト”3を残して2位・大分トリニータとの勝ち点差は『3』。11月5日、一足先に第28節を勝利で終えた首位・栃木SCの背中は遠のいたが、1年目の奮闘は称賛に値するだろう。クラブの代表者である徳重剛代表取締役社長は言う。

「厳しいシーズンになるかなと思いましたが、浅野監督が現場をしっかりとまとめてくださっています。とにかく上位争いを演じていることがすごいことですよ。J3・1年目でJFL時代とあまりメンバーが代わっていない中でのこの成績なので、みんながハードワークして頑張ってくれている結果です。浅野さんがすごいという一言に尽きますよ」

クラブに携わる人たちが落胆の色を隠さなかったクラブライセンスの審査結果は、ホームスタジアムとして利用している鹿児島県立鴨池陸上競技場に起因する部分が大きかった。スタジアム問題における不交付の理由は大きく分けて2つ。一つは入場可能者数の問題で、現在ホームスタジアムとして使用している鴨池は、2020年の鹿児島国体に向けて、段階的に改修中で今年からメインスタンドの全面改修および屋根部分の改修工事を実施しているため、シーズンを通して、観客席1万人を常時満たすことができないという。

もう一つが、クラブとスタジアム所有者間での書面合意。Jリーグ規約を満たしたホームスタジアムにおいて(この場合は鴨池)、ホームゲームの80%以上を開催できることの書面での合意が、クラブとスタジアム所有者で成されていなかったことが不交付の原因の一つとなった。

クラブとスタジアム所有者で合意が成されなかった背景には、鹿児島県内の競技場事情が複雑に絡んでいる。鹿児島県内には大規模なスポーツ競技大会を開催できる競技場が鴨池以外に乏しく、サッカーやラグビー、そして陸上競技大会とのスケジュール調整が困難になっているという。

例年も鹿児島の公式戦開催にあたって、他競技との調整を図る中で、陸上競技大会を土曜日は鴨池で開催し、日曜日は別の陸上競技場で開催するという“ウルトラC”プランが発動したこともある。“オンリーワン”に等しい鴨池を巡る日程調整は、試合開催におけるスケジューリングの障壁と言っても言い過ぎではない。さらに鴨池は1970年開場と古さも否めない。いずれにせよ、例えばラグビーとの併用可能な新設の球技スタジアムが望ましいことは自然の道理だろう。最近ではサポーター有志が発起人となって、新スタジアム整備要望の署名活動も展開されたように、新設のスタジアム建設などを行政に働きかけるにあたって、県内の競技場事情は一つのポイントになりそうだ。

▼プロスポーツにおける鹿児島の県民性

J2ライセンス不交付という結果が出たことにより、クラブに衝撃は走ったが、「長い目で見れば今年は重要な1年になる」と徳重社長も前を向く。仮にJ2昇格圏でJ3リーグを終えれば、懸案のスタジアムやクラブハウス・練習場の整備に向けて、世論が味方する可能性も高まる。

もちろん、クラブとしては“現場頼み”にする気は毛頭なく、フロントはハード面の整備に全力を尽くす所存だ。特にクラブハウスと練習場の整備は、スタジアムに併設して造るか、もしくは別の場所に造るか、検討段階にあるという。「特に練習場は毎日のように使用する場所であるため、早急に手を打ちたい」と徳重社長。クラブ自前での建設か。スポンサーとの提携による環境整備か。土地探しも含めて、来年1年で整備をして、再来年から使えるようにすることがベストであると、徳重社長はその“青写真”を描いている。

ホームスタジアム、そして練習場・クラブハウスといったハード面の整備はもちろん行政の力を借りる必要はあるが、例えばスタジアムは行政で、練習場・クラブハウスはクラブ自前で、といった“役割分担”も視野には入れているという。

ただし、クラブとしては、ハード面だけを整えれば万事が収まるという話ではない。安定したクラブ経営を図る上でも、環境が整ったあとの観客動員増は必要不可欠。鹿児島にJ3クラブが誕生したことを一つの契機として、一人でも多くのサッカーファンを増やす“不断の努力”をクラブは欠かしていない。

日常的に存在するプロスポーツクラブを持たない鹿児島は、県民自体がサッカーに限らず、プロスポーツの興行をチケットを買ってみるという感覚に乏しい県民性があるという。もちろん、鹿児島ユナイテッドがJ3に参入したことで、JFLよりも相手のレベルが上がり、J3リーグを楽しむ背景はできつつある。しかし、その浸透度はまだまだとのことだ。

「県民の方にお金を出してチケットを買っていただいて、それがクラブの収入となり、選手の人件費に還元され、より強いクラブになる。そんなクラブのサイクルを理解してもらえるように、地域での講演活動や勉強会を通じて、啓蒙活動をしています」(徳重社長)

サッカー熱沸騰への胎動は感じられるが、鹿児島ユナイテッドが文化として県民の日常生活に根付くには時間がかかることは、もちろん覚悟している。その一方で、未来のクラブを背負って立つプレーヤーになり得る子供たちに、鹿児島ユナイテッドの試合を見てもらえるような環境作りをするために、日曜の13時キックオフでは、子供たちのサッカーをする時間とバッティングするケースが多いため、来季以降はキックオフ時間を調整するプランも徳重社長の頭の中にはある。

鹿児島ユナイテッドのJ3・1年目は、まもなく終わろうとしている。現状、ピッチ上では好成績に湧いた一方で、ピッチ外では失意に暮れるシーズンとなった。それでも、鹿児島ユナイテッドに携わる人たちは、決して下を向いてはいない。“あの日があったから今がある”。そう笑って話せる日が来ると信じて、クラブ創設3年目である新興クラブのチャレンジは続く。

郡司聡

茶髪の30代後半編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部勤務を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動中。2015年3月、FC町田ゼルビアを中心としたWebマガジン『町田日和』を立ち上げた。マイフェイバリットチームは、1995年から1996年途中までの”ベンゲル・グランパス”。

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