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熊本が勝ち取った震災後初白星…変化と爆発力を生んだ選手たちの“言葉”

2016.06.09

リーグ復帰後5戦目で初白星を収めたロアッソ熊本。地元に勝利を届け、選手たちは安堵の表情を浮かべた ©J.LEAGUE PHOTOS

 震災から復帰して5戦目。シュート5本で5得点。ロアッソ熊本がついに白星を刻み込んだ。8日に行われた2016明治安田生命J2リーグ第17節・ツエーゲン金沢戦のスコアは5-2。これまで得点力不足に苦しんできたチームが、ウソのようなゴールラッシュで大勝を収めた。

 偶然の大勝ではなかった。フィジカルコンディションで苦しんでいた復帰当初とは異なり、熊本が直面していたのはメンタル面での問題だった。気合いが足りないということではもちろんない。むしろ清川浩行監督が感じていたのは、「頑張りすぎてしまっている」ことだった。個々人が強い気持ちで試合に臨み、ボールを必死で追いかける。それはサッカーの原点というべき大切なことだが、ガムシャラさと無秩序は紙一重だ。熊本は「戦術的に機能しなくなる時間帯があり、「『頑張ろう』の気持ちが先走ってしまって、チームとしてのコンビネーションが合わなくなることがあった」(清川監督)。


 原因を簡単に言ってしまえば、「プレッシャー」だろう。熊本地震からの復興のシンボルとなるという使命感と責任感は強いモチベーションを生み出すと同時に、重りにもなっていたことは想像に難くない。初勝利の感想を聞かれた監督・選手が一様に「ホッとした」という言葉を漏らしていたのは象徴的だった。どれほどの圧力を感じていたのか。FW巻誠一郎は、試合後に喜び爆発とならないチームを見て「喜び方を忘れちゃったのかと思った」と苦笑いを浮かべつつ、その原因をやはり「喜ぶよりもホッとしたことが大きかった」と見ていた。

 逆に言えば、復帰後初勝利へのカギは精神面にこそあった。「勝てなくて、内容も悪くて、チームの雰囲気も悪くなっていった。みんなどこか自信なくやっていて、迷いながらやっている感じだった」。主将のMF岡本賢明はチームが陥った負のスパイラルをそんな言葉とともに振り返る。金沢戦もそんな雰囲気のまま試合に入るしかないのか、という流れの中で、GK佐藤昭大が岡本に一つの提案をしてきた。「ちょっとみんなで話さないか?」。

 金沢戦前夜、宿舎で夕食を終えたあと、選手だけその場に残った。「ミーティングなんて大げさなものではないんですが、みんなで少しずつでもしゃべってもらった」(岡本)。出てきた言葉は「攻め気がなくなっている」「チャレンジすべきだ」という強い言葉が出てきた一方で、ベテラン選手からは「もっと仲間を信頼してみようよ」という言葉も自然と出てきた。巻は言った。「まずチームとして一つになろう。誰かが困っていたら、別の誰かが助けよう。それをやろう」。

「一人ひとりが『何とかしなきゃ』と思う中で、チームとして機能しなくなっていた。それぞれが一人でプレッシャーを感じていて、『みんなで戦う』ということがなくなっていたんだと気付けた」(岡本)

 言葉を出し合った時間は短かったが、それで十分だった。岡本は「もうアップの時点から雰囲気が違った」と手応えを感じていた。みんなで戦うという共通意識をもって立ち上がりから全力で行く。空回りしていた個々の強い気持ちが噛み合ったとき、チームには確固たる爆発力が生まれていた。開始1分、FW平繁龍一の先制点はまさにこの流れから生まれて、体力的な部分で回復していた熊本は、心の部分でも完全によみがえった。前半5本のシュートで5点を奪ったのは、圧倒的な集中力があってこそ。プレッシャーを乗り越えて団結に至った熊本に、もう「空回り」という言葉はない。

 試合後、選手たちが口をそろえていった言葉がもう一つある。「これからが大事」と。熊本県民の希望になると誓ったあの日から初勝利までは「本当に長くかかってしまった」(岡本)。ただ、決して無駄な時間ではなかったはず。6月8日、ベストアメニティスタジアム。ロアッソ熊本の止まっていた時間は再び動き出した。とても、力強く。

文=川端暁彦

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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