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ストライカー・大久保嘉人がゴールを決め続けられる3つの理由

大久保は今季、リーグ戦で6得点を記録。J1リーグ歴代得点数を162ゴールに伸ばした [写真]=Getty Images

 川崎フロンターレに来て4シーズン目。Jリーグ3年連続得点王という史上初の快挙を達成したストライカーは、前節のガンバ大阪戦でもゴールを記録。今季6得点目を挙げ、FW大久保嘉人はJ1リーグ歴代得点数を162ゴールにまで伸ばした。

 思えば、開幕前は「Jリーグ歴代記録を更新なるか」、「佐藤寿人(サンフレッチェ広島)を超えられるか」という点で注目を集めていた。第6節・サガン鳥栖戦の劇的ゴールで、佐藤寿人を抜いてJリーグ歴代単独トップとなる159ゴールを記録すると、そこから先は前人未到の戦いとなった。ライバルを抜き去ったことで、今ではJ1通算得点数の話題がさほど注目されなくなっているほどである。

 このG大阪戦の前、自分の「J1通算得点数」が注目されなくなったことについて、本人に聞いてみたら、こんな答えが返ってきた。

「(記録を)抜くから、数字は気にしていなかった。(目標も)そこじゃないと思っていたし、それはずっと言ってきたからね」

 大久保にとって頂点さえも通過点というわけだ。

 では、彼がゴールを量産し続けられている理由は何なのか。

今季も順調に得点を重ねる大久保は6月で34歳を迎える [写真]=Getty Images

今季も順調に得点を重ねる大久保は6月で34歳を迎える [写真]=Getty Images

<真骨頂は、掴まらない動き>

 川崎に来てからのプレースタイルの一番の変化を挙げるならば、「相手に掴まらない動き」を身につけた点にある。ゴール前の大久保を観察していると、いとも簡単にフリーになってゴールを量産しているように見えるはずだ。敵と味方が密集しているペナルティエリア内でフリーになれるのは、決して簡単ではない。

 実例を挙げるならば、直近の第9節・G大阪戦の得点シーンがそうである。

 右サイドにいたFW小林悠にボールを預けた後、彼はまだ何も相手守備陣と駆け引きをしていない。エリア外でゆっくりとランニングしているだけの大久保に対して、相手守備陣の二人もしっかり視野におさめている。彼が「掴まらない動き」をしたのは、小林が切り返しで相手を抜いた瞬間だった。

「自分の前にディフェンスが二人いたし、ユウ(小林)がボールを持ったとき、自分はペナルティエリアの外だった。切り返した瞬間に、『あっ!』と思って、スピードを変えました」

 小林が相手を抜いた一瞬、大久保は相手の動きを見て、逆を取りながらスピードを上げ、相手守備陣を置き去りにしている。この駆け引きで勝負ありである。フリーの状態になった大久保は、小林のクロスを頭で合わせてゴールネットを揺らした。

 この「掴まらない動き」は風間八宏監督がストライカーに求めている技術でもある。以前、風間監督は、こんな風に話してくれたことがある。

「自分の考えるゴール前というのは、『掴まらないもの』だから。日本人のほうが俊敏性はある。強い選手も必要だけど、それよりも速くて巧い奴だね。日本人はそういう能力を持っている。海外では誰も嘉人をセンターフォワードでは使わなかったじゃない? 相手と当たるというところから始まっているんだろう。でも自分たちはそうじゃない。相手には当たらなくちゃいけないといつ決まったの?と思ってやっているから」

 ゴール前だからといって、必ずしも相手に体をぶつけて競り合う必要はないというのが風間監督の考えでもある。実際、このG大阪戦では大久保がセンターフォワードをつとめるワントップだったが、彼は相手の動きを見て逆を取る駆け引きに優れているので、体をぶつけて競り合ってゴールを決める必要はなかった。大久保はこう言っていた。

「自分はすごく考えてプレーしてますよ。他の人は野性的にやっていると思っているかもしれないけど、すごく考えている。そういう駆け引きで勝って、点を取ったときは嬉しい。これはサッカーをしている人にしかわからない」

 相手に掴まらないでフリーになれる技術。これこそ、大久保嘉人の真骨頂である。

<高さを使わなくてもヘディングで点を取れる理由>

 ペナルティエリアのボックス内だけが彼の仕事場ではない。今季初ゴールとなった第2節・湘南ベルマーレ戦での先制点や、昨年のリーグ最終節・ベガルタ仙台戦で3年連続得点王を決定付けた一撃などミドルシュートも絶品だ。右足のアウトサイドでボールを擦り上げるイメージで蹴り出されたコントロールシュートは、彼の大きな武器である。全体練習後、居残りのシュート練習でこの感覚を磨いているのは有名な話だ。

 個人での高い打開力もあるが、周囲との関係性も得点には欠かせない。

 すぐに浮かぶのがMF中村憲剛とのホットラインだが、意外にも、中村のスルーパスを大久保が決めるという得点パターンというのは少ない。それもそのはずで、どの対戦相手もまずはこのラインを遮断して守ってくるからだ。第7節・FC東京戦での中村からの裏へのロングパス一本で大久保の同点弾のように、それでも一瞬の隙をついて決めてしまう場面もあるが、年々対策を練られることで、中央からの二人の関係性は多くない。

大久保嘉人

中村(右)は「彼が一番前で勝負できるようにすることが仕事」と語る [写真]=Getty Images

 そこで増えてきたのが、サイドからのヘディングゴールである。意外なことに、大久保が決めた6得点のうち3得点は、クロスからのヘディングで記録している。「今年は多いね」と本人も笑うが、もちろんそこにも理由がある。

 そもそも、川崎はクロスボールが少ないチームだ。サイドで攻撃の起点を作っても、簡単には中央にクロスを選択しない。風間監督が「高さで解決するな」と話している理由も当然のことで、中央にいるのは小柄な大久保であり、相手の守備が待ち構えている状況でクロスを上げても、競り勝てる可能性は低いからである。

 そのため、クロスの出し手は、敵陣を深くえぐってから最後まで状況を見極めて、密集の中でもピンポイントにパスを出す「正確性」が必要になってくる。いくらゴール前で大久保が相手を外してフリーになっても、出し手である味方のパスに正確性がなかったら、ゴールは生まれていない。大久保も、ゴール前でどういうボールを欲しいのか、チームメイトたちに徹底的に要求しており、そのすり合わせは日常茶飯事だ。

 G大阪戦では大久保にクロスを供給した小林は、こう振り返る。

「ヨシトさん(大久保)が全速力で入ってきた姿が見えていたので、そこに当てるイメージでした。ヨシトさんしか見えていなかったですね」

 相手に“掴まらない”動きをする大久保と、その動きを見逃さずにピンポイントの場所でクロスをあげることができる出し手。中央が消されたらサイドから合わせる。第6節・鳥栖戦のように、小林はときにシュート性のクロスを大久保に上げることも珍しくない。しかし両者の呼吸がシンクロすれば、高さを使わなくてもヘディングで点を取れるというわけだ。

<意外な儀式?>

 あまり知られていないエピソードだが、大久保には試合前のロッカールームで必ず行う儀式がある。

 それは、ある神社のお守りを、ユニフォームやスパイクで丁寧になでるというものだ。川崎に移籍してきた最初の年に、「ヨシトくんも騙されたと思って持ってみて」と奥様の従兄弟から渡されたのがきっかけだ。聞くと毎年プロ野球選手がよく訪れていて、打点王を取った選手もいたという、スポーツにご利益があるというお守りである。

「自分はそういうのは信じないタイプ。でも(移籍してきた)今年がダメだったら、もう最後だと思っていたので騙されたと思ってやってみた。そうしたら、その年に得点王になった。だったら、続けるよね。宗教じゃないよ。周りは『何?』と思うかもしれないけど」

大久保嘉人

J1通算最多得点記録に並ぶ157得点目を決めた時は力強いガッツポーズで喜びを示した [写真]=清原茂樹

 これを始めた年に得点王に輝き、今ではすっかり試合直前のルーティーンになっているという。Jリーグ3年連続得点王のストライカーが行っている、あまり知られていない儀式だ。

 なおこのお守り、大久保とプライベートでも親交が深いGK新井章太も、今年から身につけている。奇しくも新井は、第9節・G大阪戦で途中出場で今季リーグ戦出場を果たし、完封勝利に貢献している。日頃の準備があってこその結果ではあるが、勝利を支えたストライカーとGKが身につけていたアイテムがあったと思うと、なんだか面白い。

文=いしかわごう

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