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J通算157得点の佐藤寿人「小さくても取れる」…思考と努力が生み出した無意識の感覚

J1最多得点記録に並んだ広島FW佐藤寿人(中央) [写真]=清原茂樹

 マークしていたアンドレ・バイア湘南ベルマーレ)は驚愕したはずである。

 彼は“Ninja”か。それとも“Fairy”か。

 一瞬にして視界から消え、気づいた時にはボールはゴールへ――。まるで忍術か魔法を使われたような気持ちになったはずである。

 もちろん、佐藤寿人は忍者でも妖精でもなく、ストライカーだ。アンドレ・バイアが寿人を見失ったのは、決して不運でも彼のミスでもない。ストライカーの思考が割り出したゴールへの方程式の解であり、いわば必然であった。

 左ワイドの清水航平にボールが入った時、確かに湘南のリベロはサンフレッチェ広島のエースをつかまえていた。「彼との駆け引きが楽しかった」と寿人自身が語るように、それまでの約40分間、アンドレ・バイアはストライカーが仕掛ける細かな位置取りの妙に対応し、寿人が裏を取ろうと仕掛けても、ニアに入ろうと体を入れても、小柄なストライカーを視野から外さなかった。清水が仕掛けた時も、クロッサーとフィニッシャー、双方の位置を確かめるために首をしっかりと振っていた。

 そこで寿人はまず、アンドレ・バイアの前に入ろうとした。当然、DFの重心は前に掛かる。だが、そこは高度な駆け引き。一対一で勝負するのではなく、ドウグラスが近くにいることもストライカーは利用した。

 清水がドリブルで相手を置き去りにする。この瞬間、ニアサイドには11番ではなく9番が入った。アンドレ・バイアの気持ちは一瞬、ドウグラスへと向かった。DFにとって自分の前でクロスを合わせられることほど、イヤなものはないからだ。

 その瞬間、寿人がバックステップで逃げる。密着していた体が、一瞬にして自由になった。そこに清水からスピードボールが入ってくる。アンドレ・バイアがクリアしようとするも、クロスの速さについていけない。自由を享受し、水準の高いクロスが入ってくれば、背が低くても技術の高いヘディングを持つ寿人がネットを揺らすのは必然だ。

 時間にしてコンマ数秒。本当の意味での「一瞬」。DFにとって、大きなミスはなかった。横からボールが入ってくる以上、クロッサーに視線を向ける瞬間が生じるのは仕方がない。だが、寿人はDFが視線を外すその瞬間こそが勝負どころだと分かっていた。

 彼の頭脳は、公式戦通算250点を超える自分自身の全ゴールだけでなく、チームメートやJリーグ、海外も含めて、たくさんのゴールシーンがインプットされているデータベース。そこから瞬時にデータを引き出し、現実の場面へと応用できる思考力と技術。「思考の天才」佐藤寿人の真骨頂が見えたJ1通算157得点目だった。

「ストライカーとは生まれるものであって、育てることはできない」

 サッカー界でよく言われる言葉である。ストライカーとは才能であって、努力でどうにかなるものではない、という意味だ。だが、日本サッカー史にその名を残す広島のエースストライカーは、「天才とか、才能があるとか、そんなことを言われたことはない」と言う。

「自分でも、自分のことをすごいなんて思ったことはない。どうして、もっとできないのか。そんなことばかりを考えていた。才能だけで点を取ることはできないし、身体も小さい。肉体的な部分では勝負ができない僕にとって、努力を続けなければステップを登れなかった。もし、僕に身体もあって、若い時から何でもできる選手だったら、努力しなかったかもしれないですね」

 時代はフィジカルである。高さ、速さ、強さ。肉体的な特長がない選手は、FWとして生き残っていけない。クリスティアーノ・ロナウドレアル・マドリード)はフィジカルの怪物だし、リオネル・メッシバルセロナ)は身体が小さくてもスピードがある。ズラタン・イブラヒモヴィッチ(パリ・サンジェルマン)、ルイス・スアレスバルセロナ)、国内なら大久保嘉人川崎フロンターレ)や宇佐美貴史(G大阪)、パトリック(G大阪)、そしてチームメートのドウグラス。高さ、もしくはスピード、理想はその両方。現代ストライカーの必須条件だ。

 だが寿人には、幼い時から肉体的な優位性はなかった。長所である俊敏性を高めるためのトレーニングを繰り返し、シュート技術を高め、肉体を鍛えても、身体能力では戦えない。必然的に指導者からの評価は低かった。それでも、彼はストライカーにこだわった。

「他のポジションは考えたことがない。FWでやれなかったら、プロの世界から退くだけ」

 寿人は人生を「点を取ること」に賭けていた。ストライカーとして生きていく、その決意の固さが、深い思考を生んだ。

 果たして、高さも速さもない自分が、どうすれば点が取れるのか。

 そのためにはまず、見ることだ。考えることだ。

 どういうプレーからゴールは生まれるのか。どういう状況ではゴールできないのか。

 ゴール映像も見た。練習でも試合でも、他の選手のプレーも見続けた。そのイメージを自分のプレーに反映させ、パターンを反復する。その繰り返しによって思考は無意識の感覚へと直結し、身体の隅々にまで染み渡る。サッカーとはコンマ数秒の世界。立ち止まって考える時間はない。だが、オフ・ザ・ピッチで長く深い思考を繰り返すことで、「瞬間の決断」が求められるゴール前で様々な解が無意識に引き出される。

 アイディアとは、無から有をつくり出す作業ではない。蓄積した思考から最適解を引き出す過程と結果である。157点目を生んだのは、ストライカーとしての基本戦術である「逃げる動き」。しかし、大切なのは、それをいつ、どこで、どのように発揮するか。この「アイディアの発露」という速度と精度において、寿人の能力は他の追随を許さない。

「その瞬間に頭を働かせていたら、もっといい反応もできるし、点も取れる。頭のスイッチを切らさずに常に修正を繰り返せば、2〜3点は上積みできる。大切なのは、頭の中が整理されていること」

 偉大なストライカーは、これでJリーグでもヤマザキナビスコカップの通算得点数でも頂点に立った。そして彼が愛する広島は、34試合制における史上最多勝ち点で年間1位を獲得。明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ決勝進出を果たした。

 栄光に満ちた11月22日。だが、寿人はそこで立ち止まりはしない。常に前進を図り、常に改善を求める。60分程度の出場時間でも、コンビネーションが熟成できなくても、そこで思考を深めて対応し、結果を出し続ける。だからこそ、「思考の天才」佐藤寿人は、サンフレッチェ広島のエースであり続けることができるのだ。

文=中野和也(紫熊倶楽部)

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