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新たな挑戦への覚悟…ドイツへ旅立つ武藤が一曲に込めたメッセージ

2015.07.08

セレモニーでファンに別れを告げる武藤 [写真]=瀬藤尚美

文=高尾太恵子

 ドイツ・ブンデスリーガのマインツへ移籍する日本代表FW武藤嘉紀が7月7日、羽田空港から渡独。「FC東京でプレーできたことは自分の誇り」と胸を張り、新たな戦いへと出発した。


 6月27日の国内ラストマッチで約4万人の大観衆に自らの想いを告げた武藤。試合後の壮行セレモニーでは、涙ながらに「今の僕があるのは、支えてくださったファン、サポーターを始め、両親、監督、チームスタッフ、僕に携わってくれたすべての人のおかげ。この1年半があったからこそ、今の自分がある。日本に帰ってきたら、ぜひまたFC東京に温かく迎えてもらえたらうれしい」と感謝の言葉を口にした。

 味の素スタジアムのゴール裏には「世界を駆け抜けろ!」と書かれた横断幕が掲げられ、セレモニー後にはサポーターによる『You’ll never walk alone』の大合唱が響き渡った。これに寄り添うように静かに流れ出したピアノ伴奏――。武藤はその曲に揺るぎないメッセージを込めていた。

 トップチームで青赤のユニフォームを身にまとった期間は短く、本人も「本当にあっという間でした」と振り返る。プロ1年目は新人最多記録に並ぶ13得点を挙げ、Jリーグベストイレブンに選出。その活躍が日本代表のハビエル・アギーレ前監督の目に留まり、昨年9月に行われたウルグアイ戦で国際Aマッチデビューを飾った。プロ2年目の今シーズンもハイペースで得点を積み重ね、ファーストステージだけで10得点を記録。本人が振り返ったとおり、一気に1年半を駆け抜けた。

 わずか1年半、されど1年半。

 FC東京は武藤にとってはサッカースクール時代から13年間を過ごした愛着のあるクラブでもある。ともに戦ったチームメートを始め、見守ってくれたファン、サポーターには言葉では伝え切れない想いがあった。

 セレモニーであいさつを終えた武藤がゆっくりと歩き出す。ここでBGMとして流れたのが、自ら選んだ『See You Again』という曲だった。

 選曲理由については「また会おうってこともあって、自分の心情に一番合っていたので」と多くは語らなかったが、その一曲からファン・サポーターへの確かな愛情が伝わってくる。

 Wiz Khalifaが歌う『See You Again ft. Charlie Puth』は映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』の挿入歌で、同シリーズに長年出演し、撮影期間中に不慮の事故で他界した俳優ポール・ウォーカー氏に捧げられた曲。再会を誓う歌詞が自らの心情と重なったのだろう。スタンドのファン・サポーターに向けて何度も手を振り、深々とお辞儀をする姿は、必ず戻ってくると約束しているようだった。

 そんな想いをすべて理解しているかのように、サポーターは『You’ll never walk alone』を熱唱し続ける。普段は「お前たちは決して一人じゃない、俺たちがついている。一緒に戦おう」と選手たちを鼓舞する歌が、この時だけは少し違うメッセージに聴こえた。

「お前は決して一人じゃない、俺たちがついている。だから頑張ってこい」

 巣立っていく若きストライカーの背中をスタジアム中が後押ししていた。

 もちろんプレッシャーはある。試合翌日のFC東京のファンイベントでは「やってやろうという気持ちが7割、あと3割は緊張と……不安かな」と珍しく弱音を漏らした。それでも「プレッシャーはどこに行っても掛かってくるもの。そのプレッシャーを真摯に受け止めて、それを力に変えていきたい」と自分に言い聞かせるように前を向く。また、今月4日には大学時代から交際していた女性との結婚を発表。生涯の伴侶を得たことで、「これからは新しい家族の幸せも考えてプレーしたい」と表情を引き締めた。

 チェルシーからオファーが届いたときに「欧州の舞台を意識した」という武藤は、悩んだ末にマインツに身を置くことを決断した。だが、その一方で「FC東京にタイトルをもたらせなかったこと」が唯一の心残りだったという。後ろ髪を引かれながら新たな挑戦を決意しただけに、結果へのこだわりは人一倍強い。「この想いは日本代表とドイツで返したい。海外では結果がすべて。ゴールは取れるだけ取りたい」と新天地での活躍で恩返しを誓う。

 22歳の挑戦は始まったばかり。「最後はFC東京に骨を埋めると決めている」と将来の再会を誓った武藤が、感謝の気持ちと強い覚悟を胸に、多くの人の想いを抱きながら世界を駆け抜ける。


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