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“盾”のFC東京と“矛”の川崎…優勝争い生き残りを懸けた多摩川クラシコは激戦の予感

2015.04.30

多摩川クラシコで対戦するFC東京(上)と川崎(下) [写真]=Getty Images

文=青山知雄

 かつてない激戦の予感が漂う第25回多摩川クラシコ。全く異質なスタイルで上位につける両チームの対戦は、1stステージの優勝争い生き残りを懸けたサバイバルマッチとなる。


 明治安田生命J1リーグは1stステージを折り返す形で8試合を消化。ここまで4失点でリーグ最少の堅守を誇るFC東京は、勝ち点17で首位・浦和レッズを勝ち点3差で追う3位。勝ち点14で5位につける川崎フロンターレは前節で柏レイソルに敗れたものの、リーグ最多となる17得点を記録している攻撃陣の破壊力は抜群。この両クラブが5月2日に行われる第9節では味の素スタジアム(FC東京のホーム)で対戦する。どちらにとっても逆転優勝に向けて負けられない試合。今シーズンから導入された2ステージ制でリーグ戦は各17試合で覇権を争う短期決戦に変わり、1試合の重みが今まで以上に増すことになるだけに、この上位対決はまさに生き残りを掛けた戦いになると言っていいだろう。

 直線距離にして約14キロ。多摩川を挟む形でホームスタジアムが位置する両チームは、FC東京が東京ガス、川崎が富士通川崎という前身=プロ化以前から激しくドラマティックなゲームを繰り広げてきた。1997年に富士通川崎が「川崎フロンターレ」としてJリーグ準会員になりながらJFLで東京ガス(2位)を下回る3位に終わってJリーグ昇格を阻まれ、1998年に行われた最後のJFLでは首位を走る川崎が最終節で最下位のソニー仙台に敗れたため、東京ガスに大逆転で優勝が転がり込んできたこともあった。

 同対戦は2007年から『多摩川クラシコ』と銘打たれ、開催回を1999年のJ2開幕以降の対戦まで遡ってカウント。両クラブの対戦はサポーターの雰囲気も相まっていつも熱い空気に包まれ、数々の激戦が繰り広げられてきた。FC東京サイドでは2000年の2ndステージ第3節でアマラオが決めたハットトリック、2006シーズン第30節で1-4から大逆転勝利を収めたゲームが語り草になっている。川崎サイドでも2007シーズンの5-2、7-0という大勝や、昨シーズン第4節の4-0というアウェーでの大勝が語り継がれている。

 過去の対戦成績はFC東京の7勝7分け10敗。これまで試合時の順位にかかわらず激戦が繰り広がられてきたが、今回はともにステージ優勝を視野に入れた中での直接対決。こういったしびれる状況での対戦は初めてとなる。両チームの置かれた状況だけでも激しい戦いが想定されるが、さらに特筆すべきは全く異質なサッカー哲学の激突であることだ。

 イタリア人のマッシモ・フィッカデンティ監督率いるFC東京は昨シーズン、リーグ戦14試合無敗というクラブ新記録を打ち立てながら、12引き分けという成績が響いて最終的には9位に終わった。だが、今シーズンはここまで5勝2分け1敗。昨年、「負けないトーキョー」を作り上げた指揮官が、今シーズンは「勝ち切るトーキョー」に仕上げている印象だ。

 相手の特長を消してパスの出先をしっかりと抑えるだけでなく、球際の強さや体を張った守備で要所を締める。もちろん前線からのプレスも健在。相手の出方に応じて試合中に何度もフォーメーションを変える「可変システム」を用い、「失点しなければ負けない」という戦い方をベースに、セットプレーやカウンターで勝負強く勝ち点3をもぎ取ることに成功している。強烈な推進力を持つ武藤嘉紀の仕掛けがチームに怖さと勢いを与えている点も見逃せない。今シーズンはガンバ大阪サンフレッチェ広島に2失点ずつを喫した以外の6試合は無失点。しかもイタリアサッカーの代名詞とも言える「ウノゼロ(1-0)」のスコアで4勝を収めていることも特徴的だ。最後の砦となる権田修一も鋭いセービングでゴールにカギを掛けているのも大きい。攻撃陣、守備陣ともに選手層が厚くなり、イタリア人指揮官の下で“リーグ最強の盾”を掲げるFC東京がステージ優勝を視野に入れて突き進んでいる。

 対する川崎は就任4年目を迎えた風間八宏監督の攻撃サッカーが絶大な威力を発揮している。ここまでの8試合で挙げた得点は、リーグ最多となる17。実に1試合2ゴール以上を奪っている計算だ。選手たちがピッチ上で判断しながら流動的に動き、相手のギャップに顔を出してボールを受け、パスをつないで敵陣へ攻め込む。積極的に動いてパスコースを増やすことで攻撃の幅を広げ、中村憲剛のゲームメークから大久保嘉人小林悠レナトら決定力のある選手がフィニッシュに絡む。チームとしてどこからでも点が取れるのは大きな強みだ。ボールを保持していれば負けることはないという考え方をベースに、流麗につなぐダイレクトパスや後方からの飛び出しには厚みと迫力がある。まさに“リーグ最強の矛”と言っていいだろう。

 1試合平均0.5失点のFC東京と、平均2ゴールを超える得点力を持つ川崎。まさに「ウノゼロの美学」と「攻撃は最大の防御なり」という全く異なるサッカー哲学を持つ両者によるサバイバルマッチだ。

 “最強の盾”が川崎の攻撃陣を弾き返すのか、それとも“最強の矛”がFC東京の守備陣を突き破るのか。近年稀に見る対照的な両クラブの激突。1stステージ優勝争いを左右する第25回多摩川クラシコは5月2日(土)16時、味の素スタジアムでキックオフ。究極対決の結末は、自らの眼で見届けろ。


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