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“夏春制”ならば可能だが、それでは移行の意味がまるでない!

2014.07.25

[写真]=Getty Images

2015年度から2ステージ制へと移行するJリーグは、さらにその後に秋春制を導入することが既定路線となっている。W杯での惨敗を受けて日本代表の強化スケジュール円滑化を目的とした秋春制早期導入の声も出ているが、果たしてその是非はどうなのか。あるいは、どうすればよりスムーズな移行が可能になるのか。本格的な夏を前にして、あらためて『J論』として議論してみたい。今回登場するのは甲府のエルゴラ番記者でもある博識の党首・大島和人。日本屈指の夏を知る男が、その是非へと切り込む。

■暑い夏を忌避するのは当然のこと


「暑いですね」

 その言葉は、夏のJリーグを訪れる者にとって、定型句の挨拶のような一言だ。あるチームを取材していて、そんな時候の挨拶から始まった雑談が秋春制に及んだことがある。

 そのコーチは「おかしいですよ」と怒気を含んで口火を切った。

 自分は最初「どちら側」から怒っているのか分からなかった。探りながら会話を進めると、「こんな季節にサッカーをやることがおかしい」という憤懣だった。確かに真夏にサッカーをすれば選手のパフォーマンスは落ちるし、健康上のリスクもある。「日本人はやれない理由ばかり言いすぎる。手間とコストをかけても秋春制を導入するべき」というのが彼の意見だった。それは間違いなく、リアルな現場の思いなのだ。

■現状でも日程は満杯に近い

 とはいえ、自分の周りのサポーター、ライターについて言えば、積極的な秋春制賛成論者は皆無に近い。試合を”観る側”にとって夏の暑さは問題だけど、冬の降雪はもっと大きな問題だ。秋から冬に開催されるJユースカップで、コンサドーレ札幌U-18を2回戦から決勝まで取材したことがある。「ピッチは大丈夫ですか?」という問いに対する監督の答えが「ぎりぎりです」「無理です」と徐々に変わっていった。11月末くらいがボールを蹴れなくなる目途ということらしい。

 札幌を例に挙げれば、ざっと4~5か月は屋外でサッカーができない期間が続く。少なくとも北海道と青森、秋田、岩手、山形、新潟の5県は近似した状況だろう。私が取材しているヴァンフォーレ甲府も、今年は1mを超す豪雪被害を受けた。中央市のグラウンドは2週間、韮崎市のグラウンドは1カ月にわたってボールを蹴れない状態だった。しかもこれはアカデミー以上のコーチ、スタッフ総出の雪かきで何とか練習再開を早めた結果である。雪に埋もれ、日照を遮られていた芝は、しばらくボロボロの状態だった。

 もちろん夏がサッカーにとって理想的な環境ということではあるまい。昨夏の甲府は連日のように40℃を超す猛暑が続いた。うっかり荷物を直射日光に晒した私は、パソコンとカメラを壊してしまったほどだ。ただ、そんな土地にも冬になれば雪が降る。地球も多少は温暖化したのかもしれないが、雪害は減っていない。身も蓋もないことを言えば、日本は夏も冬もサッカーに向いていない国である。ただし相対的に見れば、夏のほうがまだ「マシ」ということだと思う。台風と落雷が来ない限り、試合はできるからだ。

 加えて言えば、秋春制でもJの日程はそこまで極端に変わらないかもしれない。J1のカレンダーは現時点で既に”疑似2季制”といっていい。今季を例に挙げるなら3月1日に開幕して、5月17日に中断するまでの14試合が”前期”。7月19日に再開して、12月6日に終幕するまでの20試合が”後期”だ。2カ月の中断期間に各クラブはオフを取ってキャンプを張り、新戦力を補強する。中断明けの第15節には”2度目の開幕”という趣すらあった。

“前期”を3試合増やして、“後期”を3試合減らせば、キレイな2季制が実現する。その上で前期を後期、後期を前期にすれば、そのまま秋春制だ。(※2014年を例にすると”2014前期”を2013-14シーズン後期に、”2014後期”を2014-15シーズンの前期にすればいい)。実際に夏場の開催を3試合削れれば、悪くはないスケジュール設定と言えよう。

 しかし“前期”にあと3試合足すことが存外に難しい。一つ目の理由は中断後の日程が詰まっていること。4年に1度はW杯があり、他の年もW杯予選やコンフェデ杯といった国際試合が入る時期だからだ。開幕前については、もちろん雪の問題がある。現行の日程でも雪の影響は受ける。ただ、開幕からアウェイが1、2試合続くレベルならともかく、4試合も5試合もアウェイを続けるチームがいくつも出れば、日程編成はいびつになってくる。さらに練習場確保の問題が、それと別に存在する。

 1年間には52回の週末がある。20~25週はオフや代表戦、カップ戦のために空けなければいけない。今季のJ1は3月から5月の12週で14試合を消化した。週末に加えて4月29日、5月6日に試合を組んだからだ。3月から5月のミッドウィークは、AFCチャンピオンズリーグで埋まっている。となれば、中1日でリーグ戦を組みでもしない限り、前半戦にはもう日程を入れる余地がないのだ。

■“夏春制”ならば可能だが……

 7月末開幕、5月中旬閉幕でウィンターブレイクは12月末から2月末までの3カ月……。という”夏春制”を無理やり導入することも理論上は不可能ではない。しかし6月の国際試合を戦う代表選手は、まったくオフを取れない状態で、リーグ戦の開幕に臨むことになる。こんな日程が代表の強化につながるはずもない。そもそもこれでは現行のスケジュールと夏の試合開催数が変わらず、移行するメリットがない!

 加えて秋春制が導入されると、Jと下部リーグの日程にズレが生まれるという問題もある。どこのカテゴリーまで秋春制を導入するつもりか見えて来ないが、昇降格に半年のタイムラグが生まれることになる。頭の体操として考えて見てほしい。あるクラブが2014年に昇格して、15-16シーズンは降格したとする。その場合は17年シーズンから下のリーグに戻るのだろうか?だとすれば、このチームは4年で3シーズンしか戦えないことになる。それとも日本全国のリーグ戦を、国情を無視してすべて秋春制にするというのだろうか?

 リーグ戦のスケジュールは日本の気象条件はもちろん、社会制度にまで及ぶ問題だ。少なくともサッカー界の都合で1年間の日数や日本の四季を変えることはできない。強行は可能だが、そうすると極端な連戦や、オフとチーム作りの時間を削るという形で選手に犠牲を強いることになる。そもそも夏の試合を減らす、欧州への移籍を容易にするといった”選手目線”が秋春制導入の目的だったはず。そこに負担を掛ける形での秋春制導入は意味がない。

■現時点での結論は……

 チーム数を減らせばいい。そんな提案は有り得るだろう。しかしJ1を見れば18チームでも十分に混戦だし、試合を減らせば各クラブの収入も減る。夏から冬にかけては、日程も十分に確保できている。「秋春制を導入するためにチーム数を減らす」という結論になるなら、それはもう手段と目的が倒錯した”秋春制原理主義”ではないか。

 仮にW杯の時期が変わる、ACLがなくなる、あるいは大幅に試合数が減るといった劇的な変化があれば、秋春制の実現性は一気に高まる。そのときにようやく、メリットとデメリットを議論する状況が生まれることになる。逆に言うとそういう環境変化がない限り、秋春制の導入は無謀だ。ここまでお読みいただいた方なら、私の答えはお分かりいただけただろう。

 2014年現在の秋春制を巡る現実は”是非を議論する以前”だ。

文●大島和人

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