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亡き父に最高のはなむけとなる得点王獲得…川崎移籍ですごみを取り戻した大久保嘉人

得点王に輝いた大久保嘉人 [写真]=Getty Images

 横浜F・マリノスの自力優勝がかかった12月7日の2013年J1最終節。その舞台となった等々力競技場で主役の座をつかんだのは、横浜FMではなくホームの川崎フロンターレだった。そして、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場権獲得を狙うそのチームを力強く牽引したのは、エースストライカーの大久保嘉人だった。
 
 最終節を迎える前の時点で今シーズンの総ゴール数は26。2位につける川又堅碁(アルビレックス新潟)に4点差をつけてトップを走っていた背番号13は、特別なプレッシャーを感じながらピッチに立った。
 
「自分が得点王を取れるかなと思い始めた9月くらいから、プレッシャーがハンパなかった。下にいるのは全員年下だったし、負けたら恥ずかしいなと。自分が年下だったら『追ってやろう』って強い気持ちでいけるんだけど、今回は追われる側だった。それでプレッシャーを感じたんでしょうね」

 だが、その大久保よりも、優勝の期待を背負う横浜FMの方がはるかに重圧を感じていた。虎視眈々とゴールを狙う大久保のスピードと鋭さを警戒するあまり、中澤佑二と栗原勇蔵の両センターバックは対応が後手になった。下がりながらの守備も不安定で、いつ大久保に背後を取られてもおかしくない展開が続く。大久保は明らかに精神的に優位に立っていた。
 
「最初は2人がベタッとついてきて、今日は難しいかなと思ってた。だけど途中から動きが完全に読めた。自分に来ると思ったら来ないから簡単に前を向けるし、プレスをかけにいけば全部蹴り出しちゃう。俊さん(中村俊輔)も下がってくれたのでよかった。俊さんは前を向かせたら怖い存在だけど、後ろでプレーさせればイナさん(稲本潤一)と真希(山本)の両ボランチが確実につぶしてくれる。ホントにやりやすかったです」

 こうしたメンタル面のゆとりが後半8分の先制点に結びつく。中村憲剛が中村俊からボールを奪ったのをきっかけに、左に開いた大久保につながり、彼は狙い澄ましたシュートを蹴った。「枠に飛ばしてブレさせようと思った。狙い通りでした」と本人もほくそ笑むシュートをGK榎本哲也はキャッチしきれなかった。こぼれ球を運動量豊富な大島僚太が拾って、レナトがゴールネットを揺らした。
 
 この1点が決勝点となり、川崎はACL出場権を獲得。大久保も「父が亡くなった年だからこそ絶対に取りたかった」と涙を流すほど、思い入れの強い得点王のタイトルをついに手に入れた。
 
 2001年に国見高校からセレッソ大阪入りした頃の大久保は、傑出した得点感覚を誇るストライカーだった。2002年に18点、2003年に16点、2004年には15点と、新人時代はその額面通りの結果を残していた。

 しかし2005年1月にスペインのマジョルカへ移籍してから、その華々しいキャリアに微妙な狂いが生じる。スペインでは成功できず、2006年にはC大阪に復帰するも、チームはJ2降格の憂き目に。翌2007年に移籍した新天地・ヴィッセル神戸ではサイドでプレーする機会が多く、得点以外の仕事に忙殺される。そんな自分を変えるために2009年1月に再び欧州へ赴いたが、ヴォルフスブルクでは無得点という苦汁をなめた。その後の神戸時代は年間1ケタ得点が続き、本人としても納得いかない日々だった。
  
 そして31歳になる今年、川崎へ移籍。中村憲剛という最高のパッサーがいるチームで得点を奪う仕事に専念できるようになった。

「神戸での嘉人は全部やらないといけなかったけど、今は憲剛がいる。日本で1、2を争うパサーがいるわけだから、嘉人にとっては素晴らしいパートナーですよね」と、ともに2010年南アフリカワールドカップ16強入りの原動力となった親友・松井大輔(レヒア・グダンスク)も太鼓判を押していたが、大久保は本来の能力を発揮できる環境を手に入れ、躍動した。
 
「26得点はハードルが高い数字」と大久保自身も語っていたように、2005年のJリーグ1シーズン制移行後の得点王を見ても、33得点のアラウージョ(ガンバ大阪)に次ぐ記録である。日本人ではもちろん最多。それを31歳になったベテランがやってのけたことに大きな意味がある。
 
「30歳を過ぎても選手として成長できる」。風間八宏監督のもと、中村憲や稲本潤一ら川崎でプレーする30歳オーバーの選手たちは口々にそう語る。今季の大久保は、その言葉をまさに体現してみせたのだ。
 
 これだけのキレと高い決定力を誇る日本人FWはそういない。日本代表のザッケローニ監督もそろそろこ目を向けてもいいはずだが、本人はあくまで冷静に現状を捉えている。

「ワールドカップ? 監督に聞いてください。もちろんまた出たいですよ。ただ、俺が何を言っても選ばれないから」
 
 2度目の夢舞台を諦めたわけではない。2014年の夏、生粋のアタッカーがどうなっているか大いに気になる。

文●元川悦子

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