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新スタだけじゃない…2024年開業予定の複合型施設「長崎スタジアムシティ」とは?

2020.12.04

スタジアム観客席 [写真]=Ⓒジャパネットホールディングス

 長崎という街が、ある企業の手によって変わろうとしている。

 昨年6月、ジャパネットグループは2018年から進めている長崎・幸町工場跡地活用事業「長崎スタジアムシティプロジェクト」を遂行するために、株式会社リージョナルクリエーション長崎を設立した。


 2024年にはV・ファーレン長崎のホームスタジアムを諫早市から長崎市へと移し、新スタジアムを中心に、アリーナやオフィス、商業施設、ホテルなどで構成する複合型施設「長崎スタジアムシティ」を開業する。

 この壮大なプロジェクトには、どのような背景があり、どのような未来が描かれているのか。リージョナルクリエーション長崎の取締役を務める岩下英樹氏に話を聞いた。

◆ジャパネットグループ
1986年、髙田明氏が長崎県佐世保市でカメラ販売店「株式会社たかた」を創立。1990年に通信販売事業を開始したのち、2007年には持株会社となる「株式会社ジャパネットホールディングス」を設立した。2015年、長男の髙田旭人氏が二代目・代表取締役社長に就任すると、2017年にV・ファーレン長崎の運営会社を子会社化。翌年、三菱重工長崎造船所幸町工場跡地再開発業務の優先交渉権を獲得し、昨年6月にスポーツ・地域創生事業として「株式会社リージョナルクリエーション長崎」を設立した。

取材・文=近藤七華
写真=ジャパネットホールディングス

プロジェクトの本質は、長崎県全体を盛り上げること

スタジアムコンコース [写真]=Ⓒジャパネットホールディングス


――まずは、「長崎スタジアムシティプロジェクト」を立ち上げた経緯について教えてください。
岩下 三菱重工長崎造船所幸町工場が再編により2018年度末で閉鎖することに伴い、跡地の活用事業者に応募し、選定いただいたことがきっかけです。ジャパネットはV・ファーレン長崎をグループ会社としており、長崎に育ててもらった会社でもあります。そこで、「スポーツを通じてワクワク感を届けられる場所を作りたい」という思いに至り、このプロジェクトが立ち上がりました。我々はこれまでに何度も海外視察を行うなか、日本のスポーツビジネスに課題があることを感じていました。そこで、都市中心部にある長崎駅から徒歩10分という好立地にスタジアムシティを作れば、様々な課題解決につながるのではと思ったんです。もちろん大前提として、私の地元でもあり、会社の創業の地である長崎に恩返ししたいという想いもありました。

――プロジェクトを進めている事業部について教えてください。
岩下 スタジアムシティPJ管理部、スタジアムアリーナ事業企画部、商業飲食事業企画運営部、地域連携部の4部署のすべてが長崎を拠点として進めています。もともとジャパネットホールディングスの中の準備室的な位置づけとして、東京に「スタジアムシティ戦略部」、長崎に「長崎まちづくり部」がありました。しかし、リージョナルクリエーション長崎が昨年に設立され、プロジェクトが本格化していくなかで徐々にこのような形にシフトしていきました。また、現在はリージョナルクリエーション長崎と、今年6月に設立した株式会社ジャパネットリージョナルスタッフィングという2つの会社がこのプロジェクトに関わっています。前者はスポーツ・地域創生事業を担っており、後者はV・ファーレン長崎と連携し、ホームゲーム運営などを担当しており、将来的には昨年12月より指定管理を行っている稲佐山公園(長崎駅から車で約15分)や長崎ロープウェイ、スタジアムシティの商業施設、ホテルなどへの人材派遣やスタッフの教育を行う予定です。

――すべての部署を長崎に集めたのはなぜですか?
岩下 企業理念や考え方はもちろん、ここぞという踏ん張り時でみんなが一丸となる瞬間の空気感や温度感を、その場で共有したかったからです。このプロジェクトに関わる事業内では毎日10分程度の朝礼を実施しています。地域創生には多くの人が関わるので、まずは部署内や部署間でコミュニケーションをしっかり取っておくべきだと考えました。

まさに今が勝負どころ

※構想段階のため今後デザイン含め変更の可能性があります [写真]=Ⓒジャパネットホールディングス


――現在のプロジェクトの進捗状況はいかがですか?
岩下 ビジョンやコンセプトを設定したり、設計会社が提出してくれるさまざまなデザイン案に修正を加えたりしながら、現在はより良い案に絞っていく作業をしているところです。どの施設にも、足を運んでいただいたときに「ワクワクできるか」を最も大事なポイントとしていて、見た目にもかなりこだわっています。スタジアムに関しては観戦するときの一体感や投入感を大事にしたいので、ピッチから観客席までの距離を5~6メートルと、最大限に近く配置する予定です。一方で、施設同士の連携性や連動性、人の動線などについてはこれから詰めていくという状況で、まさに今が勝負どころです。

――デザインの最終決定はいつ頃を予定していますか?
岩下 大枠はほぼ決定しました。設計時に多少の変更はあると思いますが、ビジュアルとして表現できそうなタイミングまで到達しているので、皆さんへのお知らせは、もうまもなくできると思います。

――プロジェクトのPRの一環として、V・ファーレン長崎の公式アプリ内には特設ページを開設しています。これにはどういう意図があるのでしょうか?
岩下 このプロジェクトについて一番認知していただきたいのは、地元の方たちの中でもやはりV・ファーレン長崎のサポーターの方々です。なので、注目してもらいやすい公式アプリ内でPRを行う形にしました。まだ決定ではないですが、将来的にはスタジアムシティ専用のアプリを作り、アプリ内で決済や施設の予約ができるようなサービスを展開していきたいと考えています。

――特設ページの中でも「世界のスタジアム視察紀行」という連載コンテンツを配信しています。世界各国のスタジアムを視察するなかで特に印象的だったスタジアムはありますか?
岩下 それぞれに独特な雰囲気と特徴がありましたね。トッテナム・ホットスパーFCの旧本拠地ホワイト・ハート・レーンに行ったときは、街の人口としては長崎よりも少ないのに約3万6千人収容の客席がすぐに満員になり、試合後には2、3時間かけてぞろぞろと歩きながら帰っていく景色を見てシンプルに「すごい」と思いました。アメリカのボールパーク(野球場)は、エンターテインメントに注力しているということもあり、空間そのものを憩いとして使っている感じが印象的で、スポーツ観戦のあり方が変化していることを実感しました。プロジェクトの参考にする部分も多く、座席の幅にゆとりを持たせたり、試合がない日でも公園のような形で客席を利用できたりするというアイデアは、視察をするなかで着想を得たものです。

――スタジアム以外の施設のポイントは?
岩下 ホテルや商業施設で言うと、観光客の方たちも楽しめるような空間作りを意識しています。スタジアムが見える部屋を設計したり、商業施設内に催事場を作り、試合前の1週間はアウェイチームの地域の名産品などを販売するといった企画を考えています。

ホテルからの眺望 [写真]=Ⓒジャパネットホールディングス

平和のメッセージを発信することは大きな使命

――今年7月には、プロバスケットボールクラブを立ち上げ、Bリーグ3部(B3)への公式試合参加の資格申請を行ったことを発表しました。2021-22年シーズンからの参入を目指し、スタジアムシティ内のアリーナを本拠地とするそうですが、Bリーグ参入への経緯について教えてください。
岩下 スタジアムシティを計画するなかでアリーナの建設が決まったとき、「じゃあアリーナで何をするか」という話になりました。アリーナはスポーツと音楽、演劇といった興行で成り立っています。そこで、スポーツの枠は長崎ならバスケットボールだろうと。というのも、長崎県におけるバスケットボールの競技人口は男女合わせるとサッカーを超え、「長崎はバスケの街だ」と推す人もいるほどポテンシャルが高いんです。なおかつ、Bリーグは2015年の創立当初から現在までの数年でいろんな改革がなされていたり、前チェアマンの大河正明氏や現チェアマンの島田慎二氏から今後の成長戦略を聞くなかで、すごく可能性を感じました。シーズン開幕前には強豪チームとプレシーズンマッチを開催したりして、どんどんアピールしていきたいですね。

――事業のコンセプトの一つに、「平和のメッセージを長崎から世界に広げる施設にする」とあります。これを実現するためには、どのような活動を行っていくのでしょうか?
岩下 平和のメッセージを発信することは、原爆が投下された都市として大きな使命です。V・ファーレン長崎はこれまでにも平和祈念マッチなどを開催してきましたが、できることはもっとあると思います。今年8月には、稲佐山公園で「Japanet presents 被爆75周年 長崎から世界へ平和を -稲佐山音楽祭2020-」という企画を実施し、BS放送で生中継しました。従来なら1万人以上が集まる広場で行ったものの、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため無観客となりましたが、SNSなどでも多くの反応をいただき、平和のメッセージを届けることができました。今後も何かしらの形でメッセージを発信し続けたいと思います。

――スタジアムシティは今後、長崎県民にとってどのような存在になることを期待していますか?
岩下 「試合がない日でも子どもから大人まで一日中楽しめる場所」であることと、県外に出ていった人たちが「帰ってくる理由になる場所」であることですね。私は県外に出ていくことが悪いとは思いません。仕事の面でも、楽しむという面でも、「行った先で誇れる長崎」や「自慢できる長崎」であることが大切だと考えています。とはいえ、現時点ではまだ「新しいサッカースタジアムができるらしい」くらいにしか認知されていないので、まずはしっかりと魅力を伝えていこうと思います。

浦上川の景色 [写真]=Ⓒジャパネットホールディングス

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