FOLLOW US

高木義成がGKの未来を切り拓く…オンラインコミュニティ「GK PORT」を開設

2020.11.24

[写真提供]=LastStand

 高木義成が本気で挑む一大プロジェクト。「GK PORT」が切り拓くのは、日本のGKたちの未来だ。

 かつてはアキバ系なんて呼ばれたこともあった個性派ゴールキーパーが、本気である。東京ヴェルディ名古屋グランパスFC岐阜でプレーした高木義成は2017年の現役引退から2年半、サッカーショップKAMOの外商部でサラリーマンとしてのセカンドキャリアを刻んできたが、今年8月に一念発起し脱サラ。「高木式GKメソッド」なるものを突如として世に発信し始め、10月にはその活動基盤となる「合同会社LastStand」まで立ち上げた。プロサッカー選手からサラリーマン、そして社長となった高木はここから、「GKに関わるどこかの誰かに届いてほしい」と、自らの経験を基にしたGK育成の潮流を起こそうとしている。

 今回の事業立ち上げは、実は10年来のアイデアだったという。現役当時から多くのGK仲間との交流、あるいは所属チームでのポジション争いを通してゴールキーパー理論を磨き上げていった高木は、日本のGK育成の実情を見るに一石を投じたいと常々思っていた。「何がしたいって、“港”になりたいって思ったんだよ。まずは一回、オレのところに集まって、そして必要な知識や技術を身に着けて、また自分が目指すステージに向かっていきなよ、と」。12月から開始する有料オンラインコミュニティの名前は「GK PORT」だ。日本のGKたちにプロのゴールキーパーたちが何を考え、どんな意識でプレーしているかを伝え、そのトレーニング方法も紹介する。高木式GKメソッドはYouTubeや自身のSNSでも発信されているが、あくまでそれはさわりであり、「例えば、パントキックを蹴る動画をやったけど、あれはオレからすればただ蹴っただけ。実際にはもっと面白い蹴り方がたくさんある」と有料域ではさらなる深みを用意していると豪語する。

 自信はある。高木はサラリーマン退職後、「LastStand」立ち上げの準備と並行して現場に復帰を果たしてもいる。仲のいい栃木SCのFW矢野貴章とのつながりから、矢野の兄が監督を務める日本体育大学サッカー部のGKコーチに就任。まずは週3回の参加で大学生GKたちに熱血指導を繰り広げている。「最近は体が絞れてきてさ、実践してみるの。そうすると大学生たちの目の色が変わる。それを見て手応えは強くなったかな」。卓越した理論は伝える術あってのもの。もともと話すのは得意な選手だっただけに、実践の場を得たことで理論武装はより強固なものになっているわけだ。教えすぎてもいけない、だから「何で?」と問いかけを忘れない新米GKコーチは、「上手くさせるのはけっこうやれるなって感じている」と、自らの活動の中での相乗効果に拳を握る。

 ここから具体化していく「GK PORT」の試みは、壮大で野心的だ。月額5000円というリーズナブルな価格設定で高木式GKメソッドの核心を伝えていきつつ、オフラインでの活動にも目を向ける。「今考えて実行に移していきたいなと思っているのが、シーズン開幕前にプロや大学生のGKを集めて行なう“GKキャンプ”だね」。高木自身も現役当時にあればいいなと思っていた、あるようでなかった取り組みは、GKたちのプレシーズントレーニングの質を飛躍的に高める期待感にあふれる。そこには“GKコーチ研修”としての側面も持たせられるといい、「コーチやコーチになりたい人を呼べば『GK PORT』としてコーチの指導も合わせてできるし、一緒にトレーニングができる選手の数も増える」と抜け目ない。しかもそれは儲け話ではなく、日本のGK関係者たちの環境改善に根差したアイデアであるから心地よい。

 もちろん事業の核であるオンラインコミュニティとしての機能拡充・充実にも余念はない。高木式GKメソッドの基本理念は『知っているのと知らないのでは大きな差がつく』というもので、各種無料コンテンツをきっかけに興味を持ってもらい、有料域に入ればさらなる価値を提供しようという流れを用意している。それは例えば高木が懇意にしている川口能活、楢﨑正剛という超ビッグネームとの対談であったり、「ウチの息子を見てもらえませんか」といった個人レッスン的なサービスでもあるという。そうした展開を見せる中で、「土のグラウンドで3学年で2人しかGKがいないようなチームの『キャッチなんてしたことないです』みたいな選手たちが、『高木式何やってたっけ?』、『じゃあ動画見てみるか』ってできるようになれば」というのが一つの理想で、「全国のGKが『今日のメソッドどう思う?』、『イマイチじゃね?』みたいな会話してたらいいよね(笑)」という日常が高木が密かに抱く野望である。

 しかし彼は“教祖”になりたいのではない。高木の「サッカーを始める子どもがボール、スパイク、GKグローブの三種の神器をそろえる日本サッカー界になってほしい」という願いは、GKたちの総意でもあり、サッカーの発展には欠かすことのできないファンダメンタルな要素だ。GKというのはその特殊性もあってか、仲間意識、あるいは家族的なつながりが生まれやすい人種である。“みんな”とともに、“みんな”のために、高木は自らの退路を断って、大海原に漕ぎ出したのである。

「自分だけのためにやっていたら、誰も協力してくれないよね。GKの人たちだって、オレが自分のためにって行動してたら『違うでしょ』ってなると思う。今はまずこの熱意みたいなものが伝わってくれればと思う。12月から月額制の『GK PORT』を始めるけど、それで“高木が金儲けをし始めた”と思われるかもしれない。でも、金儲けなら別のことをするね。もちろん自分が生活をするために稼ぐ必要はあるけど、それよりもこの世界に帰ってきたことが重要で、中途半端な気持ちで帰ってきたわけじゃない。ウチの商材はオレの経験だし、それを使っていかにGKが上手くなれるかが一番重要と考えてる。オレが発信するものがチープなものなら会員は増えないけど、それが100人、1000人に届いたらすごいよね。そしてそこからどれだけ広がっていくんだろうって世界が見たい」

 事業が本格化する来年1月には「ものすごいコンテンツ」を仕込み中だとか。「面白くないのは“高木式GKメソッド”という名前だけ」と笑う高木は心の底から人生を楽しんでいる。多忙は希望に満ちている。今後は世界的な展開も目論んでいるというから恐るべし。高木義成がつくった『GK PORT』という港が、可能性という名の船で賑わう未来が楽しみで仕方ない。

文=今井雄一朗

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO