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【インタビュー】勝村政信“日本サッカーが強くなるために” 『FOOT×BRAIN』300回で感じた“知ることの大切さ”

2017.02.11

[写真]=野口岳彦

“日本サッカーが強くなるためにできることのすべて。”を掲げ、2011年4月からテレビ東京にて放送がスタートした『FOOT×BRAIN』が2017年2月11日の放送で300回を迎える。

 同番組はサッカーの選手・クラブ関係者のみならず、サッカーに関わる企業人や識者、さらには他スポーツのトップ選手や学者など、各界のプロフェッショナルを招いて日本サッカーが強くなる可能性を様々な形で模索し、示してきた。

 節目の放送を前に番組放送開始時から司会を務める俳優の勝村政信さんに話をうかがい、これまでの放送を振り返ってもらうとともに、サッカーの奥深さを語ってもらった。

インタビュー=小松春生
写真=野口岳彦

■光を当てる場所が多岐に渡っているところが、この番組の大きな魅力

―――まず、300回の放送を迎えての率直な感想をお聞かせください。

勝村政信(以下、勝村) 毎回本当に楽しくて、やっていたら「いつの間にかそんなにやったんだ」という感じですね。気持ちとしては、先日ウェイン・ルーニーがサー・ボビー・チャールトンのマンチェスター・Uでの公式戦得点記録を破ったことに近い感じです(笑)。「すごいことをやっちゃったな、俺たち!」みたいな。

―――これまでの放送を振り返ると、どのような300回でしたか?

勝村 番組の放送開始は東日本大震災の直後でした。初回のゲストは中田ヒデ(英寿)くんで、第2、3回は金子達仁さんや秋田豊さん、中西哲生さん、前園真聖さんに出演していただきましたけど、本当に大きな出来事の後だったので、「この番組はどうなるんだろう」というところから始まりました。だから、こんなに長く続くとももちろん思っていませんでした。

―――2011年4月の放送開始からここまで長く続けてこられた要因は何でしょうか。

勝村 テレビ東京は『三菱ダイヤモンド・サッカー』を通じて、サッカーの礎を作った放送局です。その強さは感じましたね。ワールドカップで優勝する前から、なでしこジャパンの放送回があったり、サッカーが関わることはほとんどやっているんですよ。土台がしっかりしていて、すごいことがたくさん起こっても、それを受け止める器が大きかったということだと思います。

 あと、光を当てる場所が多岐に渡っているところが、この番組の大きな魅力になっています。本当に細かい。ピッチの芝を育てている方、スタジアム周りに携わっている方などは、なかなか光の当たる機会が少ないです。でも、その仕事があってこそ、日本サッカーの技術が高くなっているかもしれないことを、ちゃんと結びつけて考えられる。そういう方たちの声も聞くことができる機会は、なかなかないですから。

■サッカーを通じて全部が1つになっていく

―――『FOOT×BRAIN』の出演を契機に、ご自身に変化はありましたか?

勝村 自分の中で、より広く深く“縦のライン”がきっちりしてきました。サッカーでも演技でも人生でもそうですが、縦とは歴史です。その“縦のライン”がどんどん太くなってきている感覚があります。

―――番組ではサッカーが主軸となりますが、人生についても得るものが多いと?

勝村 多いですね。例えばサッカーが盛んな国の方に「サッカーはあなたたちにとって?」と聞くと必ずと言っていいほど「人生だ」と返ってきます。最初に海外でサッカーを見たのは20年以上前のシェフィールド・ウェンズデイの試合なんですが、スタジアムが駅から遠かったんです。日本は駅が便利で、街の中心にあると思いがちです。でも、海外、特にヨーロッパは中心が教会なので、そこから何かが始まっている。そこでまず激しいパンチを打たれたんです。その試合の時もスタジアムまで歩いて30分かかると言われて、「なんでこんなに遠いんだ」と尋ねたら、「バカじゃないかお前は、30分サッカーの話ができるんだぞ」って返ってきたんですよ。そんなこと考えたこともなかった。

 結局、自分は極東の島国の小さな場所に生まれ育って、そこしか見ていないということがよくわかったんです。歴史で考えていくと、例えばスペインはものすごくわかりやすい。世界史で習っていた程度だったフランシスコ・フランコ政権についてはクラシコのライバル関係を通じて知ることができるし、バスク地方やアンダルシア地方の歴史も同様です。パブロ・ピカソの『ゲルニカ』の意味や、カタルーニャ大学に入る時はカタルーニャ語を話せないといけないというような話も、全部が1つになっていくんです。

 日本では、ホームとアウェイの差が少ないことを考えると、廃藩置県からなのかなと僕の中では繋がっているんです。例えば長野と松本のライバル心は、藩で考えれば簡単なことで。日本の場合は、歴史の中でスポーツと地域がかけ離れていて、企業がメインとなって進んできました。歴史というものをサッカーは思い出させてくれたんです。いろいろなことを教えてくれて、なぜそうなったのか、その時に誰がいて何が原因だったのか、“横のライン”もより見えてくる。そうすると横と縦がしっかり結びつくんですね。サッカーを通すと簡単にそれがわかってくると。

―――300回の放送の中で、一番思い出深い回は何でしょうか。

勝村 直接、選手の声をうかがう回も緊張感がありますが、選手のために何かいろいろなことをされている方たちの声を聞ける回は印象深いですね。ピッチを作ってくださっている方たち、ベンチや屋根を整備している方たち…。日本の器具は世界的にも非常に活躍しています。そういった一見したら全く別に見える仕事が、サッカー愛というもので結びついている。間接的にサッカーのすごさを見ることができる回は、僕らの想像を越えてくるものなので、思い出深いですね。サッカーが好きで、飲み屋でワイワイ朝までサッカーについて「ずっと話してられるぜ!」という方たちの考えは、僕もそうなので共感できる部分が多いです。でも、そうではない形で、選手やクラブのために動いている、関わっている方のお話は、心に刺さります。

■紆余曲折を経験して前に進んでいることは日本の強み

―――番組にはラグビーの五郎丸歩選手や青山学院大学陸上部の原晋監督など、サッカー以外のスポーツのトップレベルの方も出演されています。サッカーとの関係性を感じる部分は多くありましたか?

勝村 日本はどうしても各スポーツ間の垣根が高くてなかなか飛び越えられないと感じますが、世界ではそうではないように思います。以前、ブラジルにセルジオ越後さんと行った際、コリンチャンスのスポーツクラブを訪問したんです。そこでは日曜日に教会へ行った後の大人や子どもが、水泳、バスケ、テニス、サッカーと何でもやるんです。サッカーの好き嫌い関係なく、みんなが同じコリンチャンスのエンブレムが入ったTシャツを着ていて。プールで泳いだ後にサッカーをやっていたりして、「こんな自由に垣根がないんだ」と思ったんです。そうあったほうが、よりそれぞれが影響し合うし、サッカーではなく水泳の方が向いていると気付くこともある。サッカーを一生懸命練習していたら、実は水泳のためになっていた、なんてこともたくさんあるでしょうし。日本も早くそうなってほしいですね。できたら、日本を代表する各スポーツの選手が同じユニフォームを着られるようになったらいいなって。

―――番組がスタートしてから間もなく丸6年、Jリーグができてからは約25年が経過しました。日本サッカーの進化は感じられますか?

勝村 Jリーグは華やかにスタートして、そのインパクトがすごかったです。しかも、ワールドカップで活躍している有名海外選手もたくさんプレーを見せてくれました。その幸せな時期から、今度はお金がなくなって苦しい時期があって。足腰を強くして耐えないといけない時期を経験して、今は大きなスポンサーが来てお金が使えるようになりました。こういう紆余曲折を経験して、しっかりと前に進んでいることは日本の強みなのかなと思います。

 あとは、実験段階と言うと失礼かもしれないですが、選手たちを教える方たちも一緒に育ってきています。日本人の特性に「言うことを全部聞いてしまう」ということがあります。教える側からすれば、こんなに楽なことはないと思いますが、さらに上に行くために今は少し足踏みをしています。城福浩さんもおっしゃっていましたが、100メートル走で10秒の壁をあと0.1秒越えられない。10秒まではきましたけど、9秒台が出ない。陸上でもサッカーでもアジアの競技レベルが高くなっているので、いずれ各国も日本と同じレベルまでは来ると思います。日本はずいぶん足踏みをしていて、どう抜けていくのか。日本より先に抜けていく国が今後出てくる可能性はありますから。でも今は、抜け出す一歩を発見できるようなJリーグになっている気がします。

■Jリーグを見に行きましょう!

―――番組では「日本サッカーが強くなるために」をテーマに掲げています。

勝村 僕は、演劇についてはサッカーの目線で見て、サッカーについては演劇の目線で番組内で話すようにしています。例えば、サッカーでは監督ライセンスを取得する時、いろいろと身体を使って、参加者が共同作業をします。それは基本的に演劇と同様のメソッドです。僕らはものを使わず、身体だけで表現しますが、「なぜこういうことをやっているか」という答えはその時には言いません。監督が「こういうことをやろう」とは言いますが、何のためにやるかを言わない。それを言ってしまうと、そこにみんなが向かっていってしまうからです。『FOOT×BRAIN』は、「答えは言わずに共同作業をして考える」という番組だと思っています。

 他にはこれまでピッチの回、照明の回、屋根の回、ベンチの回などスタジアム関係の放送回だけでもいろいろありましたが、その回を見てくださっていると現地に行って座った瞬間に「あのピッチはああいう方たちが作った」とか、照明が灯った時に「こんなに細かく計算されて明かりを均一的にやっているんだ」と実感できる。日本企業がすごく努力をされて、今は世界のトップクラスにいるということに何気なく気づけます。選手も見ていただければ、「こんなにすごいことを周りはやっているんだ」と感じられる。そうすれば、一歩の踏み出しが違ってきますよね。番組がサッカー界に大きな何かを与えているということは言えませんが、これまでやってきていることでも十分なのかなって。見ている側も選手も、個人個人にいろいろな受け取り方をしていただいて、そこから何かを感じてくだされば、それでいいのかなと思います。

―――今後、番組でチャレンジしてみたいことはありますか?

勝村 海外とのパイプは常に持っておきたいですね。番組内容としては、日本国内だけで成立してしまいます。こんなに安全で幸せな国もなかなかないですし。でも、日本のことだけを伝えても、海外に行った時に全く理論が通用しなくなる。一方で、日本の理論が海外に浸透していくこともあります。試合後のゴミ拾いなど、日本のサポーターがしたことが海外のサポーターを動かすこともありました。インターナショナルという意味での“グローバル”ではなく、それぞれの国々にあるいろいろなことを理解するという意味での“グローバル”。様々なことを見る、知るということは今後もしていきたいです。

―――どちらの国、どちらの文化に優劣があると比べるのではなく、それぞれを知るということですね。

勝村 実際にいろいろな場所へ赴くことが大事で、そこで感じるものがあるわけです。番組でベトナムに行った際には、到着した瞬間に汗が出てきました。画面を通じて見るといい天気とだけ映って、こんなに湿度が高いとはわからない。でも、実際に自分が感じることで、そこから選手たちがこの環境下で戦っていると考えれば、どれだけすごいことをしているのかがわかります。

 フランスに行った際も、友人の通訳を介して現地の代理人の方たちと話をして、ダイレクトに彼らが言っていることを教えてもらったんですが、日本と全く違うことを言っていたことに衝撃を受けました。極東の場所で起きていることだけではなく、僕個人としてもそうですし、番組を通じて多様な形を伝えられていければいいですね。

―――最後に、“BRAINな皆さん”へメッセージをお願いします。

勝村 やっぱり「Jリーグを見に行きましょう!」ということですね。Jリーグをアジアでナンバーワンのリーグにしないといけません。日本はアジアで常にナンバーワンにならなければいけないという使命感です。優しさや厳しさだけではなく、愛して、1人1人がスタジアムに1回でも行ってみて、選手たちを見るということが大事なことだと思います。

By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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