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夢は生徒に「今週、試合がある」と言うこと…教諭と選手、二足の草鞋を履くFW宮内亨

2015.04.10

ボンズ市原に所属する宮内亨 [写真]=重田航

文=川本梅花

 関東サッカーリーグ1部のボンズ市原に所属する選手を紹介したい。フォワードの宮内亨である。4日に行われたリーグ開幕戦後、話を聞いた。

■小学校の教師でありサッカー選手でもある

「仕事は?」と聞くと「学校の講師をやっています」と答える。「どこの?」と続けざまに質問した。「五井駅の近くの小学校で算数と体育を教えているんです」

 そうやって答えたのは、フォワードでチームの生え抜きである宮内亨であった。彼は、ジェフリザーブズからボンズ市原が創設された2011年に移った。

「ジェフリザーブズのときはアルバイトをしながらやっていたので、キツいなとも思って、サッカーを辞めようとしたんです」と話す宮内は、工場、ガソリンスタンド、居酒屋でアルバイトをしながらサッカーを続けてきた。そうした生活にも疲れてきて、先が見えないというよりも、先がない生活にケジメをつけようと決めていたときだった。

 宮内のもとにボンズ市原の創設に加わった山本哲也氏が声をかける。「山本先生が『市原に子どもたちのための強いサッカーチームを作りたい』と仰っていて、『創設メンバーとしてプレーしてみないか』と誘ってくれたんです」。そのときに宮内は「仕事は何かありますか?」と尋ねると、「学校の先生をやってみないか」と思わぬことを言われる。「自分に合っているのかな」と考えた宮内だったが、「サッカーもやれて、仕事も紹介してもらえて、こんなに恵まれた環境はないかもしれない」と考えて、教師の仕事に打ち込むことを決心した。

■本当の言葉と本当の意志

 宮内と会話をしていて、彼の内なる言葉を聞きたくなった。確かに、山本氏に誘われて、その理念に惹かれたことは本当のことだろう。でも、サッカーを一度辞めようと思った人間が、もう一度やり続けようと考えを変えた理由を知りたかった。

 僕は宮内に、何度も聞き返した。「サッカーを辞めようと一度思ったのに、どうして踏みとどまれたのか」と。宮内は、次第に内なる心の声を語り出した。

「自分のことを必要としてもらえた。それは踏みとどまった大きな理由のひとつです。当時の自分にとって、サッカーをやってきて、とてもよかったという思い出はなくて、なんだか不甲斐ないなって思っていたんです。結局、『俺はお金が続かないから好きなサッカーを辞めてしまうのか』という感情が湧き出てきた。アルバイトを続けてサッカーをやっていくこの生活がキツいな、と。だからサッカーを辞めるんだ。なんて不甲斐ないんだよ、と。そんな俺でも声をかけてもらって、もう1回やってみよう、と思ったんです。自分がサッカーをやり切ったのかどうか、という考えに行き着いたら、まだやり切っていないだろう、まだ走れるし、いろんな人に自分のプレーを見てほしい。もっとゴールを決めたい。そういう感情になったんです」

■Jリーガーだった監督のもとで何を学んでいるのか

 西村卓朗監督と出会って宮内の中でサッカー選手として変化はあったのだろうか。

「プロの目線というか、プロを目指していく方向づけをリアルに導いてくれている、と感じていますね。今までは、各個人がどんなサッカーをやるのか、と自分たちで考えてやってきた。そういったところで、プロはこういう世界だから、ここは守ろう、ここは攻めようという組織的な考えを植え付けようとしている。僕は、サッカーをやってきて、組織力ってなんだろうということを意識したことはなかったんです。組織力というところに力を入れた目線で見られるようになった」

「僕のこの動きに対する周りの選手との関係。たとえば、相手のボールをどこで取るのか、どういう取り方をするのか、を考えさせられる。たとえば俺が追って、後ろが待っているのか。チームが一緒じゃないと組織的な動きは崩れてしまう。それをできるチームは見ているとわかる。監督は僕らにそうしたことを教えてくれる」。

 最後に「今季の目標は?」と尋ねた。「二桁は点数を取りたい。監督の自分に対する想像を、いい意味で裏切る結果を出したい。自分の特徴は最後まで諦めないプレースタイルで、泥臭いプレーをするので、自分が後半途中から試合に出ても、チームの駒になる選手でいたいと思います」と語る。

「あっ、それに」と言葉を投げかけて、「先生なのに、J3プレーヤーになって、『先生、今週、試合あるんだ』と生徒の前で言ってみたいですね」と言って笑った。彼の笑い声を聞いている僕も、同じように笑っていた。

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