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近江|初出場の新興勢力…夢舞台で試されるのは「逆境を跳ね返す力」【選手権出場校紹介】

2020.12.28

[写真]=森田将義

 清水エスパルスでプレーした前田高孝監督の就任とともに本格強化が始まり、今年で5年目。滋賀の新興勢力である近江高校が、初の選手権出場を手にした。2年目にインターハイ初出場、4年目にはプリンスリーグ関西昇格を果たすなど右肩上がりで成長を続けてきたが、これまで選手権だけは縁遠かった。初めて選手が3学年揃った2018年は、まさかの初戦敗退。リベンジを誓った昨年も、決勝で草津東高校に敗れ、涙を飲んだ。

 失意のどん底に陥った前田監督は、年明けに1カ月ヨーロッパへ出かけた。現役を辞めて入学した関西学院大学時代も、東南アジアにバックパック旅行に出かけていたため、自らの原点に帰る作業だった。イタリア、イギリス、スコットランド、オランダの4カ国を周り、多くの人が熱狂し、文化になっているサッカーの素晴らしさを再認識。戦術や技術を教えるだけでなく、選手の感性を磨く指導の重要性にも気付いた。緊急事態宣言による自粛期間中などには、楽天大学の学長を務める仲山進也氏に話を聞くなどし、選手との接し方を見直していった。

 1タッチ1プレーに拘り、個人技や連携を磨く練習のスタンスは以前と変わらないが、選手との接し方は活動再開後に大きく変わった。「僕自身が言い過ぎないようにした。大会が近づくほど、できていないことに目が行っていたけど、今年は僕自身が腹をくくれた。これでダメなら仕方ないと思えた」。今までは気付いたことをすぐに指摘していたが、選手に声を掛けるタイミングにも気遣い、選手の心理状況を踏まえて、いつ声を掛けるのが適切なのか考えるようになったという。「これまでも選手と向き合っているつもりだったけど、あら探しをしていた気がする。でも、今年は本当に選手と向き合えるようになった気がします」

 選手権直前の練習試合も、これまでは一戦必勝を誓い毎試合ベストメンバーで挑んでいたが、たくさんの選手を様々なポジションで起用することで、チームとしての総合力が高まった。そうした取り組みの成果が実り、「本当にのびのびとプレーしていた」(前田監督)結果が、トーナメントの勝ち上がりに繋がった。「今までのチームも粘り強い守備ができていたけど、今年のチームは特に逆境を跳ね返すような力があった。追い込まれた時に、グッと力が出せるチームだった」

 初めての選手権はわからないことだらけで、多くの困難が待ち受けるはずだが、この一年の取り組みによって逞しさが増したチームなら乗り越えられるはずだ。周囲の予想を大きく上回る結果に期待したい。

【KEY PLAYER】MF森雄大

 持ち味はパスセンスの高さ。3列目での散らしでゲームコントロールしながら、機を見て繰り出すスルーパスで決定機を生み出す司令塔だ。粘り強いカウンターが主体だったこれまでのスタイルから一変し、ボールを保持する攻撃的なサッカーを展開した昨年は、下級生ながらも攻守の要となった。森を中心にテンポよくパスを繋ぐサッカーは魅力十分だったが、ボールを失いたくない意識が強すぎたのも事実。「監督から、ゴールに向かう姿勢が貪欲ではなかったと言われた。どんな形でも1点を獲ろうと意識している」という今年は、ゴール前に顔を出す機会が増え、より怖い選手に変貌を遂げた。

 メンタル面にも成長の跡が見える。昨年は、2年生ながらゲームキャプテンを任されたほど周囲の信頼は厚い。決してリーダーシップに長けたタイプではないが、今年は前田監督に「プレーでチームを引っ張って行ってほしい」と正式にキャプテンを託された。就任当初は「心配性なので、自分に自信がなかった」が、プレーを重ねるうちにAチームの選手以外からも信頼されるようになり、自信を深めていった。名実ともにチームの顔となった彼が、どんなプレーができるかによってチームの出来は大きく変わる。選手権の舞台は、チームと共に自身の名を多くの人に知ってもらうチャンスだ。

取材・文=森田将義

By 森田将義

育成年代を中心に取材を続けるサッカーライター

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