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[市立船橋]“宿敵”退け3年ぶりの選手権へ…2年生CBに願う“3度目”の涙【高校サッカー選手権】

2020.01.01

勝利の瞬間、石田侑資は雄叫びを上げると、涙を流した [写真]=小林浩一

 タイムアップの瞬間。気付けば、その男はピッチに頭から突っ伏していた。

「大号泣でしたね。『絶対この日に勝つぞ』という想いでずっとやってきたので、勝てて良かったです」

 市立船橋高校のセンターバックを任されている石田侑資(2年)は、“あの日”とはまったく違う意味の涙を流していた。

 9月15日、高円宮杯プレミアリーグEAST第13節、ホームグラウンドのグラスポに柏レイソルU-18を迎えた市立船橋は、後半に入って54分、57分と失点を重ねていた。「1失点して、すぐに2失点目を食らった時に、下を向いている選手ばっかりで『コレは負けるな』と思ってしまいました」(石田)というチームは、60分には1点を返したものの、68分には致命的な3点目を奪われてしまう。

 その時、ピッチに石田の鋭い声が響く。

「こういう時こそ成長の場だぞ!やるぞ!やるぞ!」

 2年生とは思えないリーダーシップに驚かされたが、ディフェンスラインを組む上級生の反応は薄い。76分にも4失点目を献上し、結果は1-4の完敗。ただでさえインターハイ出場も逃していた上に、リーグ戦でも最下位に転落。チームは崩壊の危機に立たされていた。

 試合後、石田は涙に暮れた。「自分が声を掛けても何の反応もなくて、それが悔しかったです」。1人ではどうすることもできない現実を突き付けられ、悔し涙が止まらなかった。強烈な危機感から、選手もスタッフも集まって行われた青空ミーティングは1時間半を超えたという。ただ、その“1時間半”が彼らにとっての転機となった。

「本音でぶつかり合っていました。(鈴木)唯人さんとか波多(秀吾)監督にもボンボン言って、そういう意見をぶつけ合った中で、本気になれたのが良かった所ですね。自分たちを見つめ直せました」と石田も振り返るミーティングを経て、市立船橋は生まれ変わる。翌週、再びグラスポで行われた尚志戦に3-0で快勝を収めると、流通経済大柏にもアウェイで2-1と勝利。さらに清水エスパルスユースと鹿島アントラーズユースも撃破し、リーグ戦4連勝を飾って選手権予選へと突入した。

「練習からの強度とか、練習で求め合うとか、そういう所が一番変わってきて、お互いの意図を伝え合って、そこで意識を共有して高め合っていくことができてきています」

流経大柏とのライバル対決に挑んだイチフナイレブン(石田は後列左から3番目) [写真]=小林浩一

 石田も手応えを口にして挑んだ準決勝の専修大松戸は、シーズンを通じてCBのコンビを組んできた鷹啄トラビス(3年)が負傷もあってベンチに控える中、代わりに登場した中村颯(3年)とも「練習でも強く言い合う時とかあったんですけど、言い合って分かり合えた部分があったので、助け合うことができました」と盤石の連携を築き、4-0と完封勝利。最大のライバルが待つ決勝へと駒を進める。

 11月30日。選手権千葉県予選決勝、相手はもちろん流通経済大柏。2年続けて同じファイナルで負けている宿敵との一戦は、前半の内に市立船橋が先制。47分に追い付かれるも、その2分後には勝ち越しに成功し、優位にゲームを進めていたが、55分に信じられないシーンが訪れる。

 バックパスを受けた石田に対し、ペナルティエリア内で相手フォワードが果敢なタックルからボールカットを敢行すると、そのまま中央へラストパス。これを難なくゴールネットへ流し込まれてしまう。明らかなミスによる失点。「コレはやったらアカンなということをやってしまって…」。その時、下を向き掛けた石田の耳に聞こえたのは、チームメイトの声だった。

「この舞台で自分がああいうミスをしてしまったのに、味方がすごく声を掛けてくれたんです。前まではそんなにチームを助ける声なんて出ていなかったにもかかわらず。そこがすごく助かった所で、自分も下を向かずにできました」

 あの日、必死に声を出しても薄い反応を返すだけだった上級生たちが、自分のミスに対してみんなで声を掛けてくれる。失点から2分後、エースの鈴木がチーム3点目となる一撃を叩き込む。折れ掛けたメンタルは息を吹き返した。相手の猛攻にも体を張り続ける。変わった自分たちを証明するために。変わったイチフナを証明するために。

[写真]=小林浩一

 タイムアップの瞬間。気付けば、ピッチに頭から突っ伏していた。「大号泣でしたね。『絶対この日に勝つぞ』という想いでずっとやってきたので、勝てて良かったです」。やりきれない想いを抱え、ただただ悔しさを噛み締めていた自分は、もう過去に置いてきた。石田は、あの日とまったく違う意味の涙を流していた。

 徳島から単身で市立船橋へと勝負しに来ただけあって、全国の舞台に懸ける想いは人一倍強い。「自分は日本一になるためにイチフナに来たので、そこはブレずにやりたいと思います」。目標はこれ以上ないくらいはっきりしている。2度泣いた石田が“3度目”を体験することを心から願う舞台は、言うまでもなく埼玉スタジアム2002の歓喜に包まれた表彰台の上だけだろう。

取材・文=土屋雅史

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