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[興國]巧みな位置取り、絶妙なパス…覚えておくべき“興國のブスケツ”【高校サッカー選手権】

2020.01.01

2年生でボランチを務める興國の湯谷杏吏 [写真]=森田将義

 選手権初出場の興國高には、是非とも覚えておいて欲しい名前がある。背番号16を背負うボランチのMF湯谷杏吏(2年)だ。「杏吏(あずり)」という珍しい名前は、イタリア代表が好きな父が愛称の「アズーリ」にちなんで名付けられたという。

 大阪体育大浪商高と大阪体育大でプレーした父は、180cmの恵まれたガタイを活かしたストライカーだったが、息子のプレーはまったく違う。巧みな位置取りで、DFラインからのボールを引き出し、相手DFの隙間に絶妙なパスを入れる。内野智章監督が、「今まで良いボランチはたくさんいたけど、あそこであれだけ勇気を持って受けられる選手はいなかった」と評し、“興國のブスケツ”と呼ぶ通りサッカーIQの高い選手だ。

 サンフレッチェ広島ジュニア時代には、「アカデミーの最高傑作」との声もあったが、ジュニアユースの3年目は怪我が続き満足にプレーできなかったため、ユースへの昇格は果たせなかった。目標とするプロ選手を目指すため、湯谷は県外への進学を志願。自らリサーチを行う中で、興國が初めて選手権予選の決勝に進んだ4年前の試合動画が目に留まった。惜しくもチームは敗れたものの、「ここなら自分のプレーが活きる」と興國への入学を決めたが、同じ代には中学時代から将来を有望視され、卒業時には争奪戦が繰り広げられたMF樺山諒乃介がいた。高校に入ってからは世代別代表にも選ばれた同学年のエースとは寮で同部屋にもなった。樺山の第一印象について、湯谷はこう振り返る。「最初に会った時は『なんやコイツ!』という感じだった。とにかくオーラが凄かった」。

 サッカーで負けるつもりはなかったが、湯谷はまずピッチ外で樺山に認めてもらうための行動に出た。「大阪に来たからには、面白くなければダメだなって思った。コイツにはめっちゃ面白いキャラで行ってやろう。樺山に面白いって思われたら、全員に面白いって思われるだろうなって」。活きたのは、訛りが強烈な広島弁で、湯谷は当時について「とりあえず、何でも”じゃけん”とつければ笑ってくるので、これは使えるなって」と笑顔で話す。

 もちろん、プレイヤーとしての成長も忘れてはいない。「パサーとして興國で活躍しようと思った。カバ(樺山)は点取り屋でエースになるから、コイツに良いパスを出そうって。自分がボールを受けたら、良いパスが出てくるという信頼を得ようと意識した」。中山昇コーチが「僕らが止めるまで、ボールを蹴っている」と明かす熱心さによって、持ち前のサッカーセンスは急上昇。高校に入ってから身長が10cm近く伸びたこともあって、ピッチ内での存在感は以前とは比べ物にならない程、増している。今年に入ってから出場機会を増やし、選手権予選ではチームのキーマンとして期待されるほどまでの成長を遂げた。

 予選でも、らしさを発揮して、勝ち上がりに貢献。迎えた決勝で対戦したのは、4年前と同じ阪南大高だった。試合当日の朝も、4年前の動画をチェックしたという湯谷は「緊張しても意味がないと思ったし、あれだけの応援を楽しめなかったら、全国に出ても自分のプレーができなくなる。そんなこと(緊張)を考えるくらいなら、落ち着いて自分のプレーを出そうと思った」。その結果、「今まで出てきた試合の中で、一番落ち着いてプレーできた」湯谷は、攻撃の起点としてチームの全国大会g初出場に大きく貢献した。

 選手権は誰よりも目立つチャンスでもあるため、「樺山よりも目立ちます。広島の人たちに変わったなと思わせるようなプレーがしたい」と意気込む。”興國のブスケツ”と呼ばれる所以をプレーで示すことができれば、より多くの視線が彼に注がれるだろう。

取材・文=森田将義

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By 森田将義

育成年代を中心に取材を続けるサッカーライター

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