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耐えて耐えて耐え抜いて勝ち取った…秋田商業、県勢19大会ぶりの2回戦突破

2019.01.03

秋田商業は次戦、32大会ぶりの3回戦突破に挑む [写真]=野口岳彦

取材・文=本田好伸(提供:ストライカーデラックス編集部)

 秋田県勢として14大会ぶりとなる1回戦突破を果たした秋田商業は、2回戦でも強豪・富山第一を撃破して、今度は19大会ぶりとなる3回戦進出をつかみ取った。まさに、死力を尽くした勝利だった。

 敗れた富山第一の大塚一朗監督は試合後、「プランどおりに押し込むことはできていましたが、最後のシュートのところと、相手の粘り強い守備をなかなか突破できませんでした」と振り返ると、監督を囲む記者陣に「シュート何本ですか?」と問い掛けた。公式記録を見ると、富山第一の7本に対して、秋田商業は6本と拮抗している。しかし、秋田商業の前半は0本だったことも含めて、試合を目撃した誰の目にも明らかなほど、序盤から立て続けに攻め込んでいたのは富山第一のほうだった。

 左右のタッチラインからゴール前へ放つロングボールや、CK、FKなど、セットプレーで何度もチャンスを作り、左サイドバックの真田滉大や左サイドハーフの橋爪晃広を使ったサイド攻撃、トップ下でゲームをコントロールする高校総体得点王の⑩小森飛絢を中心としたアタックなど、前半はほとんど秋田商業の陣地で試合が繰り広げられた。しかし、秋田商業の守備に対する忍耐強さは、相手の攻撃力を上回った。

「止める・蹴る・走るスピードという面でも相手の能力のほうが高いと思っていたので、勝ちたいという気持ちを継続できたことが勝因だと思います」

 秋田商業の小林克監督はそう話した後、「どうしてそれほど走れるのか?」と問われて逆に、記者陣に「一緒に走りますか? 2日間でかなり痩せると思います」と答えて笑いを誘った。そして、「走ることについては、(3年間の練習で)選手は相当、苦しい思いをしたと思います。でもそこを耐えたからこそ、今日も耐えられたのかなと思いますし、積み重ねてきてよかったです」と続けた。

 もともとチームカラーに「走力」があるものの、夏の高校総体で全国大会出場を逃してからは、さらに過酷なトレーニングを積んできたのだという。決勝点を挙げたキャプテンの鈴木宝が「近くの砂浜や山に行って、毎日毎日、走りました。1年生では冬場、毎年恒例となっている雪上でフィジカルトレーニングをして、2年生からはボールを少し使いながら技術を磨いて、両方を鍛えてきました」と説明するが、最後の最後で踏ん張る力を養ったのはやはり、走り込みのトレーニングなのだという。

「3年間、一番頑張ってきたのが走ることで、辛い時でもみんなで頑張ってきた積み重ねが出ました」

 3年生にとって集大成となるこの舞台でようやく、積み重ねの価値を知るのだろう。ただ一方で、“勝負の綾”というものが、残酷なほどにその積み重ねをあざ笑うことがある。富山第一は、2013年の第92回大会で、大塚監督の息子であり、10番を背負った主将・大塚翔を擁して初優勝を遂げた。そんな、積み重ねの先に日本一の経験を味わったチームでも、“勝てそうな展開で決められない危険な流れ”には勝てない。

「前半からずっと攻めていて、決定機が何回もあるのに決められなくて、そのときにパッと浮かんだのは、大塚監督が(富山第一の)選手だったころに、選手権でずっと攻めていて、シュート1本でやられたと聞いていたことでした。そういうことがあるのかもしれないという思いがありました」

 センターバックとして守備ラインを統率したキャプテンの中田青の頭に、そんな悪い予感がよぎってしまったのだという。そして予感は的中してしまう。失点に直結したFKは、ささいなミスからだった。

 耐えて耐えて耐え抜いたからこそ巡ってきたチャンス。一方で、攻めて攻めて攻め抜いて決め切れなかったからこそ招いてしまったピンチ。いずれも積み重ねの結果であり、勝負の綾でもあるのだ。

 次は佐賀県の龍谷との対戦。秋田県勢として3回戦を突破すれば、秋田商業がベスト4に進出した昭和61年の第65回以来、32大会ぶり。「秋田は進学校も、実業高校のスポーツ部も文化部も頑張っています。商業高校として金足農業に近づけたら実業高校への注目も集まると思うので、そういった意味でも頑張りたい」(小林克監督)。夏は甲子園準優勝の「金農旋風」に沸いたが、冬は「秋商旋風」を巻き起こせるか──。

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