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前橋育英、双子の田部井兄弟が磨いたセットプレーで選手権の雪辱達成

2017.07.31

双子で日本一を目指す田部井悠(左)と田部井涼(右) [写真]=平野貴也

 双子で磨いてきたキックが、逆転とリベンジ達成を呼び込んだ。

 平成29年度全国高校総合体育大会のサッカー競技大会は31日に3回戦を行い、前橋育英高校(群馬)は3-1で青森山田高校(青森)に逆転勝ちを収めた。昨季の全国高校選手権の決勝戦と同じカード。前橋育英は、山田耕介監督が「練習のとき、事あるごとに『そんなことだから、青森山田に0-5で負けるんだ』と言ってきた。(3回戦で対戦する可能性がある)組み合わせが決まったときも(ほかのチームには)悪いけど、青森山田が勝ってきてくれと思っていた」という因縁の相手への雪辱を狙っていた。ところが、前半は、青森山田の一方的なペースだった。開始5分、GKのロングキックをMF郷家友太が競り勝つのに合わせて背後へ抜け出たMF田中凌太がシュートを決めて先制。その後も丁寧につなぐ前橋育英の攻撃を中盤で食い止めて試合の主導権を握った。

 苦境を救ったのは、双子の田部井兄弟が2人で精度を磨いてきたセットプレーだった。31分、田部井悠が蹴った右コーナーキックをDF渡邊泰基が折り返し、DF角田涼太朗が押し込んで同点。後半はマイボールで試合再開をすると同時に一気に攻め込んで左コーナーキックを獲得し、田部井悠がサインプレーでニアサイドを狙い、こぼれ球をMF塩澤隼人が押し込んで逆転に成功した。さらに70分、攻撃参加した渡邊のクロスをFW榎本樹が合わせて3点目。前半とは打って変わって積極的なプレーで試合のペースを奪い取り、強い勝ち方を見せた。逆転の鍵は、セットプレーだった。

 以前は、早くから評価を得ていた主将の田部井涼がコーナーキックを両方蹴っていたが、1人ですべてを担当するのは負担が大きい。コーナーキックが逆サイドに流れれば移動しなければならず、キックが連続すると内転筋を痛めやすくなる。そこで2人目のキッカーになったのが、田部井悠だった。「1人で全部蹴ると疲れてしまうなと思って、自分でちょっと蹴ってみたら調子が良かった。それで練習していたら、監督やコーチから蹴ってみても良いんじゃないかと言われて、試合でも蹴るようになりました」と兄の負担を半減させるとともに、自分のアピールポイントを増やした。兄の悠は右利き。弟の涼は左利き。ゴールに向かうボールを蹴るため、利き足とは逆のサイドをそれぞれに担当する。

 セットプレーの成否はキッカーだけの話ではない。ただ、双子でキックの質を追求してきたことは、チームの武器となっている大きな要因だ。弟の涼は「セットプレーは、僕たちの武器。攻撃面は特に、日に日に質が高まっています。キックのことに関しては、悠と互いによく話していますね。試合中でも修正するために指摘し合っています」と明かした。コーナーキックから2点を演出した兄の悠は「練習のときは、蹴らない方が蹴る方にボールの質を指摘するようにやってきたので、どんどん良いボールを蹴れるようになっていきました。ニアを狙うときは少し力を抜いて、ファーを狙うときは速いボールが良いと涼から言われて、その通りに蹴って、良いボールを蹴れています。今日の2点目もうまくいきました。ただ、あのゴールは、キックよりも松田陸が良いタイミングで入って来てくれたことが大きかったですけどね。でも、自分のコーナーキックで2点入ったので良かった。今日は、思ったところに蹴れました」と手ごたえを話した。

 今季は涼がボランチ、悠が右サイドでプレーしているが、昨季の高校選手権では、両サイドMFを担当したこともあった。田部井悠は「親に聞いたことがあるんですけど、サッカーを始めた頃から、利き足は別々だったそうです。ただ、自分は全部右利きなんですけど、涼は書くのが右で、箸を持つのは左。ボールを投げるのは右で、ボールを蹴るのは左なんですよ。だから、家で並んでご飯を食べるときは、絶対に僕が右です。僕が左だと、腕が当たっちゃうんですよ」と言って笑った。セットプレーも右と左で付かず離れずの距離感が良いのかもしれない。1日の休養日を挟み、8月2日に行われる準々決勝で、前橋育英は、京都橘高校と対戦する。青森山田への雪辱は、あくまでも夢への通過点。目標は、双子そろっての日本一だ。

取材・文=平野貴也

By 平野貴也

元スポーツナビ編集部。フリーに転身後はサッカーを中心に様々な競技を取材するスポーツライターに。

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