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【選手権総括】最適解を求め続けた青森山田…“理不尽さ”を乗り越え手にした初優勝

2017.01.10

選手権初優勝を飾った青森山田 [写真]=兼子愼一郎

 青森山田という大本命の優勝で幕を閉じた95回目の高校サッカー選手権。昨年の東福岡に続いて予想外の高校がチャンピオンになり続けた流れはあらためて終わってきた感もあるのだが、決して予想どおりの大会だったわけではない。

 48校のノックアウト方式でシード校はわずか4校というレギュレーションもあって、そもそも組み合わせの時点から半ば必然的に偏りは生じるものだ。今大会は特にその傾向が顕著で、中でも一回戦で市立船橋と京都橘、長崎総科大附と桐光学園が激突したのは象徴的だった。戦力的には青森山田に対抗し得る4校であり、特に市立船橋と長崎総科大附は十分に優勝を狙えるベースもあったと思うのだが、特別な緊張感のある初戦で激戦を演じ、ある種の達成感も得た上で、中1日で2回戦。これはなかなかに難しい。ともに2回戦で惜敗となったのは、偶然ということもない。逆に言えば、厳しいスケジュールや精神的な波、運・不運まで含めた「理不尽さを乗り越える戦い」こそが選手権という言い方もできる。

 決勝に残った2校、青森山田と前橋育英は過去の大会で十分な戦力を持ちながら、こうした選手権の理不尽さに泣いた経験を何度も持っているチームでもある。優勝候補と常に言われながら、ここまでこのタイトルに縁はなし。単に運がなかったからというだけではないと思うが、しかしどう観ても運がなかっただけという負け方をした年もあった。「これまでと何が違うと言われても、また来年からは分からないよ」と青森山田・黒田剛監督が笑って振り返ったとおり、48校すべてが特別なモチベーションをたぎらせて臨む大会だけに、まったくもって甘い舞台ではないのだ。

 青森山田が見せたサッカーはこうした理不尽を乗り越えるために、一つ一つのリスクファクターを潰していくような方向性だった。少しでも不運の確率を下げること。試合の終わらせ方に強くこだわっていたのもそうだし、選手に対するモチベーションの上げ方もそうだし、対戦相手や試合状況に応じて複数の戦い方を使い分けることを徹底したのもその一つ。よく使われる「自分たちのサッカー」という言葉は青森山田の選手たちの口からもよく出てくるのだが、それは「相手や試合状況を観ない」という意味では決してなく、その真逆。相手を見極めた上で、複数ある「自分たち」から最も確率の高い最適なものを選び出す。その点において、今季の青森山田が一段優れたチームだったのは間違いない。

 とはいえ、選手権の面白さはむしろここから改めてのリスタートにこそある。優勝経験校としての難しさが生まれる青森山田には青森山田の新しい戦いがあり、決定機を量産しながら敗れた前橋育英は今度こそ選手権の理不尽を乗り越えるべく、新たな戦いを始める。無念の早期敗退となった各校、予選で散ったチームも、それぞれ新しい戦いを始めているに違いない。この繰り返しの中で次代を担う人物も育ち、指導者も出てくる。95回も繰り返してきたこのサイクルにこそ、本当の意味での選手権の妙味は詰まっている。

文=川端暁彦

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