2016.12.28

【コラム】ユース世代に求められる“ピッチ外”での意識改革…改めて問われる「食事」の重要性

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

 クラブユース、高校サッカーといった枠組みを超えて年間を通じたリーグ戦を戦う高円宮杯U-18サッカーリーグ。その王者を決めるチャンピオンシップが12月17日、埼玉スタジアム2002にて開催され、東日本の王者・青森山田高校と西日本の王者・サンフレッチェ広島F.Cユースが対戦。青森山田が0-0からのPK戦の末に勝利を収め、見事に初優勝の栄冠に輝いた。

 知恵比べのような戦術的な駆け引き、肉と骨が軋み合うような激しい競り合い、そして最後はスタミナが切れるまで戦い抜くような気力と体力を競う――。日本一を決めるファイナルにふさわしい好勝負だったのは間違いない。

 このチャンピオンシップは、高校サッカーを代表する強豪校とJリーグのアカデミーチームの対戦ということで、対立の構図で解釈されることも多い試合だった。確かに青森山田は「高体連(高校の部活動)の代表として戦う」(黒田剛監督)という意識を持っていたのだが、育成に対する考え方などむしろ似通った部分もある2チームの対戦だったとも言える。両チームの「育成」における共通点は複数あるが、中でもここで注目しておきたいのは、寮生活をベースに活動しているという点である。

 自立心や団結力を養ったり、自宅、学校・練習場の行き来に伴うタイムロスを削る効果が大きいとされる寮生活だが、個人的にはもう一つ忘れてはいけない要素があると思っている。「栄養」と「睡眠」の管理である。今回は、特に前者についての話について書いてみたい。

高円宮杯U-18チャンピオンシップは青森山田がPK戦の末、サンフレッチェ広島を下して初優勝の栄冠に輝いた

ユース年代の育成で立ち遅れる「食事」と「栄養」への意識

 このチャンピオンシップのキックオフからさかのぼること1時間半。埼玉スタジアム2002の脇では、日本サッカー協会のJYD(JFA Youth & Development Programme)のオフィシャルサポーターである株式会社明治によるブースが開設されたほか、保護者や指導者、選手を対象にした無料の「食事・栄養セミナー」も開催されていた。

 そもそもJYDとは「『JFA2005年宣言』の理念とビジョンに基づき、継続的な日本サッカーの発展のためにさらなる普及や次世代選手の育成を促進することを目的としたプロジェクト」(日本サッカー協会)。明治を含めたパートナー企業がユース年代を中心に、大学や女子、シニアも含めた全カテゴリー、さらにフットサルやビーチサッカーまで及ぶ幅広い領域でサポートを試みている。

 日本中の高校チームを対象として年間を通じたリーグ戦で強化と同時にサッカーを楽しむための環境整備を目指す高円宮杯U-18は、そのサポート対象になっている大会の一つ。このチャンピオンシップに際して、明治が特別にブースを出し、セミナーを開催したのは、そういった背景がある。

 日本サッカー協会は今年から「FOOTBALLER×ATHLETE Project」を新たに立ち上げ、「弱点であるフィジカル面の克服を目指す。弱みを弱みのままにはしない」(霜田正浩ナショナルチームダイレクター)という方向性を新たに打ち出した。これまで日本のサッカー界はプレーの質的な部分、「ピッチ上の練習」で補える部分に強くフォーカスし、組織的なパスワークとテクニックで国際舞台で勝負するという方向性を強く持っていた。ただ、「世界のサッカーでアスリート化が進んでいる」(霜田ダイレクター)中で、その考えだけでは限界もあることが見えてきた。ピッチ外での試みを含め、意識改革を求めているわけだ。

 個人的にも方向性としては同意するのだが、単純にトレーニングで解決する話でもないと思っている。むしろ練習以外の部分へのアプローチなくして、進歩もない。具体的に言えば、「栄養」と「睡眠」である。サッカー界は残念ながら、この意識がまだまだ低い。

 あるジュニア年代でも強豪として知られるあるJクラブを取材したとき、非常に面白くて熱のある練習をしていたのだが、終了後に選手たちが自分のリュックから取り出して食べていたのがスナック菓子だったのを見て、ピッチ上での取り組みだけでは限界があることを痛切に思い知らされたこともある。

 その意味で言うと、高円宮杯U-18チャンピオンシップの当日に、スタジアム脇のクラブハウスにて開催されていた「サッカー選手のための食事・栄養」のような試みには、華やかなピッチ上に比べて静かで地味に見えるかもしれなくとも、確かな価値があるのだろう。

JYDの協賛企業である明治は商品提供だけでなくユース年代の栄養補給についてさまざまな取り組みを行っている

「食べることはトレーニング」という意識づけ

 講師を務めたのは株式会社明治の栄養営業本部に所属する管理栄養士の岩切佳子さん。北は北海道から南は九州に至るまで、こうした栄養セミナーを実施してきたという。指導者や保護者の間にはどうしても「栄養に関するいろいろな誤解や勘違い」がまだまだあるそうで、その啓蒙に務めている。

 冒頭で「食べることはトレーニング」と言い切った岩切さん。5大栄養素〔炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミン〕の基礎知識に始まり、主食・おかず・野菜・果物・乳製品を組み合わせた「栄養フルコース型」の食事について解説した。この食事、おかず(肉や魚料理)を2品用意するなどハードルの高そうな部分もあるのだが、3食そろえるだけで選手に必要な5大栄養素をまんべんなく摂れると言う。岩切さんは「外食でも補う意識が重要」として、たとえば牛丼やラーメンのような偏った食事になってしまったら、コンビニに立ち寄ってサラダ、オレンジジュース、ヨーグルトを追加することを促すなど、子ども目線でも具体的に分かりやすく、「栄養を足してあげる」意識を持つことを促していた。

 同時に保護者に対してオススメの対策として提示されているアイディアも面白かった。いわば「冷蔵庫改革」とも言うべきもので、「果汁100%ジュース」「牛乳やヨーグルト、チーズとなどの乳製品」「ハム、卵、豆腐、納豆」を冷蔵庫に常備しておく作戦だ。「『お腹がすいたら、カップラーメン』ではなく、『お腹がすいたら、チーズを食べる。ハムを食べる』。こういう習慣になるだけで得られる栄養素は大きく違ってきます」と解説する。

「毎食キッチリと用意できるご家庭ばかりではないと思います。今の時代はお仕事をされている方も多いですから、当然ですよね。そこで選手が自分で料理するようになれば理想的ですが、コンビニのお弁当や店屋物で済ませることも多くなるかもしれません。そのときに、包丁や火を使うことなく手軽に補食としてプラスできるものが冷蔵庫に入っていれば、カンタンにバランスを整えられます」(岩切さん)

 理想論を振りかざして保護者にプレッシャーをかけるのではなく、現実的な策を講じてもらえるのは、聞いている側としてもありがたいところだろう。

明治はユース年代のサッカー選手が日頃から栄養補給について意識できるように日本各地で食事・栄養セミナーを開催している

ユース年代の身体づくりで大事なのは「日々の食事」

 その後に提示された具体例も興味深かった。「ある新人Jリーガーのキャンプ中の食事」という写真を見せつつ、「ビュッフェ形式ですが、彩り豊かに『栄養フルコース型』の食事になっています」と紹介。この選手はある強豪校の出身で、栄養に関する基礎知識をすでに叩き込まれていたのだという。そのおかげで自分で料理を選ぶビュッフェ形式でも、自然と適切な食事を摂取できているのだ。こうした知識をより早い段階から得る選手が出てくることが重要となる。その他にも、現在はフランスの名門マルセイユでプレーする日本代表DF酒井宏樹の中学時代の食事などが紹介され、分かりやすく食事の重要性が提示された。

 重要なのは「選手は一般の栄養基準よりも多くの栄養素を必要とする。特に成長期の選手は『一般の人の必要量+サッカーをする分+成長する分』の栄養が必要」(岩切さん)ということだ。日本でも「量」の必要性自体は認識されていて、岩切さんの言う「まず量を食べられるようになることが大事」という部分については多くのチームで取り組みもある。ただ、栄養に関する知識の乏しさから、「栄養に関する意識は、たとえば野球界などは非常に高く、ジュニア世代からチームで取り組んでいるところが多いです。でも、『量=お米』になってしまっている部分は確かにあると思います」と岩切さんは言う。

 日本はお米の文化があり、「もっと食べたい」と言う選手に「おかわり」をしていく文化だ。不足しているのは米で補う方式で、「どんぶり何杯を食べるかということが重視される」(岩切さん)傾向がある。ただ、米は5大栄養素の内の一つである炭水化物(糖質)が非常に多い。食べ足りない選手に米だけ増やしていっても、栄養のバランスは崩れていくだけだ。「だから私は量だけでなく質も大事。『栄養フルコース型』の食事を毎食そろえてほしいと言っています」(岩切さん)。

 日本では大型選手ほど身体の細い選手が多くなる印象もあるが、これは栄養に関する意識の問題も大きいのではないかと以前から感じている。そこでプロテインの出番ということになるのかなと思ったのだが、岩切さんは「あくまで食事では足りないとき、練習後に食べられないときなど補う意味で使っていただければいいんです」と強調する。「大事なのは日々の食事で、それをおろそかにしてプロテインを摂取すればいいというのは本末転倒です」と言う。

ユース年代の指導者や保護者の間には食事に関する誤解や勘違いがまだまだあるという

 ちなみに、岩切さんがこうしたセミナーでよく聞かれる質問は「ジュニア年代でプロテインを摂取して大丈夫なのか?」ということだそうだが、これには「安心してください。プロテインというのはたんぱく質の英語。成長やカラダづくりに必須のたんぱく質摂取を補助する食品に過ぎません。まるで筋肉増強剤のように勘違いされている方が多くいらっしゃいますが、あくまで肉や魚、卵などの摂取が不十分だったり、(運動で傷ついた筋肉を回復させるのに最も効果的とされる)運動後30分以内の食事を摂るのが難しいときに使っていただければ」と言う。

 プロテインのCMというと筋肉ムキムキのマッチョな方が出てくるのが当たり前なので、ジュニア選手がこんなふうになって大丈夫かと思う向きがあるのもわかるのだが、トレーニングした以上のカラダになることは絶対にない。飲んだだけで筋肉が付くと思っている方がいるとしたら、それは完全に誤解だ。

 ただ、岩切さんが何度も何度も強調したように、「大事なのは日々の食事」。プロテインなどはそれを補うサポートアイテムであって、そちらがメインになっては本末転倒なのだ。セミナーの最後に岩切さんが紹介していた金言をもってこの記事を締めくくりたい。

「You are what you eat.」

 あなたはあなたの食べたものでできている。カラダが資本のサッカー選手にとって、食事が大切なのは、当たり前だ。

文=川端暁彦

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