2018.10.23

【インタビュー】ユース五輪、銀メダル獲得につながった木暮賢一郎監督のチーム作り

第3回ユースオリンピックでU-18女子フットサル日本代表を準優勝に導いた木暮賢一郎監督
2016年8月15日にオープンしたフットサル専門サイト。日本代表・Fリーグ・女子・海外情報など、カテゴリ問わずフットサル情報を発信している。

 第3回ユースオリンピックに出場したU-18女子フットサル日本代表が21日に帰国した。初めてフットサルがオリンピック競技となり、そこで銀メダルを獲得するという偉業を成し遂げた。チームを率いた木暮賢一郎監督は、どのようなプランをもって、大会を戦っていたのか。23日には男子のA代表の欧州遠征に合流するタイトなスケジュールの木暮監督に、帰国直後の空港で話を聞いた。

 以下、ユース五輪後の木暮賢一郎監督のコメント

――お疲れさまでした。向こうに行く前に「密かに狙っている」と話していた素晴らしい結果を持ち帰りました。今の気持ちはいかがですか?

木暮 ずっと言っていたように、フットサルというスポーツが初めてオリンピックという名の付く大会の種目になりました。そこに日本のチームが参加できて、すごく光栄です。選手たちは短い準備期間しかありませんでしたが、前向きに明るくポジティブにやってくれました。すべてが初めてのことなので歴史的だったのですが、初戦から歴史的な勝利を挙げることができましたし、日本のフットサル界として初めてファイナルに行き、メダルを獲れたことで、彼女たちにとっても素晴らしい経験になったと思います。

一緒に行ったスタッフにとっても、すごく貴重な経験になったと思います。また、男女を問わず、現役の選手、指導者、関係者、サポーター、いろいろな方に世界を身近に感じてもらえる結果を伝えることができました。いろいろな立ち位置を抜きに、これからまたフットサル界が一つになってやっていこうという、良いきっかけになったのではないかと感じています。

――対戦相手の情報を得るのが難しかったと思いますが、予選からどんなプランを描いていたのでしょうか?

木暮 正直、どういう相手かはわかりませんでした。大会1日目は試合がなかったので、対戦する相手の試合を見ることはできたのですが、自分たちとの力関係とか、肌感覚は未知な状態でした。実際にイメージよりも、すごく難しい相手が多かったかなと。難しいことを想定していても、それ以上にやってみた感覚は難しかったですね。

その理由としては、特に最初の3試合、カメルーン、チリ、ドミニカは思っていた以上に身体能力が高かった。もう一つは、守備のやり方がすごくゴール前を固めて、カウンターを狙ってくる。こちらが前からプレッシャーをかけても、ロングボールで投げてくる。個の能力が高く、ロングボール、身体能力が前面に出てくるという我々、日本人にとっては、かみ合わせでいうとやりづらい相手でした。そして決定力でもパンチの部分で足らないところがあって、こじ開けるのになかなか苦労しましたが、1日1日成長してくれました。「試合をやるごとに成長していこう」と伝えていたのですが、それを体現してくれました。

――ドミニカ戦は、立ち上がりに2点のビハインドとなりました。そこからよく逆転できましたね。

木暮 まさしく戦いづらいことが最初に起きて、「簡単ではないよ」というメッセージになるような難しい入りを克服したことは、選手たちにとって良かったです。すべてがプラスにしかならない状況の中で、すごく素直に受け止めて、それをまたエネルギーに変えることを繰り返しできたなと思います。

――結果、この3試合で決勝ラウンド進出を決めました。

木暮 そのあとにあるポルトガル戦、準決勝では、フットサル対フットサルという戦術的な要素の戦いに入ると思っていました。その前に一つ苦しんで、世界の個の能力の高い選手たちと戦えたこと。さらに勝って自信を得ることができました。最初の3試合で3勝するというプランを、うまく達成できたことは良かったと思います。『予選通過を決めた状態でポルトガル戦を迎えられたらな』という当初のプランでいうと、精神的にポルトガル戦はある意味ノープレッシャーでした。また結果論でいうと、この試合の勝ち負け以上にスペインと戦う前に、(同等の相手を)体感する場が一試合あったのは大きかったですね。

――最終的にポルトガルとはグループステージと決勝の2回、戦うことができました。グループステージの試合は0-2という結果でしたが、あそこまでポルトガルを苦しめたチームはなかったですし、自信にもなったのではありませんか?

木暮 監督目線でいうと、向こうは引き分けでも1位が決まるアドバンテージがありました。決勝と比較的すると100%ではなかったかなという印象はありますが、自分たちは、そこにチャレンジしていくことが重要でしたし、選手たちにも「ここまでとはレベルの違う相手だよ」と伝えていました。メンタル的なところで言うと、外から見える差や選手が体感したものが影響します。選手が良い感覚を持てたとしても、点差が開くと、それが自信にならなかったりします。彼女たちが想像していたよりもやれた、そして想像していた以上に点差が開かなかったことは、非常にポジティブなところもありました。だから、あえてパワープレーも長くやりませんでした。

――そこでパワープレーを試しておくこともできたわけですよね?

木暮 はい。ただ、パワープレーを長くやることはしませんでした。最後にやりましたが、1分半から2分というところでした。自分自身、インプレ―から学ぶべきことが多いだろうと考えた結果です。それはたら、れば、の結果論ですが、タイとスペインの試合を見たとき、タイは後半に約15分間、パワープレーをやって差が開いたんです。自分たちもパワープレーをやることで、差が開いてしまう可能性もありました。そうすると今度は精神的なダメージが残ってしまいます。

――それはもう一回、ポルトガルと戦うときを想定してということですか?

木暮 それもそうですし、あとはスペインと戦う前に0-5、0-6という点差をつけられてしまうことを考えると、それならパワープレーなしで拮抗した試合にして、自信を持って臨めた方がいいのかなということで、長くやりませんでした。そのあたりも、対スペインに向けての自信というところではよかったかなと思います。

――そして準決勝では木暮監督も多くを学んだスペインという国と対戦します。その相手に世界大会の準決勝で勝った。これは、とんでもない快挙です。

木暮 そうですね。大会前に行われたポルトガルとスペインの親善試合も何度も見返して準備をしていました。

――ポルトガルとスペインはユースオリンピックの直前に親善試合をやって1-1でした。あの2チームは、どれくらいの準備期間をもっていたんですか?

木暮 スペインは直前に集まって、日本に近い状態でした。ポルトガルは比較的、長くやっていましたね。ただ両チームともU-16、U-17年代からやっていたので、トータルスパンでいうと、数年単位にわたって切磋琢磨しています。スペインとポルトガルの力は拮抗していましたが、ポルトガルの方が完成度、個のレベルが若干高いなという印象はありました。非常に拮抗したレベル感の中で、ポルトガル戦ではハーフから押し上げていく守備をやりました。個のタレントに押し込まれたときは、少しゾーン気味にカバーをつけて守ったんです。

――最初の3試合は前から奪いに行っていましたよね?

木暮 そうです。ただ大会前の関東選抜との試合では、前半と後半ともにハーフからの守備でやっていました。それは女子のA代表で行ったポルトガルの遠征のとき、初戦は前から行って0-8で負けて、2試合目はハーフから押し上げる守備をして0-4だったんです。そのときの手ごたえとして、現状ならハーフから押し上げていく方が、ポルトガル戦は良かったという印象をA代表のときにもっていました。そこで、その準備を関東選抜との試合で一度やったんです。
アルゼンチンに行ってからカメルーン、チリ、ドミニカとの試合では、前から行った方がメリットがあるという印象だったので、前から行き、ポルトガル戦で当初のプランに戻しました。その試合で0-2だったこともあったので、試合後にビデオ分析と1日トレーニングをして、「この精度をさらに上げることがスペイン戦のカギだよ」と話はしていて、そこは非常にうまくハマった印象でした。

――スペイン戦は前半を0-1というビハインドで折り返しました。このチームは大会を通じて後半に強かったと感じたのですが、ハーフタイムは何を伝えていたのですか?

木暮 ポルトガル戦も前半は0-1だったので、試合前から「こうした相手に最後まで食らいつくためには前半を0-0で終えたり、負けていても1点差にすることは、マストだよ」と言っていました。また、スペインにもけが人がいるという情報があったり、予選は楽な試合をずっとしていたので、つけ入る隙はあると感じていたんです。自分たちにとっては、前半を終えて0-0というスコアが最高でしたが、0-1にされてしまいました。ポルトガル戦も0-2になってから苦しくなったので、同じミスはしないようにと話しました。自分たちのテーマは毎試合、成長していくということだったので、「ポルトガルを相手にも前半は0-1だったよね? ただ最初の2分で取られて0-2にされた。ここから何を学ぼうか?」という質問を選手たちにしたとき「先に点を取って、1-1にしたい」「点を取らないといけない」という答えがすぐに出てきました。今回のチームでは、常に質問を繰り返すスタイルでやってきたので、すごく早い反応を示してくれました。

――「こうしよう」「こう戦おう」と監督が決めるのではなく、質問をするようにしていたのは、何か理由があったのですか?

木暮 非常に短い時間の中で完成度を上げていくために、そして世代間とか、成長をしていくためには、質問を投げかけていくことが大事かなという印象がありました。そこで初日からそういう形を繰り返して、選手の考える速度を上げることを、ピッチ外では比較的多めにやってきました。そのレスポンスが早かったハーフタイムだったかなと思います。

――そういう意味では、彼女たちの有言実行の同点、逆転だったんですね。

木暮 そうですね。あとはスペイン戦に勝てるイメージを植え付けようとして、前日のトレーニングで初めてパワープレーの守備の練習をしたんです。そこまでは一切してこなかったんです。

――なるほど。パワープレーをやってきそうな相手もいませんでしたしね。

木暮 そのときも、前日に「なんで今、パワープレーの守備を最後に練習したの?」って聞いたら、「明日、勝っている展開になるから」という答えが返ってきていました。非常にいろいろな側面、彼女たちの姿勢、こちらが用意していたプラン、試合のスコア、パワープレーの守備のイメージ、連動制が勝因にあったと思います。自分たちがタイムアウトを残り11秒まで残せていたことも。本当に多くのポイントが重なったんですよね。

――最後のタイムアウトは失点してから、取ることができましたね。

木暮 そうです。3-1でリードしていたので、そこまで引っ張れました。彼女たちは初めてパワープレーの守備を、ああいうプレッシャーの中で経験のあるチームを相手にやっていましたからね。

――スペインはパワープレーを7分強やってきました。

木暮 そうですね。3-2になるゴールを取られたときも、良いタイミングで取られてくれました。タイムアウトを取れるという切り札があったのですが、あれが残り2分で3-2になっていたら、非常に苦しかった。残り20秒でも、ちょっと怖いところでしたが、11秒だったので、『これはタイムアウトを取って終わらせることができるな』と思えました。そこまで僕もタイムアウトを残せていましたし、当然狙ったわけではありませんでしたが、選手が失点したタイミングが良かったですね。勝つ流れ、ゲーム展開にはあったのかなと思います。

――そしてメダル獲得を決めて挑んだ決勝戦。開始8秒の失点はプランを大きく狂わされました。その試合で前からプレスをかけなかった理由は、先ほどの話のとおりにポルトガルとスペインを相手に守備がハマったからですね?

木暮 最初のゴールに関しては、ポルトガルが狙っている、日本は狙われているなという印象があったので、対策はしていたんです。いま振り返って、自分に何ができたかといえば、キックオフのワンプレーだけ、プレッシャーに行かせてあげればよかったなというのはあります。自分としても、もう一つ踏み込んで、完璧にそこを消すことをしてあげられればよかったなというのは、自分にとって心残りですし、結果論ですが自分のミスかなと思います。

ただ、選手たちにも最後まで「メダルを獲りに行こう」とは言いませんでした。「メダルを取りたいという欲が出るのはわかるよ。でも、ここまでやってきたスタンスは変えないよ」と。なんのために、自分たちは来ているかというところですね。

――なんのために来たんだ、と話していたのですか?

木暮 ずっと言ってきたテーマは3つありました。1つは「この経験をポジティブに楽しむこと。人生において二度とないこういう経験を、思い切り楽しむこと」。2つ目は「自分たちの持っている可能性、何ができて、何ができないかを理解するためにもチャレンジしないといけないということ」。そして3つ目は「当たり前のことを全力でやるんだよ」と。日常生活もそうですし、声を出すとか、最後まであきらめないとか、100%持っているものを出す、100%全力でやりきる。この3つは一緒にどんなことがあってもやろうということを選手たちと約束して、毎試合それを戦術面の話とは別にやっていました。

決勝の前にも、そういう話をしました。「もちろん金メダルか、銀メダルかで言えば、みんな金メダルがいいのは当たり前だよね。でも、決勝戦だから欲を出すのではなく、ずっと言ってきた3つは絶対にやろうね」と。もちろん歴史は変わるし、変えるチャンスもありますが、彼女たちがプレッシャーを感じることが一番かわいそうだと思っていました。彼女たちはこれだけの短期間で、初めて日の丸を背負って、初めて国際舞台に出たんです。そこにポルトガルやスペイン、男子のブラジルが背負っていたような『勝たなければいけない』『メダルを獲らないといけない』『応援してくれる人のためにメダルを獲ろう』というプレッシャーを感じさせることが、一番やってはいけないと思っていました。また彼女たちにそういう責任はなかったので、そういうスタンスでやり続けました。結果論にはなりますが、良いアプローチが、少なからずできたのかなという印象があります。

――細かい戦略的な話をすると決勝までに、ポルトガルはFPフィフォが点を取りまくっていました。あそこまで突出している選手ですし、彼女にマンマークを付けるようなプランは描いていませんでしたか?

木暮 外から見ている方も、もちろん自分自身もいろんな見方はできます。セットプレーとか、個人のアクションであるとか、戦術・戦略とか、非常に多くの情報を分散しながら積み重ねて伝えてきた中で、一番自分が避けたかったこと、一番怖かったことは、僕の方も欲を出して、選手たちがキャパオーバーになってしまうことです。それで自分たちの良さが出せなくなるのは怖いなと。当然、勝つための戦略で言えば、自分の経験から言えば、いろいろな可能性を想定して「こうなったらこういうことができるよ」と、それを用意することは可能です。でも、その容量と彼女たちの容量、やれることやれないことがマッチしないことが一番良くありませんでした。どこまでチャレンジできるかは、やってみないといけませんし、そこは一つの決断でしたけどね。

――なるほど。このチームの活動期間では、そういう細かなパターンを試す時間は足りませんでしたね。

木暮 結果論ですが、今言われたような(マンマークを付けるという)奇をてらったことを、あの舞台でやるかどうか。選択肢として自分の頭の中にもあったか、なかったかで言えば、当然ありました。でも、それを今やることが吉と出るのか、凶と出るのか。それを決断することも必要でしたし、自分が選手たちと約束してきたことは、自分も守らないといけません。

――「欲を出すのではなく、やってきたことを出そう」ということですね。

木暮 そうですね。それありきで考えた決勝戦でしたし、マンツーマンをやるべきだったかは結果論ですよね。そこで何か違うことをやってハマって勝っていたら結果論で、素晴らしい采配だったとなったかもしれません。それは誰にもわかりません。ただ、本当に言えるのは、選手たちがよくやってくれたということです。

――点差を離されても、最後まで本当にあきらめずに戦い続けて1点返しましたね。

木暮 この大会にあたって約束したこと、精神的に自分たちがとるべき姿勢は、最後まで貫いてくれました。そういう彼女たちを誇りに思いますし、「決勝で1-4だったね」とか、「ポルトガル強かったね」とか、恥ずかしいとか、下を向くとか、そういうことは思ってほしくないですね。

――今大会に出場した選手たちは今後、フットサルに進む選手、サッカーに進む選手、それぞれいると思います。今後の彼女たちに期待することはどんなことですか?

木暮 二つあると思います。一つはこうした誰もができない経験をしたことを、彼女たちの人生にプラスにしてほしい。それは競技面だけではなくて、人間としても。またこの先に続くいろいろな場面で、自分の人生の役に立ててほしいなと。そして、少しでもこの経験を伝えていってほしいです。

 二つ目は純粋に競技として。彼女たちにもはっきり言ったのは「次にみんなとこういった形で会うのは、A代表しかないよ」ということです。もちろんサッカーであれ、フットサルであれ、続けている子は応援するでしょうし、試合も見ると思います。続けていなくても、ともに戦った、自分にとっては娘くらいの世代ですが、非常に濃い時間を過ごしましたので、応援しているところはあります。ただ競技で言うと、自分は今、女子のA代表の監督をやっています。やっている以上、「次にこうした形で会うときは、A代表に来たときだよ。君たちが頑張って、努力をして、A代表に呼びたいと思う選手になってほしい。そこを目指してもらって、そこでも会えることを願っています」と。その2つですね。あとは感謝とか、ありますけれどね。

――現地でのインタビューの際、今大会で最も印象に残っていることを聞かれて「彼女たちの笑顔」とおっしゃっていましたね。

木暮 出会った日から最後まで、彼女たちは常に良い笑顔で、前向きにやってくれました。自分も男子の選手としてやってきて、クラブの監督も務め、今は代表のコーチもやっていますが、17歳前後の子たちがそうして取り組めることは、男子も、Fリーグの選手たちも、見習わないといけません。彼女たちから見習うべきもの、何か忘れてしまっている純粋さみたいなものがあるなと、自分自身も思い出しましたし、同じような姿勢で学んでほしい。その源になるのはポジティブに笑顔で、フットサルがうまくなりたいとか、この瞬間を楽しみたいとか、そういう気持ちです。実際に選手村では、僕と彼女たちしか過ごしていません。ほかのスタッフは違うホテルだったので、ずっと朝も昼も夜も練習も一緒に過ごす中で、そこは印象的でしたね。

取材・インタビュー=futsalX

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