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Jリーグ・ヴィッセル神戸とFリーグ・デウソン神戸はなぜつながったのか? すべてのフットボールを巻き込む神戸のコラボ

2017.12.14

10時頃、新神戸に到着。乗り換えた西神・山手線にはクリムゾンレッドとエスパルスオレンジの集団がいた。そして総合運動公園駅でヴィッセル神戸と清水エスパルスのサポーターは左へ、自分は右へ分かれる。この数時間後、また彼らと出会うことになる。2017年12日2日、Fリーグ・デウソン神戸がJリーグのサポーター1,500人を招待した。
写真・文=佐藤功(デジタルピヴォ!)

▼12月2日、神戸・総合運動公園は特別な日

12月2日、神戸の総合運動公園は特別な日だった。J1最終節、ヴィッセル神戸は清水エスパルスとユニバー記念競技場で、デウソン神戸はグリーンアリーナ神戸でバルドラール浦安と。徒歩5分圏内で、2つの神戸が、2つのフットボールを行っている。「この日しかないと思ったんですよ」とデウソン神戸のスタッフは語る。そして「何年も前から何かできないかと考えていた」という策をここで披露した。

ヴィッセル神戸のサポーターを、デウソン神戸の試合に無料で招待。

11月29日、7日間のカウントダウンを経てデウソン神戸は高らかに宣言した。用意されたヴィッセル神戸サポーターと清水エスパルスサポーター用のチケットは1,500枚。すべて無料だった。

▼サッカーからフットサルの流れ

JリーグとFリーグのサポーターが集まったグリーンアリーナ神戸


グリーンアリーナ神戸に到着すると、アリーナ前では山田慈英と福良一至、津田卓がテーブルの上にチラシとチケットを用意していた。ここが、ヴィッセル神戸サポーターからデウソン神戸サポーターに入れ替わる場所である。

そして12時、ベンチコートを着た選手たちが集まる。彼らは鈴村拓也監督を先頭に5,000枚のチラシを手にし、ホームアリーナに背を向け駅の方向へ歩み出した。
監督自らチラシを配り、ヴィッセル神戸サポーターと写真撮影。稲田瑞穂は改札口の目の前に陣取りキャプテンとしての責任を行動で示し、受付を山田に任せて福良も駅前にやってきた。霜出聖也は誰よりも大きな声を出し、その横で津田卓は人々と触れ合う場を楽しむ。そして、集合したデウソンサポーターも声をからしながらデウソン愛をヴィッセルの人々に届けようとしていた。

時刻は13時を過ぎる。グリーン神戸は6クラブ共同開催の第1試合、エスポラーダ北海道vsアグレミーナ浜松のキックオフが30分前となっていた。だが、デウソンの選手たちはチラシを配り続ける。自分たちの試合は18時半開始。そして、お隣のユニバー記念で行われるヴィッセルの試合は14時から始まる。ここからがチラシ配りの勝負の時間帯、とデウソンメンバーはギリギリまで駅前に留まることにした。

この4時間差が今回の大きなポイントである。「うまく時間がずれている」とデウソンスタッフがニヤりとする。サッカーの試合は2時間もあれば終わる。16時はユニバーから徒歩5分の場所にあるグリーン神戸で、6クラブ共同開催の第2試合、府中アスレティックFCvs湘南ベルマーレの試合が始まる時間。サッカーからフットサルの流れがノンストップで実現している。そして、同じ神戸のチームであるデウソンが登場する第3試合には確実に間に合う計算になっていた。

田中優輝と齊藤秀人、川崎貴生は笑顔で道行く人々にチラシを手渡し続けた。

▼アメリカンフットボールも巻き込む『#We Are Kobe』

チラシ配りに参加した、アメリカンフットボール・XリーグWEST、エレコム神戸ファイニーズ、山﨑丈路(中央)

もう、時間は気にしていないようなものだった。川那部遼は右へ、二井岡嵩登は左へと1人でも多くの人たちに伝えようとしている。小石峯成彦も藤山翔太も宮田樹も、ヴィッセルサポーターの目を見ながら想いを届けようとしている。そしてもう1人、力強い味方がいた。

「デウソンさんのSNSでチラシ配りすることを知ったので、力になれたらなと思って来ました」。
アメリカンフットボールのXリーグWESTのエレコム神戸ファイニーズ、山﨑丈路選手がチラシ配りに参加していた。「僕らも神戸から日本一を目指してやっていますので、一緒に神戸のスポーツを盛り上げたい」という意思を語る。そんな山崎選手は実は、バサジィ大分の前身の下部組織でフットサル経験があるという。

この『神戸』というワードが、もう1つの大きなポイントである。

「SNS上で『#We Are Kobe』というキーワードがある」。実現に至るまでの最初の一歩をデウソンスタッフは説明した。「ヴィッセル神戸さんとSNSでいろいろやり取りをして、お互いのサポーターにも神戸のフットボール仲間と思っていただけていると思います。今回、エレコム神戸ファイニーズさんにもご協力していただけましたし、この『#We Are Kobe』は大きいですね」。わずか3つの単語で、神戸は1つになっていた。

「僕はアメリカンフットボールですけど、同じフットボールですから」という山崎選手の存在で、この場所に3つのフットボールが集まっていた。そして、エレコム神戸ファイニーズのイヤーブックが、デウソン神戸のパンフレットと共に、この日の6クラブ共同開催の観戦者に配られていた。サッカーも好き、フットサルも好き、アメフトも好き、それでええやん。各クラブが『神戸』の名の下に同じ方向を向き、互いを応援し協力をしていた。

すべてのチラシを配り終えた。もう間もなくグリーン神戸では第1試合が始まる。全員、やりきった達成感と共に駅を後にする。そして、何人来るんだろうか……誰も口にはしないが、期待と不安を持っている。その場にいた自分も同じことを感じていた。

▼伝えるだけではない、しっかりと届けること

我らのホームアリーナ、グリーン神戸に戻る。受付担当の山田がアリーナ前で子供たちとボールを蹴っていた。今回の作戦は、ヴィッセル神戸vs清水エスパルスの観戦チケット、またはヴィッセルの年間パスの掲示で、Fリーグ第27節6クラブ共同開催in神戸の観戦チケットを手に入れることができる。遊んでやがるな、と思ったが彼はしっかり仕事をしていた。「もう100人ぐらいお渡ししましたよ」。ヴィッセルの試合前から受付を済ませた人もいた。まだ100人かもしれない、でも期待が不安を大きく上回り始めていた。

ヴィッセル神戸が負けた。そのまま帰ってしまうんじゃないか、とまた不安になり始めていた。だが、逆の意味で「あかん、入らへんぞ」とスタッフがうろたえていた。16時を回った頃、封鎖していた2階席を開放した。グリーン神戸にぞろぞろと人が集まってくる。チケット配布担当の津田と山田、福良は忙しそうだった。そして入場口にいた宮田は「うれしいっすね」と、チケットのもぎりをしていた。

デウソン神戸vsバルドラール浦安が始まる。ヴィッセルのサポーターはデウソンのチャントに合わせて手拍子。そして、オレンジ色のエスパルスサポーターも観客席にいた。「サッカーより狭いエリアでやってるんで、選手の動きも激しいですし見てて楽しい」と初フットサル観戦の赤いサッカーファンが語れば、「細かいところも知ったらもっと面白くなりそう」とヴィッセルの女性サポも語る。どのサポーターも「また機会があれば来たい」と話していた。そして、「デウソンが勝つところが見たかった、今度は勝つところが見たい」と初めてデウソンを見た人がいた。その理由は、『神戸である』ということだった。

「ヴィッセルとデウソン、INACもよくSNS上でからんでいますよね」と、日々のやり取りを楽しんでいるヴィッセルサポーターが話す。各競技がSNS上でコミュニケーションを取り続けたつながりは、サポーターたちにも浸透していた。ヴィッセル神戸とデウソン神戸、INAC神戸レオネッサ(なでしこリーグ)とアルコイリス神戸(日本女子フットサルリーグ)、そしてエレコム神戸ファイニーズなど、神戸のスポーツクラブが温めてきた『#We Are Kobe』でつながり、大きなうねりを作った。そして、「ヴィッセルの公式で見て最初からはしごしようと決めていた」という人がいた。ネット上で伝えるだけではなく、しっかりと現実として届いていた。

観客動員数1,856人。デウソン神戸の長い12月2日は終わった。

▼喜ぶだけで終わらなかった価値

翌日、魔法は一夜にして解けてしまう。12月3日、デウソン神戸vsアグレミーナ浜松の観客動員数は405人だった。

『フットサルを見てもらう』という言葉は、『フットサル』と『見てもらう』の2つの行動を持っている。『フットサル』を提供する彼らは、チラシを配ることで『見てもらう』大変さを知った。そして、アリーナにいた大観衆の姿に成功体験を得た。あの宮田の「うれしいっすね」の言葉は、チラシ配りに参加したからこそ得た喜びでもある。この経験をどう生かすのか。翌日の残酷とも言える落差は、喜ぶだけで終わらなかった価値を持っている。

「危機感を持っている」デウソン神戸の人間は、「神戸がざわざわする」ことをしかけた。その中には、選手たちも参加していた。「今日で終わりじゃなくて、今日が新たなスタートということで前を向いて戦っていきたい」。鈴村監督が会見で話した言葉は、デウソン神戸の総意である。「次につなげていきたい」と、クラブスタッフはその第一歩として12月2日を選んだ。それはフットボールのみならず、スポーツ界すべてを巻き込む第一歩でもあった。

そして神戸の街は、次なるざわつきを考え始めていた。

みんな~デウソンのお兄さんだよ!僕たち、子供大好きフットサル選手です!【選手こぼれ話|デウソン神戸】

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