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なぜ映像制作会社がバルドラール浦安の広報に? プロダクション9 小島耕が考える『サポーター視点の広報』とは

2017.11.24

バルドラール浦安の広報を務めるプロダクション9の小島耕氏

2016年、バルドラール浦安のクラブアライアンスメンバーとなった株式会社プロダクション9。Jリーグの公式映像を制作する彼らが、なぜFリーグのクラブ運営に携わるようになったのか? バルドラール浦安の広報でもあるプロダクション9の小島耕氏が、その理由と今後の戦略を語る。(2016年5月某日収録)

▼危機を乗り越えタフとなる

――今年から「株式会社プロダクション9」は、バルドラール浦安のクラブアライアンスメンバーになりました。Fリーグを普段応援されるサポーターからは失礼ですが御社名を初めて聞く方も多いと思います。簡単にどういうことをやられている会社なのかご説明していただいてもよろしいでしょうか?
小島:主にスポーツ関連の映像制作会社で、CS放送を中心とした番組の企画から制作を担当しています。現在6年目に突入していますが、サッカーに特化していますね。Jリーグの公式映像系の制作も多いです。

――その中で小島さんは営業部部長ですが、実際にどのようなことを担当されていますか?
小島:営業、人事、経理、総務ですね。

――ほぼ全部ですね。
小島:逆に言うと制作はほとんどやりません。番組によってはプロデューサーとして動きますが、映像の編集やカメラ回すといった経験はありません。人、物、金という部分を全部やっている感じです。
私は元々、紙媒体の出身で編集部のデスクや営業とかいろんな職種をやらせていただいたのですけど、ワールドカップが2回あって転職のタイミングかなと考えていたんですよね。そこに、たまたま映像会社を立ち上げる人から話があって、私はそこに参加したんですよ。ですから、私以外の独立メンバーは完全に制作の現場で、私は他の業務を担当することになったんです。

――ということは「株式会社プロダクション9」の創業メンバーですか?
小島:めちゃくちゃ創業メンバーです。2010年10月に設立しましたが、翌年に東日本大震災が発生し、予定していたサッカーの仕事がすべてストップしてしまいました。そういう辛さもありましたね。

――いきなりの前途多難。
小島:でも、その経験を乗り越えていまはタフにやっています。

▼身近なきっかけから浦安サポーターへ

――「株式会社プロダクション9」としてサッカーとの接点はあっても今までフットサルに関してあまり接点がないように思いますが、今回バルドラール浦安のクラブアライアンスメンバーになられたきっかけはどういったことだったのでしょうか?
小島:私の場合、土日はだいたいスタジオや現場にいることが多くて、週末のFリーグと接点がなかったんです。でも、子供がサッカーをやるようになって、SOLTILOという本田圭佑選手がオーナーのスクールに通うことになりました。そこで子供の練習を見に行く事があり「あのコーチ上手いな」って思っていたら、実はバルドラール浦安の選手だったんですよ。それからFリーグを見に行ってみようとなったのですね。

――Fリーグの第一印象はいかがでしたか?
小島:初めて見に行ったのが、フウガドールすみだとのプレーオフでした。それまでフットサルを見たことはなかったんですけど、生でFリーグを見てすごい衝撃を受けました。私は鹿島出身ですけど、ジーコが住金(住友金属)のグラウンドに来た時と同じぐらいの衝撃を受けましたよ、こんなに面白いコンテンツがあるんだって。しかも、私の子供を教えてくれているコーチがスターなわけですよ、いつも冗談ばかり言ってるコーチが。もう、心奪われますよね。それ以降、私は週末に仕事があって行けない時もありますけど、時間がある時は近隣の町田、府中、墨田あたりのアウェーもなるべく行って、週末はFリーグを見てからサッカーの仕事をする生活になりましたね。

――凄いハマりっぷりですね。
小島:サッカーに関しては仕事として関わっているので、「メディアです」と報道受付に行くのが染み付いちゃっている。だから、お金を払ってチケットを買って、ホットドックを食べてジュースを飲みながら時には審判に文句を言ったり、ラスト1秒までハラハラして勝った負けたと騒ぐことが新鮮だったんです。それでハマっていったんですよ。

▼Jリーグの経験をFリーグへ

――そこからバルドラール浦安のサポーターとしてではなく、なぜビジネスとして関わるようになったのですか?
小島:試合を見に行くにつれて、クラブの運営などに対していろいろ思うところはありましたが、これは個人の趣味だから我慢して、サポーターとして関わっていこうと思っていたんです。でも観戦に行くと「小島さん何しているんですか?」と、サッカーの関係者に会うじゃないですか。そうすると、やっぱりどうしようかなってなるんですよね。そこでまず、弊社は映像制作会社なので、ホームの体育館にあるビジョンに協力しようと思って、今年の年明け早々にバルドラール浦安・塩谷社長に私からコンタクトしたんですよ。そうしたら、もっといろいろやってくれないかと言われたんです。クラブとして今変革の時期でちょっと攻めに転じたい、完全プロのチームにはなかなか勝てないけど近づけるようにがんばりたい時だから協力してくれないかと。そして最初に言われたのは、広報とファンクラブだったんですよ。

――いきなり重要なポジション。
小島:それまで広報担当はいましたが、下部組織のコーチがスクールをやりながら兼務する体制だったので仕事が回らなかったんですよね。

――だいぶ仕事量的にも無理がありますね。
小島:例えば、バルドラール浦安の選手はみんな昼間に仕事をしている人がほとんどなので夜から練習開始なんですが、その時間は体育館の一般開放が終わっている時間帯なのでサポーターに公開できないんです。でも、他のイベントで体育館が使えなくて別の屋内フットサル場を借りた時は公開できる場合がある。ただその告知が、選手がそれぞれのSNSで「明日公開練習です」という現象も起きていました。

――オフィシャルとしてではなく点として各々がやっている状況だったのですね。とはいえ、しっかりSNSはやられていますよね、各カテゴリーで。
小島:これはバルドラール浦安のすごいところだと思います。でも各カテゴリーのSNSも個々でやっていて整理されていない部分があるので、まず統合しようというところからです。1月25日の段階でバルドラール浦安のFacebookページのいいね数は2100だったんですね。これが5月15日時点で、約1.5倍の3200。Twitterのフォロワーは3900から今4200ぐらいになっています。是非見てほしいんですけど、先日のプレシーズンマッチ台湾戦のプレビュー映像を弊社で作ったんです。(動画はこちら)。この映像を公開したらたくさんの反応があったんです。他にも今は情報を出せば出すほど反応がある状況ですごく好調です。Twitterのフォロワー数は今リーグで5番目ぐらいですけど、Facebookも含めてFリーグのクラブのなかで早いうちに一番になりたいです。

――もうひとつ担当されているファンクラブについてはいかがでしょうか?
小島:ファンクラブは、クラブとしてもこれまでの方針を変えるというのが前提にあって、やってくれないかということでした。あと、今はチケッティング事業もやっています。

――収益に関わる一番重要なところじゃないですか。そう考えるとサポーターに関わるところを全部やっている感じですね。
小島:あと、一部スポンサー営業もやっており、何社かスポンサーを付けました。

――かなりやっていますね。
小島:いつのまにか多くの業務を担当させてもらっていますが、FリーグはJリーグに比べると、まだまだ開拓ができる場所だと思いますね。これからは例えば物販事業とか、さらにいろいろな広がりはあるかもしれませんね。

――ほぼバックヤードの半分ぐらいやっていると思うんですけど、ビジネス面ではバルドラール浦安さんとどう関わっているんですか?
小島:お話できる範囲で言うと、ファンクラブに関してはファンを獲得して会場にサポーターの方々に来てもらうところが弊社の収益になります。まだ募集して1ヶ月半ぐらいなのでこれからではありますが、広報事業も含めて、包括的に業務を担当するというところでアライアンスパートナー契約を結んでいます。

――広報の現場では小島さんが実際に前線に立ってやられているんですか?
小島:そうです。まさかメディアとして何度も足を運んでいる試合後の会見場で、記者会見の司会をやるとは思わなかったですよ。先日のプレシーズンマッチの会見場で、米川監督の会見が終わってクセで拍手してしまったんですが、「小島さんは拍手するポジションじゃないよ」って言われました(笑)。

▼メディアとクラブの大きな違い

――今後の展開について。まずはひとつのポイントとしてはホーム開幕となる6月25日に向けて準備はいかがですか?

小島:ホーム開幕に向けての準備はもちろんですけど、まずは新規ファンの獲得ですね。もっともっと取り込んでいかないと苦しいかなと思っています。下部組織の子たちの数を見ると、確実に浦安の町で10年やってきたバルドラール浦安の名前が徐々に浸透してきているんですよね。それをもっと利用しなきゃいけないですし、他にも手を付けることはたくさんあります。例えば今、Jリーグと同じ時間、同じ曜日にやっていたりするじゃないですか、それがまずひとつの障壁なんですよ。Jリーグのサポーターが1回でも2回でも見に来てもらえたら、魅力はわかりやすく伝わると思います。スピード感とかスポーツをある程度かじった人だったら絶対面白いと思うんですよ。それは自分の経験上から感じていることなので、その経験を単純に広く伝えたいですね。

――プレーヤー出身のクラブ関係者の方が多い中で小島さんのサポーター目線を持たれている方が内部に入られるのは、すごく貴重だと思います。
小島:あとは、例えば湘南ベルマーレみたいにJリーグクラブと一緒にプロモーションできればいいんですけど、実際に同じ千葉県を本拠地とするジェフ千葉や柏レイソルと一緒にやっていないわけで、その問題点もあります。自分たちはサッカーのビジネスをやってきた会社ですから、Fリーグにそういったノウハウを持ち込むことで何か貢献できるんじゃないかと思います。満員で1600、1700人のコンテンツではありますが、まだまだ伸びしろはあるので、弊社が絡めるところはたぶんそこだと思います。

――実際にFリーグのフロントに入ることになって、面白いことや大変なことなどありますか?
小島:面白いこととは少し違うかもしれませんが、例えばホーム開幕の6月25日、私達も一生懸命頑張って、1400人のサポーターが入って体育館は良い雰囲気となる。しかしもし思うような結果が出なかったきは、とても悲しくなりますよね。ですが、次の試合がすぐやってくるわけで、私たちは観客動員を増やしていくこと、サポーターを増やしていくことにトライし続けていかなければいけません。そうして迎えた次の試合でチームが勝った時。この喜びは何物にも代えがたいものだと思っています。
大変なことは興行ですね。先日の台湾戦で、いろいろな準備や仕込みをやって、Facebookにも台湾の方からたくさんの「いいね」をもらって手ごたえはあったんですね。でも結局ふたを開けてみれば530人しか入らなかったんです。これがすごくショックでした。選手やスタッフ、塩谷社長に「すいません、私のプロモーションが足らなくて530人しか入りませんでした」と謝ったんです。みんなは「そんなことないよ」って言ってくれるんですけど、結果が出る非常に厳しい世界だなと痛感しました。

――完全にフロントの一員ですね。
小島:ある練習日、エースの星翔太が全治6ヶ月の大怪我をしたんですよ、私の目の前で。今までメディアという立場から目の前で大怪我する選手を見てきましたが、今回は動揺してしまいました。これまではいちメディアの立場として、「がんばってほしい、復帰を願います」という原稿を書くことで終わっていましたが、クラブ側の立場になると、そうはいきません。これまで以上に情報に対する責任を持たなければいけないし、本人に対するケアも考えないといけない。興行的にみればお客さんが減ってしまうかもしれない。でも悲しんでばかりもいられない。前に進んでいかなきゃいけない。メディアの立場からクラブ側へ壁を1枚超えると、こんなに厳しい覚悟を背負った世界が待っていたとは正直思いませんでした。自分にはその覚悟が足らなかったと思いました。一方で楽しいこともあります。練習に行くたびに、ちょっと傷んでいた選手がチーム練習に合流してボールを蹴れるようになって、「明日の練習試合に出れますよ」という時のうれしさとか、初めての試合を迎えた選手がゴールを決めてパフォーマンスを派手にやってくれって言ったのにできなくてそれをツッコむ時の喜びとか。魅力的で楽しいですよ。

――お話を聞いていると、小島さんのバルドラール浦安への情熱を凄く感じます。
小島:情熱がないと絶対にコンテンツは育たないと思うんです。Fリーグの選手たちはフットサルとは別に仕事をしているじゃないですか、だから社会人能力がすごく高いんですよ。そんな彼らに触れるとこの人たちを勝たせたい、日本一になってほしいと思うんです。

――長期的な関わりとなりそうですね
小島:どうなるかわかりませんけど、ここまで絡んだからにはやるしかないかなと。現状、フットサルは関係者で完結している世界なので、まだまだ大きなムーブメントを作っていけると思っています。まだ何も波風は起きていませんが、それはあるかなと思っています。

――将来的にバルドラール浦安の経営にもっと深く関わりという思いはありますか?
小島:いやいや、クラブの経営は考えていません。クラブに関わることがこんなに大変だと思わなかったので。本当にJリーグクラブのスタッフ皆さんに謝りたいなと思いました。今まで取材する立場で「あの広報は協力的じゃないね」と言いたくなることもありましたが、それではいけないと思って、フレンドリーな広報を目指さないといけないと思っているんですけどね。

――では最後に、小島さんにとってバルドラール浦安とは?
小島:仕事の場所なんですけど、最高の遊び場だと思っています。エンタメの世界って楽しくないといけないんですよ。楽しくないとスタッフも愛想がなくなってつまらない雰囲気になる。塩谷社長も、バルドラール浦安に集まってくる人みんなで楽しんでくださいと言っているんですよ。バルドラール浦安は最高の場所だと思います。いろんなことが試せる場所だと思っています。

協力=デジタル ピヴォ!

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