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【コラム】名古屋崩落と新王者・大阪の誕生…Fリーグ10年目に起きた“大事件”が意味する日本フットサルの未来とは

2017.03.24

絶対王者・名古屋が崩落した今季。10年目のFリーグは波乱に満ちていた。

 前人未到の10連覇に挑んだ名古屋オーシャンズから王位を奪ったのはシュライカー大阪。Fリーグ10年目、激動のアニバーサリー・シーズンにいったい何が起きていたのか──。今シーズンの戦いがすべて終わった今、改めてその出来事を振り返ると共に、日本フットサルの未来を検証する。

「負けられない名古屋」はなぜ敗れたのか


 2007年のFリーグ創設から9連覇を成し遂げ、これまでの日本フットサルをけん引してきたのは間違いなく名古屋だった。そんな彼らは今シーズン国内無冠。Fリーグではリーグ2位に甘んじ、プレーオフでも2nd Roundでペスカドーラ町田に屈してFinal Roundの舞台にすら立てなかった。さらに全日本フットサル選手権大会でも1次ラウンドで敗れ、決勝ラウンド進出を逃した。いったい、王者に何が起きたのか。

 彼らは今シーズン、改革に着手した。チームを支えてきた北原亘、ペドロ・コスタが引退し、絶対的なエース・森岡薫を放出。コスタ新監督のもとで、若手・中堅を中心に再構築を始めた。しかし、森岡の代役として獲得したブラジル人・シノエが、開幕直前に諸事情で帰国してしまう不測の事態に遭い、最後まで尾を引いた。

 それでもシーズン序盤、7月に行われたAFCフットサルクラブ選手権で、苦しみながらも2年ぶりの大会制覇。準決勝では、アジアで無類の強さを誇るイランのクラブ、タシサット・ダリアエイをPK戦の末に撃破するなど、チーム一丸となって戦い、見事にアジアタイトルを手中に収めた。自信を手にした名古屋は、これまでの「個の能力で打開できるチーム」から「チームの総合力で戦うチーム」へとスイッチしていった。ただ結果的には、このチーム作りが「常勝軍団」にはそぐわないものだった。

 どんなに後手に回っても、最後は誰かが決定的な仕事をしてきた。そして最終的に頂点に君臨してきた彼らは、「勝者のメンタリティー」が備わっていた。しかし今シーズンは、その精神性を継ぐ選手が少なかったことで苦しい試合をモノにできず、大事な試合で勝ち点を落としてしまうことが増えた。

 第14節のフウガドールすみだとの天王山では終盤に同点に追い付かれ、第19節、第7節(名古屋がクラブ選手権に出場した日程の都合上、2017年1月5日に開催)の大阪との決戦では、2-4、4-7といずれも力負け。第30節には、引き分け以下で大阪のリーグ1位が確定するという直接対決に1-0と勝利して意地を見せたが、リーグの趨勢を変えるには至らず。結局、初めてリーグ1位を明け渡したことが痛手となり、プレーオフでいつもFinal Roundで待ち構えていた彼らは、初の1st Round、2nd Roundという戦いに苦しんだ。

 新生チームのキャプテンを任された星龍太は常々、「オーシャンズは負けられない」と語ってきたが、何があったとしても最後には勝つという、絶対的な強さを示せなかった。リーグ後の全日本選手権で立て直せなかったことが、彼らの現状を物語っている。プロ環境を持つ名古屋に実力がないわけではない。ただ、すべての力を出し切るメンタリティーに欠けた。心技体が揃わない名古屋は、決して強くなかった。

大阪はFリーグと全日本フットサル選手権を制覇。見事に2冠達成を果たした。


シーズン2冠を達成した大阪はなぜ強かったのか


 そんな名古屋とは対照的に、心技体を備えていたのが大阪。彼らは今シーズン、16連勝を含む23戦無敗というクラブ記録を打ち立てた。しかも、ヴィニシウス、アルトゥール、チアゴというブラジル人トリオがリーグ戦の33試合で113得点を挙げて得点ランク上位を独占。チームとしても186得点という圧巻の得点力を誇った。

 勝っていても負けていても、どんな展開でも確実にゴールを奪える強さがあり、最終的に勝者としてピッチに立った。まさに王者・名古屋のお株を奪うような姿。彼らはどうして、それほどまでに強かったのか。

 決して得点力がすべてではない。彼らが真の意味で王者になれたのは、やはり「心技体」が揃っていたから。特に「心」の部分が大きい。彼らは名古屋に負けないほどの「プロ意識」を持つ集団となった。

 大阪が無類の強さを示した中盤戦以降、ピッチに立つメンバーは固定されていった。特に、ヴィニシウス、チアゴ、アルトゥール、小曽戸允哉、加藤未渚実の5人が主力として長時間プレー。Fリーグでは通常、どのチームも4人1セットの2セットを組んで交互に回し、そこにプラスアルファの選手を投じていく戦い方が定石だが、大阪の場合は、この5人をローテーションするなかで、そこにプラスアルファの選手を起用していった。

 木暮賢一郎監督としては、「固定」ではなく、あくまでもチームの競争に勝ち残った選手、より結果を出せる選手をピッチに送り込んでいるだけだったが、その起用法は顕著だった。彼らのトレーニングの多くは、この「5人の主力組vsそれ以外の選手」という形式で行われ、ピッチに立てない選手は、主力組からその座を奪うために躍起になった。その結果、チーム内の争いに敗れて試合に出られなかったとしても、選手は納得がいく。こうしたシビアな競争原理が機能した結果、プロクラブのような結束したチームへと成熟していった。

 そうである一方、外国人選手に頼るだけではなく、ピッチで同じように質の高いプレーを見せられる日本人選手、若手選手が成長することも、監督は目指してきた。2年前の加藤や田村友貴、水上洋人に始まり、今シーズンの仁井貴仁といった人材が成長したことは、「勝ちながら選手も育成する」ことの大きな成果だった。

 木暮監督は、ベンチ外、もしくはベンチ入りしても出場できない選手を含めて、常にコンディションをキープできるように計算してトレーニングを組むことで、選手がシーズンを通してパフォーマンスを維持した。個々に特徴があり、明確に自分の役割を意識している選手が持ち味を発揮できることで、組織と個の戦略が融合する。こうしたマネージメントの結実によって、心技体が高次元で備わった彼らの強さはホンモノだった。

日本代表は2004年から3大会続いたW杯本大会出場を逃す「タシケントの悲劇」を味わった。


10年目のFリーグがエポックメイキングだったワケ


 今シーズンは、日本フットサルにおける転換期となった。

 10年目の記念すべきシーズンの開幕前、2016年2月に、日本は失意を味わった。磐石とされたAFCフットサル選手権(アジア選手権)に3連覇を懸けて臨んだ日本代表は、準々決勝でまさかの敗退。同年9月にコロンビアで開催されるフットサルワールドカップの出場権も兼ねた大会だったため、アジア5枠のうちの残り1枠を争うプレーオフに臨んだが、そこでも敗れ、2004年から3大会続いた本大会出場の流れが途絶えた。

 アジア選手権が行われたウズベキスタンの開催地になぞらえて、「タシケントの悲劇」と呼ばれたこの日本代表の失墜は、日本フットサルの再起を誓う戦いの始まりを意味した。日本代表を構成するメンバーのほとんどはFリーグに所属しているため、選手たちは並々ならぬ思いで今シーズンを戦った。

 皮肉にも、W杯出場のために空けた約1カ月の中断期間の中で、初めて「オールスターゲーム」が開催された。ファン、サポーターの人気投票によって選ばれたメンバーが「F-EAST」と「F-WEST」に分かれて対戦し、文字通り、日本最高峰のプレーの応酬を見せた。日本フットサルをけん引してきた“レジェンド”、それに続く世代、そしてFリーグ開幕以降に台頭した新世代の選手が交わる戦いは、エンターテインメント、競技性の両方で質の高いものとなり、1日限りのこの初の試みに多くの観客が集まり、大成功のうちに幕を閉じた。

 そしてレジェンドの相次ぐ引退宣言も、今シーズンがエポックメイキングだった理由の一つ。“カリスマ”としてフットサル界に影響を与え続けたペスカドーラ町田の甲斐修侍を始め、長年にわたって日本代表を引っ張ったデウソン神戸の鈴村拓也、バルドラール浦安の小宮山友祐、そして大阪の村上哲哉と奥田亘、フウガドールすみだの太見寿人が、終盤戦を前に、今シーズン限りでの引退を表明した。

 Fリーグ開幕から10年。彼らがずっと第一線で活躍できたのは、純粋に競技者としての質の高さがあったことと同時に、彼らを追いやるだけの選手に欠けていたことも意味する。だからこそ、彼らがようやく引退を決意できるだけの若手選手が、少しずつ台頭してきたということでもある。

 特に、大阪の加藤やすみだの清水和也など、もはや誰の目にも疑いようのないパフォーマンスを示し、日本代表としても定着しつつある彼らの存在は、日本フットサルの良いニュースに違いなかった。

新王者が誕生した今、Fリーグは新たな時代へと突入する。


常勝を目指す大阪と復権を期す名古屋の2強時代の到来


 名古屋の戦力低下にあって、シーズン序盤に首位を快走したすみだや、終盤に掛けてチームの成熟が進み、プレーオフで大阪を追い詰めた町田、そして新王者となった大阪。さまざまな出来事と共に今シーズンを駆け抜けた彼らを中心に、この先のFリーグは、どのような戦いが繰り広げられるのだろうか。

 一つの未来は、常勝軍団を目指す大阪と、復権を期す名古屋の2強時代の到来。

 大阪は3年前から、木暮監督が勝利に徹するプロ意識をチームに植え付けてきた。「フットサルの戦術や戦い方だけではなく、圧倒的な資金力を持つ一つのクラブが飛び抜けている状態を変えたいという思いがあった。もらっている金額や、プロなのかセミプロなのか、もしくはアマチュアなのかが混在している中で、大阪には、1年目から一貫してプロフェッショナルとして取り組む姿勢をブレずに伝えてきた。そういうアイデンティティーをクラブに根付かせたいという気持ちが一番にあった」。名古屋が唯一の完全プロチームという現状の中で、木暮監督は名古屋を打ち破るための方法論として「プロ意識の定着」を掲げてきた。

 そして就任から3年目の今シーズン、リーグ戦を通して名古屋を上回る「リーグ1位」という一つの大きな目的を果たした。さらに、プレーオフFinal Roundで町田を退け、堂々のリーグ制覇を達成。「Fリーグの歴史を変えよう」という強い決意で戦ってきた大阪が、一つの答えを示した。だからこそ彼らは、この戦い方を継続しながら、今シーズンまでに培ったノウハウをさらに推し進め、常勝軍団への道のりを歩み始めるだろう。

 そんな木暮監督が徹した「勝利至上主義」は、ある意味で時代に逆行していた。選手、スタッフを含めたクラブの全員がリーグの発展を考え、勝利だけではない部分も同時に追求しながら力を注いでいくことは、「自分がフットサルを始めた頃は、フットサル界のみんなの仲が良くて、手を取り合って、このスポーツを発展させていきたいという中でやってきた」(木暮監督)という流れを汲んでいる。

 一方、その真逆の道を選び、選手、監督としての第一の本分を「勝利」に定めて結果を求めた戦いには、少なからず懐疑的な声もあった。それでもブレることなくまい進して手にした成果。「フットサル界が次のステージにいくために、環境が良くなるのを待っていても時間が過ぎていくだけ。理想としては、今回の結果でチームがさらに変わり、他のクラブの意識が変わり、もっとフットサルが発展していくこと。それが願いでもある」。木暮監督の哲学が結実した大阪のリーグ制覇という結果は、間違いなく他のクラブにも派生していく。

 ただし、大阪とバサジィ大分の2クラブは、Fリーグにおいて名古屋に次ぐ経営規模を誇るとされ、必ずしも他のすべてのチームがこの方法を真似できるわけではない。強力な助っ人外国人を獲得し、同時に、プロ監督と何人かのプロ契約選手、そして午前中から練習できる環境というのは、簡単に揃うものではない。

 その意味で、町田やすみだといった中小規模のクラブが、独自の経営方法、チーム環境を整え、オリジナリティーのあるビジョンを描いてリーグ制覇を目指していることも一つの選択肢。そうしたクラブが、今シーズンの自分たちの戦いを経て、そして大阪の戦いを目の当たりにして、どのように変化、進化を遂げていくのか。Fリーグの各クラブは、11年目以降のFリーグでどのようにチームを作っていくのだろうか。

 “外国人軍団”名古屋と“日本代表軍団”浦安の2強時代に始まり、大阪や町田が王者に肉薄した時代を経て、名古屋1強の流れが強まっていったFリーグ。新王者が誕生した今、新たな時代へと突入する。

 権威を失った名古屋は、復権を期して、すでに戦力確保の動きを見せている。同じように、強力なスポンサー援助のある大分も、本腰を入れてリーグ制覇を見据える気構え。他にも、現実と理想を踏まえた戦力整備に、多くのクラブが着手し始めている。手を打たず、くすぶっているだけでは、時代に取り残されていく。

 日本フットサルの未来の戦いは、今シーズンの閉幕と同時に、すでに始まっている──。

文・写真=本田好伸

By 本田好伸

1984年10月31日生まれ。山梨県甲府市出身。日本ジャーナリスト専門学校⇒編集プロダクション⇒フットサル専門誌⇒2011年からフリーとなりライター&エディター&カメラマンとして活動。元ROOTS編集長。2022年から株式会社ウニベルサーレ所属。『SAL』や『WHITE BOARD SPORTS』などに寄稿。

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