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難敵・蔚山に挑むFC東京…キャプテン東慶悟は“違い”を生み出せるか

2020.11.30

FC東京のキャプテンを務める東慶悟 [写真]=Getty Images

 新型コロナウイルスの影響で9カ月間もの中断を強いられた後、カタールでのセントラル開催という形でリスタートした2020年AFCチャンピオンズリーグ(ACL)。中断前の時点で勝ち点4とグループ首位に立っていたFC東京は、24日の再開初戦・上海申花戦をPK1本で落とし、厳しい船出を余儀なくされた。

 それでも、27日に行われた上海申花との2戦目をレアンドロと安部柊斗のゴールでしぶとく勝利。1次ラウンド突破への大一番・蔚山現代戦を30日に迎えることになった。

「こういう中2日、中3日でどんどん試合が来る大会はチームの勢いが物すごく大事だなと感じます。そういう意味でも27日の1勝は大きかったし、自信になった。チームも活気づいてきているので、勢いを大事にしたいです」

 こう語気を強めるのは、キャプテンの東慶悟。7月22日のコンサドーレ札幌戦で負った右第五中足骨骨折がようやく癒え、今月に入って戦線復帰したばかりの背番号10は、しばらく勝ち星に見放されていたチームに大きな活力を与えている。

 27日のゲームを見ても、レアンドロの先制弾につながったラストパスを出したのは東だったし、それ以外にも永井謙佑の決定機をお膳立てするなど、キラリと光る攻撃センスを要所要所で見せつけた。

「慶悟の加入は非常に大きい。ちょっとしたタメが彼のところでできるので、攻撃のチャンスが生まれていたし、落ち着いたゲーム運びもできていた」と長谷川健太監督も絶賛していた。

「ケガで離れている約4カ月の間、FC東京の試合は全部見ました。ホームゲームは味スタに見に行って、アウェイは映像でチェックしましたけど、アダ(イウトン)や永井選手がすごくいい動きをしてるなと感じていた。僕が入ったら彼らを生かすパスを出してあげたいと考えていました。
27日の試合では実際にそういうシーンをうまく作れた。自分がそういうプレーを出すことで、ほかの選手のドリブルが生きたり、攻撃パターンも増えて厚みが増してくる。それが僕の持ち味でもあるので毎回出せるようにしたいです」

 本人も長いリハビリ期間にやるべきことを徹底分析してピッチに戻ってきた。中盤をコントロールできる人間がいることでFC東京のゴールへの迫力は確実に増す。ディエゴ・オリヴェイラという傑出した点取屋が悪質なファウルで負傷離脱している今だけに、東の存在価値がより重要になってくるはずだ。

 もう1つ、彼にはチームをけん引するという重責が託されている。ご存じの通り、今のFC東京はACL経験が少ない若手が多い。主力としてコンスタントに試合に出続けている安部柊斗でさえ今季初参戦だ。「ACLだと相手が自分たちのことをそこまで完璧に分析してこないので、自分の特徴を出せる場面が多い」と安部は前向きにコメントしていたが、蔚山戦のような修羅場に立たされた時には想定外のプレッシャーを感じることもあるかもしれない。そんな時、彼らに持てる力のすべてを発揮させるように導くのが、30代を迎えた東の役割と言っていい。

「ケガで実戦から離れている間、練習から『勝つ雰囲気』を出していかないといけないというのは僕自身、強く感じていたこと。今は中2日で試合ばっかりですけど、試合に出てない組、サブ組の練習では、試合や勝利に飢えている気持ちやハングリー精神をもっと出してほしい。その重要性をキャプテンである自分から発信していきたいと思っています。
それと、若い選手はACLの独特の雰囲気に慣れることが大事だと思います。24日の初戦はその難しさを改めて感じました。中東での集中開催は彼らにとって本当にいい経験になる。僕もロンドン五輪予選の頃、アジアで戦っていたことを思い出しました。もう8~9年前になりますけど、試合やスタジアムの雰囲気、グラウンド状態含めて中東での経験がすごく生きてるなと感じます」

 東がしみじみと述懐するように、2011~12年にかけて行われたロンドン五輪アジア予選は本当に一筋縄ではいかなかった。中立地・ヨルダンで行われたシリア戦でまさかの黒星を喫し、予選敗退危機に瀕したこともあった。それでも彼らはマレーシアとバーレーンに連勝して底力を示し、本大会切符を手にした。そしてロンドン本大会では、初戦でスペインを撃破。その勢いに乗って3位決定戦まで勝ち進んだ。当時のチームをけん引してくれた山村和也や吉田麻也といったキャプテンの一挙手一投足を脳裏に浮かべつつ、彼は厳しい戦いを勝ち切っていくつもりだ。

 さしあたって、今日対峙する蔚山は絶対に叩かなければいけない宿敵だ。2月のアウェイ戦では1-1で引き分けているが、「前回対戦時とはシステムが変わっていて、攻撃もパワーアップした印象。攻撃のタレントも多いし、守りも非常に強い。難しい相手なのは間違いない」と長谷川監督も強い警戒心を募らせている。

 FC東京としては総力を結集してぶつかっていくしかないが、キャプテン・東はまず強固な一体感を構築することが肝要だ。そのうえで、彼自身が得点に絡む仕事を数多く見せられれば、勝ち点3に大きく近づくはずだ。

 2012年と16年のベスト16止まりという過去を乗り越え、FC東京は悲願のアジアタイトルに辿り着けるのか……。キーマンである東慶悟にはエースナンバー10に相応しい“違い”を存分に発揮してほしいものである。

文=元川悦子


By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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