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【インタビュー】Jリーグ入場者数増の裏側にある「Jリーグ×NTTドコモ」のデジタル戦略 杉本渉さん(株式会社Jリーグデジタル)×石村彰啓さん(株式会社NTTドコモ)

Jリーグのデジタル戦略のキーマン、杉本渉さん(左)と石村彰啓さん(右)

 Jリーグが好調だ。2018年の明治安田生命J1リーグは全体で約583万人の観客を集め、前年比1パーセント増を記録した。リーグ全体では4年連続で入場者数1000万人を突破。スポーツメディアではなかなかニュースにならないが、重要な数字であることは間違いない。Jリーグが全体として「伸びている」ことを示す数字だからだ。

 その理由は一つではない。昨年のロシア・ワールドカップにおける日本代表の健闘も追い風になったはずだし、アンドレス・イニエスタ、フェルナンド・トーレスを筆頭に、世界的なスタープレーヤーがJリーグに参戦したことも大きい。「明治安田生命Jリーグ フライデーナイトJリーグ」(金曜日開催)導入の効果を挙げることもできるだろう。

 しかし日常的にJリーグを観戦しているファンなら、この数年の間に起きた変化に気づいているはずだ。Jリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」がローンチされ、インターネットでチケットを買いやすくなった。会場によってはスマホ一つで入場ができるようになった。スタジアムで快適にWi-Fiが使えるようになった。つまり、デジタル化が一気に進み、Jリーグ観戦における利便性が増した。

 これらの背景には、Jリーグと「トップパートナー契約」および「オフィシャルテクノロジーパートナー契約」を結ぶNTTドコモとの、デジタル分野の取り組みがある。JリーグとNTTドコモ、お互いの強みを生かしたこのプロジェクトについて、株式会社Jリーグデジタルの杉本渉さん、そして株式会社NTTドコモの石村彰啓さんのお二人にお話を聞いた。

 

株式会社Jリーグデジタル コミュニケーション戦略部 部長
杉本 渉(すぎもと・しょう)さん
法政大学国際文化学部卒。東京大学スポーツマネジメントスクール修了。大学3年時より「スポーツナビ」(現ワイズ・スポーツ株式会社/ヤフー株式会社子会社)で働き出し、2012年取締役、2014年から代表取締役就任。2016年に退任し公益社団法人日本プロサッカーリーグに。グループ再編により株式会社Jリーグデジタルへ。現職ではデジタルマーケティング活動の戦略策定およびプロダクト開発に従事。主に公式サイト、SNSの運用およびJリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」の企画・運営を主務とする。

株式会社NTTドコモ スマートライフ推進部 スポーツ&ライブビジネス推進室 パートナー協創担当部長
石村 彰啓(いしむら・あきひろ)さん
1995年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。法人営業、海外留学、経営企画等での勤務を経て2008年にNTTドコモへ転籍。コンシューマ向けのマーケティングリサーチの統括や、ドコモのオフィシャルサイト「ドコモオンラインショップ」の運営を担当。その後NTT新ビジネス推進室を経て、2017年より現職にて、Jリーグをはじめとするスポーツ・ライブエンタメ業界のビジネスパートナーとの協業によるデジタルマーケティング、スマートアリーナ/スタジアム領域などのビジネス開発に取り組んでいる。

■「JリーグID」で緻密なマーケティングが可能に

──今日はJリーグの“デジタル化”というところをテーマに、株式会社Jリーグデジタルの杉本さん、株式会社NTTドコモの石村さんにお話をお聞きします。JリーグとNTTドコモはパートナー契約を結んでデジタル戦略を進めていますが、まさにこの数年、Jリーグは急激にデジタル化しているな、という印象です。

杉本 そもそもの経緯としては、2015年にチェアマンの村井(満)が「5つの重要戦略」を掲げて、その中の1つに「デジタル技術の活用」というのがあるんですね。それはどういう考え方かというと、私たちはJリーグのピッチの中はいじれない。でも、ピッチで行われていることをより魅力的に伝えることはできる。それをデジタル技術を利用して進めていく、ということなんです。それで2016年から、まずはお客さまのデータをひとつの箱に入れていきましょう、ということを始めました。

──ひとつの箱に入れる。つまり、バラバラだったデータを「JリーグID」に統一したわけですよね。それによって何が変わったんですか。

杉本 チケットを買うとか、スタジアムでWi-Fiにつなぐとか、様々なサービスをすべて「JリーグID」で使えるようにしたわけです。それはお客さまにとってのメリットですが、反対側から見ると、お客さまのデータが一つのIDですべてチェックできて、ファンのみなさんとのコミュニケーションが取りやすくなる。そのコミュニケーションを取るときの接点として「Club J.LEAGUE」のアプリが作られました。イメージとしてはこういった感じ(下図)です。いろんなサービスから様々なデータが取れるんですが、それがすべてJリーグIDを通してデータベースに格納されます。各クラブが運営しているスクールのデータとか、いろいろなデータを統一して、統計・分析できる状態にしているわけですね。

──つまり「Club J.LEAGUE」のアプリは、「Jリーグ本体が情報発信する」という目的ではないんですね。むしろファンの声や行動を拾うためというか。

杉本 そうですね。あくまで、目標はファンのスタジアム体験をより向上させて、お客さまを増やすことです。例えば、スタジアムに来たファンの方にアンケートを取ると、だいたい7割が「友達や家族に誘われたから来た」と答えるんですね。

──確かに、コア層でないと、なかなか一人では観戦に行きにくいでしょうね。

杉本 なので、よくスタジアムに来てくれる方々にアプリを使っていただいて、その人たちに友達や家族を誘ってもらう、そのきっかけを与えられないかと考えたんです。「誘い・誘われ」というのを起こしたいなと。それで何をしたかというと、「ラーメン屋さんのスタンプ」をやりました(笑)。10回ラーメン食べると1杯無料になりますよ、というのと同じ形で、スタジアム観戦に行くとミッションがあって、クリアするとメダルが貯まるんですね。たとえばSNSでシェアするとか、応援するクラブが3勝するとか、異なるスタジアムに3つ行くとか。メダルが3枚貯まると「明治安田生命Jリーグチャレンジ」に挑戦できて、これに当たると招待券が必ず2枚セットでプレゼントされるんです。

──「必ず2枚セット」なんですね。

杉本 そうです。2枚のうち、1枚は必ず新規のJリーグID、あるいはJリーグID上で来場した記録がない方にしか渡せないようになっています。そこにIDをかませることによって、必ず新規のファンにチケットが渡るようにしているんです。

──これまでは招待券をバラまくと、結局はコアファンの間で流通するという問題がありました。これがJリーグIDで解決するわけですか。

杉本 そうです。IDがあるので、招待券で来場したファンがそのあと自分でチケットを買って観戦に来てくれたかどうか、ということも数字として追えます。もう1万人くらいの方がこのチケットで来場しているんですよ。さらに、誘った人は男性の比率が高く、誘われた人は女性の比率が高いことも分かっています。一概には言えませんが、「チケットが2枚あるから週末にサッカー行こうよ」と、デートかどうかはわからないですけど、男性が女性を誘うということが行われてるんじゃないかなと。

──つまり顧客データを取れて、効果的な施策を打てる。「Club J.LEAGUE」のアプリ自体が、マーケティングの中心軸として使える設計になっていると。

杉本 もっと言えば、Jリーグのパートナー企業さまのマーケティング課題を解決する目的にも使えます。先ほどの取り組み自体を明治安田生命さんに共感いただいてサポートしていただいていますが、さらにMYライフプランアドバイザーの方がメダルを付与するコードを持っていらっしゃるので、Jリーグを顧客接点として活用いただいたり、イオンさんの場合は、イオングループの店舗に行くことでメダルが貯まる「イオングループチェックイン」をやってまして、月間数万人規模でチェックインされています。NTTドコモさんとも、Jリーグ25周年の企画として250万円相当のdポイントが当たるキャンペーンを行いました。そうしたら、dアカウントを使ってJリーグIDにログインすることができるんですけど、その数がすごく増えて、dポイントでJリーグチケットを買う人の比率もすごく高まった。そうしたファンの動きが見えるようになってきました。Jリーグとしてはパートナー企業さまの力をお借りしながら、Jリーグをより楽しんでいただける形を作っていきたいと思っています。

■NTTドコモの協力で潜在的な顧客を掘り起こす

──なるほど。ここでNTTドコモさんの登場になるわけですね。石村さん、NTTドコモとしてはJリーグとの協業の狙いはどの辺にあるんでしょうか?

石村 私の担当は「パートナー協創」という名前なのですが、これは当社とパートナーがビジネスを「ともに創る」という意味なんですね。これまでは、「NTTドコモの契約者にドコモのサービスを提供する」ビジネスモデルだったところを、NTTドコモのポイントや決済や、顧客のマーケティングデータなどを使って両者のビジネスを広げていく取り組みです。パートナーの商品やサービスを、ドコモのポイントを使ってご利用していただく。それによってNTTドコモのお客さまのベースも広がるということです。

──そのパートナーとして、Jリーグはぴったりだと?

石村 スポーツ業界はまさに、「協創」に最も向いているパートナーの一つだと考えています。これからも伸びる領域ですし、お客さまの熱量もすごく高い。今申し上げたマーケティングの文脈だけではなくて、映像データや5Gといった技術を使って、観戦体験をより豊かにする。そういう分野でもスポーツ業界に貢献できるんじゃないかという思いもあります。ともにスポーツ業界の市場を成長させていこうということですね。

──お互いに強みを生かせるパートナーという。デジタルマーケティングの分野で言えば、NTTドコモには膨大な顧客データと、ノウハウがあると思います。

石村 そうですね。私たちが2017年7月にパートナー契約を結んだ当初から、お役に立てると考えていたのがデジタルマーケティングでの顧客獲得です。これはJリーグさまだけではなくて、スポーツ業界全般に関わる話だと思います。お客さまがなかなか見えにくい。チケットを買った人、実際にスタジアムに来る人、その人たちは何回目の観戦なのか、どういう目的で観戦に来たのか。そういったところがほとんど見えていなかったので、その可視化をまず行おうと考えました。

──まさに杉本さんが取り組んでいることですね。

石村 そうです。Jリーグと連携しながら、NTTドコモのメディアを使って協力するということですね。実例を挙げますと、Jリーグは「スタジアム観戦者調査」というのを15年くらい行っておられるんですが、その結果を見ると、スタジアム来場者の観戦回数は年平均11.6回というデータが出ています。ところが、NTTドコモのデータで位置情報をベースにアンケートを取ってみると、全く違う数字が出たんですね(下図)。

──ああ、スマホだから位置情報が取れる。「試合時間に、実際にスタジアムにいた人たち」のデータが分かるわけですか。

石村 そうです。スタジアムに来た人をサンプルにして、その人たちに「あなたは年に何回観戦に行っていますか」と後から聞いています。一方でJリーグの観戦者調査は、キックオフの2時間前くらいから人手でアンケートを取っています。2時間前にスタジアムに来られる方は、コアファンが多いですよね。するとサンプルがコア層に偏りがちになってしまう。

──実は、スタジアムにはライトファンがもっといるのではないかという……。

石村 Jリーグはコアファンばかりではない、ということが見えてきたんです。そうすると、ライトなファンに対して、もっとスタジアムに来ていただく取り組みが有効だと考えられますよね。とくにNTTドコモの顧客基盤はベースが広いので、そこでお客さんを増やすためにお役に立てることがたくさんあるんじゃないかと。利用許諾をいただいていることが前提ですがJリーグのユーザーとNTTドコモのユーザーはある程度のヒモづけができます。すると、Jリーグのサイトに訪れるNTTドコモユーザーはどういう人たちなのかを可視化することができるので、ターゲットの方々に向かってJリーグのチケットを訴求する。さらに、NTTドコモの決済手段を使って購入すれば、ポイントがたくさんつきますよ、というキャンペーンも打てる。そういった取り組みを行うなかで、Jリーグチケットの売上アップという成果も出ています。(下図)。

──これは明快なデータですね。でもよく考えると、「Jリーグを見に行けばdポイントがたまる」というのは、ユーザーにとっては得しかないですもんね。

石村 数字を見ると購入母数も上がっていますし、ドコモの決済手段である「d払い」を選択したユーザーの比率も、絶対額も合わせて上がっています。とくにキャンペーン的な施策を行った黄色の棒のところは増えていて、1回目、2回目、3回目と、やるたびに数字が増えている。その点は手ごたえを感じています。それから、「Club J.LEAGUE」アプリというものが、私たちにとっても非常に魅力的なんですね。ファンのアクティブ率が高くて、ボリュームもある。しかも伸びている。メニューも杉本さんたちの努力によって充実してきている。なので、今後はこのアプリの中でdポイントをもっと露出して、ポイントが当たるような仕組みを使って、当たったポイントでまたJリーグのチケットを買っていただくと。それをさらに、NTTドコモのサービスの利用にもつなげていきたいですね。

■5Gが可能にする新しいサッカー観戦体験

──最後に、今後の展開についてもお聞きします。どんなプロジェクトを予定されているんでしょうか?

石村 これはすでに3月にトライアルで実施したサービスですが、「docomo Sports VR powered by DAZN」というアプリをダウンロードいただくと、VRで試合を見ることができます。アングルもマルチで見られて、スタッツもリアルタイムに近い形で見られる。テクノロジーを活用してスポーツ観戦の新たな楽しみ方を広げる取り組みです。それから5Gですね。今年の9月に、まず5G商用サービス提供に向けた5Gビジネスの実証という位置付けで、5Gプレサービスを開始します。そこからサッカーの観戦体験を変えていこうと考えています。

──「5G」というのは世間的にも話題になっていますが、そんなにすごいんですか?

石村 ちょっとテクニカルな言葉ですが、高速大容量、かつ遅延が少ないんですね。さらに、今までとケタが違うくらいのたくさんの人がアクセスしても、ネットワークがつながりにくい状態にならない。これを使うと、たとえば今までにないような容量の映像データがやり取りできるんです。パブリックビューイングでも、今までよりも巨大なスクリーンで、試合会場とあまり変わらないくらいの臨場感で映像を見ることができますし、先ほどお話ししたVRのようなサービスも本格化してくるんじゃないかと思います(下図)。

──5Gによって通信容量が上がって、それによって新しいサービスがまたできる可能性が出てきた。スタジアムに3万人いても全員がアクセスできるわけですもんね。

石村 大勢のファンが自分で動画を撮影してシェアするようなことが、ますます増えてくるんじゃないかと思います。スタジアムの中で何かイベントがあったときに動画を撮る、それを万単位くらいの人がネットワークに上げると。4Gの時代ではなかなかできなかったことが、当たり前に出来るようなネットワーク環境になっていくと思います。ただ、私たちがテクノロジー先行で考えると、どうしても本当にユーザーのニーズに合っているのか、サッカーをおもしろく見せられているのか、という知恵が足りない部分はあるんですね。なので、Jリーグと一緒に、いろいろなお話をしていくことによって、ファンの期待に沿える、あるいは上回るようなサービスができるんじゃないかと思っています。

インタビュー・文=坂本 聡(SOCCER KING編集長)
写真=兼子愼一郎

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