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練習、食生活、体との向き合い方。ジュニア年代に稀有な濃密な時間……3年目の進化が顕著なフジビレッジカップ ガールズチャレンジ2018/初日

3年連続3回目のフジビレッジカップ

 2018年12月16日(土)、17日(日)、U-12年代の女子を対象にしたサッカーキャンプと8人制サッカー大会「フジビレッジカップ ガールズチャレンジ2018」が山梨県鳴沢村の富士緑の休暇村で開催された。

 2016年10月の初開催から3年連続3回目を迎えたフジビレッジカップ。富士北麓のこの場所を女子サッカーの聖地にする──富士観光開発株式会社が決意を持って立ち上げたプロジェクトが受け継がれてきた。

 女子サッカーを取り巻く環境が刻一刻と変化する中で、変わらないのは同社の思い。それどころか11月には、「競技でも一流、社会でも一流」という強烈なコンセプトを掲げる女子クラブ「FCふじざくら」を発足。2025年になでしこリーグ1部参入、2024年にオリンピック日本女子代表選手を輩出することと同時に、社会人としても“トッププレーヤー”を目指すという「プレイングワーカー」を明確に示すことで、女子サッカーや他の多くのスポーツのロールモデルとなるクラブを組織して、大きな話題を集めた。

 だからフジビレッジカップも年々、進化を遂げている。過去2年間は2日間に渡る大会をメインにしながら、1年目は山梨学院大学女子サッカー部の田代久美子監督によるクリニック、2年目は元なでしこジャパンの永里優季によるスペシャルクリニックが企画されるなど、貴重な経験を得られる機会が用意された。3年目は、そうした“学び”の要素がグレードアップ。1日目は大会ではなく、なでしこ2部を戦う静岡産業大学磐田ボニータの監督、選手によるクリニックと、スポーツ栄養士による食育プログラム、フィジカルトレーナーによる座学とコーディネーショントレーニングを行うサッカーキャンプが企画された。

 参加したのは、山梨県、東京都、埼玉県のクラブや個人の約20名の小学生。普段、なかなか味わえないサッカーキャンプに触れた彼女たちは、1日足らずで、見違える変化を見せた──。

技術以上に、仲間の気持ちをより深く知るトレーニング

 寒さが深まる富士の麓の朝、選手たちは期待と不安の表情を見せながら、会場の人工芝グラウンドに整列していた。MCを務めたのは、自身も高校時代に十文字高校で選手権で3位に輝いた実績を持つタレント、横山愛子さん。彼女がゲストの磐田ボニータの選手を呼び込んだあたりから、場の空気が変わり始めた。

 クリニックのテーマは「ポジション別トレーニング」。村松大介監督(現クラブCOO兼コーチ)、GK・高橋美春、DF・塩澤優、MF・石田梨紗、FW・河原崎希が、順番にスキルを伝えていく形でスタートした。ウォーミングアップを終えた選手たちは、最初にGKに挑戦。普段GKではない選手が多いこともあり、キャッチングやスローイングはぎこちなさが目立ったが、選手にとっては特に貴重な経験となったようだ。

「しっかりと相手の目を見て、支えてあげよう」「サッカーを好きな気持ちを大切にしよう」

 村松監督や、磐田ボニータの選手が伝えたメッセージは、技術以上にそうした“気持ち”のこと。いつもとは異なるポジションを経験することで、相手の気持ちをより深く知るようになり、新たに獲得したスキルは、サッカーをもっと好きになるきっかけとなる。GK練習、パス練習、DF練習、シュート練習と続いたその後のトレーニングも、技術を学びながら仲間とのコミュニケーションを密にする姿が印象的だった。

選手自身がリアルに体感する食事や生活習慣の大切さ

 トレーニングの後は、グラウンドから富士緑の休暇村の食堂に移動して昼食タイム。4つに分かれたテーブルには、午前中ですっかり打ち解けた磐田ボニータの選手をそれぞれが迎えて、和気あいあいと食事を楽しんでいく。ただ実は、この日のために用意された特別なメニューに秘密があった。

「サッカーが上手くなるためには“ボール以外”のことがとても大切です」

 そう語るのは、献立を考えたスポーツ栄養士の月野和美砂さん。食事が進んだ頃合いで、サッカー上手くなるための食事と生活について話し始めた。この年代ではなかなか触れられない食育の時間だ。

 月野和さんは、山梨県内で青少年研修センター「シーガルクラブ」という合宿所を営みながら、その他のあらゆる活動を通して、スポーツ栄養セミナーや、ジュニア年代の選手、保護者への栄養教育を行っている。ごはんやパン、麺などの主食、肉や魚、卵、豆腐などの主菜、野菜やイモ、きのこ、海藻などの副菜、それらで補い切れないものを具材に加えた副菜(汁物)、疲労回復に欠かせないビタミンCや糖分を含む果物、骨を伸ばすために必須の牛乳や乳製品のバランスが大事だということを、選手に伝えていった。

 成長期の子供は、日頃から何を摂取しているかが、体格や姿勢、運動能力、学力などに影響を及ぼすため、食生活の習慣を考えないといけない。月野和さんが「平日の夕方など、練習前後はお菓子ではなく、おにぎりやアンパン、バナナなど、エネルギーになるものや疲労を取る“捕食”にしましょう」と話した意図はここにある。そうした習慣が中学生、高校生へと続く選手の成長の鍵を握っているということだった。

 テーブルを見渡すと、早くも完食している選手がいる一方で、なかなか箸が進まない選手もいる。それでも、「みんなの年代で運動後であれば、これくらいの量を食べられるといいですね」と月野和さんが促すと、苦手なメニューに立ち止まっていた選手も、仲間に見守られながら完食してみせた。

 食育とは、真っ先に保護者が学ぶべきことであると同時に、こうした実体験を伴う経験をする中で、子供たち自身が、日々の食事や生活習慣の大切さをリアルに学んだ経験も大きいに違いない。

サッカー以外の運動で自分の体と向き合うこと

 続いて選手たちは体育館に移動して、体を動かしながら知識を深める座学に臨んだ。この時間のテーマは「自分の体との向き合い方」。なでしこリーグのクラブや大学女子サッカー部などでトレーナーを務める西端優輝さんと、自身もプレーヤーでありながらトレーナーとして女子サッカーに携わる和田有稀奈さんが講師として登場して、選手たちにストレッチやコーディネーショントレーニングを伝えていった。

 西端さんが伝えたのは「静的ストレッチ」。一般的に用いられる「動的ストレッチ」と対になるこのストレッチは、何気なく使われていることも多いが、その意図や効果を知らないケースも多い。

「目的は、ケガをしないためにするもの。パフォーマンスを上げるためにするものです」

 西端さんが明快に説明した通り、運動前に行うことで「体を動かすスイッチ」を入れて、運動後に行うことで「体を休めるスイッチ」を入れるのだという。筋肉をしっかりと伸ばし、関節を可動させるためのポジションや呼吸を伝えると、選手たちは早速、実践していく。「痛い、痛い……でも気持ちいい」。そんな声がいくつも聞こえてくる。「子供=柔軟」ということはなく、むしろ体が硬い選手も多い。しっかりと筋肉を伸ばすことでケガを予防しつつ、自分の思い通りに体を動かせることでパフォーマンスが上がるということ。選手たちはここでもまた、リアルな実感を伴う学びを得たようだった。

 和田さんが伝えたのは、遊びの要素が詰まったコーディネーショントレーニング。あらゆる動きを取り入れながら、判断力や実行力を要するゲームは、選手によって明らかな違いが見えた。しっかりと状況を認知して、それを脳に伝え、どう動くべきかを体に伝える。一連の作業をスムーズにできる選手と、認知が遅れ、さらに脳と体の連結がうまくいかない選手。それがサッカーのピッチでも大きな違いとなるのは明らかだろう。

 コーディネーションは「運動神経」とも訳されるが、あらゆる体の動かし方を知っていることが、スポーツにおいて有利に働くのは周知の事実だ。現代はどちらかといえば、幼少期から専門性の高い技術を習得して一つの競技に特化していくケースが多い一方で、小さいうちは日々の遊びの中で体の動かし方、使い方を学び、サッカーだけではなく、野球やテニス、バスケ、バレー、水泳、柔道、卓球……あらゆるスポーツを経験することで運動能力が高まり、その後、一つの競技でも高いスキルを生み出すというケースがある。

 むしろ、今ほどトレーニングメソッドや科学的なアプローチが発達していなかった時代の選手たちは、小さい頃から何気ない遊びを通じて運動を覚え、トップアスリートへ成長していくことが普通だったのだ。

 サッカーで別のポジションのことを学び、食生活を学び、体のことを学ぶ。すべてを一度に覚えるのは簡単ではないが、少なくとも参加した子供たちは大きな手応えを手にしたに違いない。

 サッカーキャンプは最後、グラウンドに戻って、高学年チームと低学年チームのそれぞれが磐田ボニータとガチンコ対決。それが終わると、子供たちが磐田ボニータの選手の前に長蛇の列を作って大サイン会。

 未来のなでしこリーガーがここから生まれるに違いない。もはや確信のようにそう思わせる光景が広がっていた。こうして、笑顔と真剣な眼差しが入り交じる濃密なフジビレッジカップ1日目が、幕を閉じた。

取材・写真・文=本田好伸

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