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【スペシャル対談再録】“英雄”の邂逅 中田英寿×アレッサンドロ・デル・ピエロ

2018.09.13

CALCIO 2002 2004年8月号掲載

1998年9月、中田英寿とデル・ピエロは、中田のセリエAデビュー戦で相まみえた。両者はその後、ピッチで何度もぶつかり、ピッチ外ではすべてを語り合う仲となった。そして2004年7月、メディアによる“ヒデとアレ”のビッグネーム対談がミラノの地で初めて実現した。今なお“英雄”として語られる2人が素顔のままで語り合った、貴重な邂逅の一端を再び紹介しよう。

インタビュー=『CALCIO2002』編集部
写真=兼子愼一郎、ゲッティ イメージズ

■「たとえ敵でもアレのような選手とプレーできるのは楽しいね」中田


――この前2人で会ったのはいつだい?
中田英寿――トリノで会った時?
デル・ピエロ――いや、最後に会ったのはピッチ上だよ。ボローニャでの試合の時だったかな。
中田英寿――ああ、そうだね。それを除けば、トリノで会ったのが最後か。
デル・ピエロ――2人でワインを飲んだ時だね。
中田英寿――そうそう。
デル・ピエロ――あれは2年前かな?
中田英寿――違うよ。あれは……クリスマスだよ。
デル・ピエロ――そうだ、クリスマスだったね。
中田英寿――それで、その後にボローニャのピッチ上で会ったんだよね。
デル・ピエロ――試合でね。
中田英寿――そう、アレがファウルじゃなかったのに大げさに倒れてさ。

――あれはファウルだったように見えたけど?
中田英寿――いやいや、あれはファウルじゃなかった。
デル・ピエロ――ヒデは“殺し屋”だからね(笑)。
中田英寿――本当のことを言いなって。その後、しっかりゴールも決めたくせに(笑)。
デル・ピエロ――あの時の傷跡はまだ残ってるよ。良かったら見せようか? 本当にまだスパイクのポイントの跡が残ってるから。
中田英寿――結局、僕らはあのゴールで負けた。なんだか、僕のファウルのせいみたいになっちゃって……覚えてるだろう?

――あの試合では股抜きもやられてたよね。
中田英寿――そうだった。ただ、あれは股抜きを仕掛けてくるのは分かってたんだけどな……。
デル・ピエロ――そうそう、待ってたよね。
中田英寿――でも、足が閉じなかったんだよ(笑)。
デル・ピエロ――ある、ある、閉じたいのに閉じない時が。
中田英寿――アレは本当に股抜き好きだよね。ほとんどの試合でやってるんじゃない?
デル・ピエロ――だって楽しいだろう? まあ、あれしかできないってのもあるし。
中田英寿――そして決まって、振り返って、ニヤッと笑って去っていく(笑)。
デル・ピエロ――ヒデの股を抜いた時には振り向かなかったはずだけど(笑)。
中田英寿――そんなことないって。いつも振り返ってるよ(笑)。ただ、たとえ敵であっても、アレのような選手とプレーできるのは楽しいね。もちろん、頭に来ることもあるけど。

■「監督と意見が合わない時期があったっていい」デル・ピエロ


中田英寿――そう言えば、パルマは(チェーザレ)プランデッリが次のユーヴェの監督候補に挙げられてるね(※この対談後、ユヴェントスの新監督にはローマを指揮してきたカペッロ監督が就任。プランデッリはその後任として、ローマを率いることになった)。
デル・ピエロ――確かにね。僕らの間でもそんな話が出ているよ。他にもいろんな候補の名が挙げられている。(ディディエ)デシャンとか、(ルイジ)デル・ネーリとか。
中田英寿――つまり、まだ分からないと。
デル・ピエロ――僕は、フロント陣はもう誰かに決めていると思う。ただ、まだ本決まりじゃない。
中田英寿――アレはプランデッリのことをどう思う?
デル・ピエロ――正直言って、分からないよ。ユーヴェのプリマヴェーラ時代に彼のもとでプレーした親友の(アレッシオ)タッキナルディは「いい監督だった」と言うけど、10年という歳月は人を変えるからね。それに、プリマヴェーラとトップチームを指揮するのとでは全く違う。
中田英寿――なるほどね。
デル・ピエロ――ヒデは彼についてどう思ってる? まあ、今さら聞いてもしょうがないけど……。
中田英寿――確かに、彼とすごくいい関係を築けていたとは言えない。ただ、彼はパルマでの2年間、本当にいい仕事をしたと思うよ。
デル・ピエロ――確かに、いい仕事をしたね。
中田英寿――昨シーズンもそうだったし、今シーズンもしっかりと結果を出した。
デル・ピエロ――もちろん、監督と意見が合わない時期があったっていい。ただ、最低限の礼儀は必要だよ。敬意を払うことを忘れちゃいけない。
中田英寿――でも、もしほとんどやったことのないようなポジションを強要されたらどうだい? ユーヴェとは事情が違うだろうけど。
デル・ピエロ――もちろん、それは楽じゃないだろうね。
中田英寿――ポジションが前や後ろ、右や左になったり。やっばり、楽じゃないよ。
デル・ピエロ――それは、誰にとってもそうだと思う。なじんだポジションのほうが、より自分の力を発揮できるのは当然さ。やっばり「これが自分のポジションだ」と感じてプレーできるからね。分かるよ、僕にもそういった経験があったから。
中田英寿――アレが最も好きなポジションはどこ?
デル・ピエロ――うーん……問題は、僕自身、それが分からなくなってることなんだ(笑)。
中田英寿――(爆笑)。実は僕もまだよく分かってないんだ。セカンドアタッカー、右サイド、左サイド……いったい、どこがいいんだろう?
デル・ピエロ――僕は……やっばりセカンドアタッカーなんだろうな。あくまで自分自身の考えだけど。
中田英寿――セカンドアタッカーってトップ下という意味? あくまでFWの一人ってこと?
デル・ピエロ――センターフォワードがいて、その周辺で動くという感じかな。それから、僕以外にも何人か2列目の選手がいるのがいいね。それで、その数人が攻撃的な動きをするのが理想だよ。
中田英寿――ただアレは左寄りでのプレーが多いね。
デル・ピエロ――今シーズン、僕らは(ダヴィド)トレゼゲを1トップに置き、その背後に3人のアタッカーを配置するという陣形だった。背後の3人というのは、僕と(パベル)ネドヴェドと(マウロ)カモラネージのことさ。
中田英寿――パルマと同じ陣形だね。
デル・ピエロ――それで、僕とネドヴェドはたまにポジションを入れ替える。ただし基本は彼がセンターで僕が左サイドという感じだね。でも、あくまで今シーズンの話。シーズンを通してセカンドアタッカーとしてプレーしたこともあったよ。

■「最初の試合がすべてを変えた。ユーヴェには感謝しないと」中田


中田英寿――ところで、今でもユーヴェは、(スタディオ)コムナーレで練習してるの?
デル・ピエロ――いや、今は変わったんだ。1年半前から、「チェントロ・シー・スポルト」が僕らの練習場になっている。「FIAT」の巨大な施設で、プールなんかもあるんだ。
中田英寿――スタディオ・コムナーレには、ピッチが1面しかなかったよね?
デル・ピエロ――コムナーレは今は誰も使用していない。2006年のトリノ冬季オリンピックに向けて改装工事中なんだ。あそこも会場の一つになるからね。今、ユーヴェは新しい練習施設を作る計画を立てていて、使用可能になるのは……。
中田英寿――数年後?
デル・ピエロ――1年半か2年後だろうね。その施設ができればすごく快適になる。ジム、更衣室、マッサージ室、グラウンドが1カ所に集中しているから。
中田英寿――僕の記憶ではコムナーレにはピッチが1面しかなかったから、毎日練習するにはどうなのかなと思って。
デル・ピエロ――ただ、コムナーレのピッチは最高だったよ。あそこ以上のピッチ状態の練習場にお目にかかったことはないね。
中田英寿――でも毎日はきつかったんじゃない?
デル・ピエロ――いや、毎日でも大丈夫だった。もちろん3、4日、雨が降り続いたりした時には、さすがに他の練習場に行ったこともあったけど、基本的にピッチは最高だったよ、グラウンドに適した条件が揃っているんだろうな。
中田英寿――18歳の頃、ユーヴェにサッカー留学に来た時は、別の練習場で練習したよ。
デル・ピエロ――コンビ練習場のことだろう?
中田英寿――あそこはひどかった。
デル・ピエロ――確かに。あそこはひどいよね。

――練習中、アレの姿を見た?
中田英寿――見たよ。ただ練習には参加させてもらえなかった。あの時は、まだ難しかったんだ。
デル・ピエロ――僕もトップチームの練習に参加させてもらっていたけど、18歳、19歳の時には、すべての試合に出してもらっていたわけじゃない。あの年はセリエAで11試合に出場したけど、それ以外はずっとプリマヴェーラだったんだ。
中田英寿――今でも覚えているんだけど、あの時、最初に観たセリエAの試合、ユーヴェ対フィオレンティーナでアレがアウトサイドでゴールを決めたんだ。その試合の後、僕はこう言った。「僕にもあれくらいできるよ!」ってね(笑)。かっこいいゴールだったよね。
デル・ピエロ――あれは、僕にとっても一番……。
中田英寿――美しいゴールだよね、きっと。
デル・ピエロ――美しいだけじゃなく、試合の状況とかそういうものを含めていいゴールだった。重要な試合での意味のあるゴールだったからね。
中田英寿――重要なゴールだったと?
デル・ピエロ――そう、重要だった。0-2で負けていた時のゴールだったしね。それに、ああいうゴールは滅多に決められるもんじゃない。もう二度と決められないと言ってもいいかもしれない。
中田英寿――でも、今でもヒールでのシュートとかを時々、見せているよね。
デル・ピエロ――結構、見破られてるよ。ヒデだって、僕らを相手によくゴールを決めるじゃないか。
中田英寿――ユーヴェとは、なぜか相性がいいんだ。ユーヴェに感謝しなくちゃいけないね(笑)。
デル・ピエロ――ジェノアに来たミウラ(三浦知良)は、いい結果が出せなかった。レッジーナのナカムラ(中村俊輔)も、プレーできなくて苦しんでいる。
中田英寿――いや、最初のユーヴェとの試合がすべてを変えたんだ。サマーキャンプの時には、それほどうまくはいってなかったんだよ。ところが、あのデビュー戦の2ゴールの後から、周囲の態度も含めてすべてが変わったんだ。だから、ユーヴェには感謝しないといけない(笑)。

■「僕に決定権があるなら、ヒデをユーヴェに呼ぶ」デル・ピエロ


――改めて今シーズンを振り返ってもらえるかな?
デル・ピエロ――今シーズンはユーヴェにとって、本当にたくさんのことがあった一年だった。
中田英寿――ただ、その前の2シーズン、ユーヴェは連続でスクデットを獲得しているんだよ。
デル・ピエロ――そう、それについては何の不満もない。今シーズンも、イタリア・スーパーカップを獲得していいスタートができた。できれば、最後にコッパ・イタリアを獲って終われたらいいんだけど。そしてまた、新たなシーズンが始まる。その前にユーロ2004もあるしね。
中田英寿――今シーズン、スクデットを獲得したのはミランだった。ただ、意外に見落とされているのは、それが実に5年ぶりの優勝だったこと。
デル・ピエロ――セリエAは本当に難しいリーグだから。
中田英寿――ただユーヴェを見ていると、それが簡単なことに思えてくるんだ。ユーヴェは常に勝利をつかむ。アレは今までに何回、スクデットを獲得しているんだい?
デル・ピエロ――スクデットは5回だね。
中田英寿――すごいね!
デル・ピエロ――ヒデも早くユーヴェに来いよ。そう簡単に物事が進むとは思えないけど、僕に決定権があるなら、ヒデをユーヴェに呼ぶ。ヒデもそのほうがいいだろう?
中田英寿――アレはこれまでにスクデットを5回も獲得している。それから、ヨーロッパスーパーカップ、チャンピオンズリーグでも優勝している。僕が聞きたいのは、ユーロやW杯などの代表でのタイトルを除いて、いったい、他にどんなタイトルが残っているというんだい?
デル・ピエロ――やっばり、代表でのタイトルがほしいね。代表でタイトルが獲れれば最高だ。
中田英寿――それ以外では? どんな目標を持ってる? もちろん、サッカー選手として。
デル・ピエロ――サッカー選手として、これだけ多くのスクデットを獲得した後は、やはり今度はその栄光をヨーロッパカップで繰り返せたらいいと思ってるよ。特に、CLでね。
中田英寿――でも、CLだって、もう優勝してるよね。
デル・ピエロ――そうだけど、CLの魅力は特別なんだ。すごく独特な雰囲気があるし……とにかくもう一度、優勝したい。優勝すれば、インターコンティネンタルカップ(トヨタカップ)、ヨーロッパスーパーカップなど、次々とビッグイベントに参加できるしね。あとはやっぱり、代表でのタイトルだよ。
中田英寿――アレはもう長い間、ずっと一つのチームでプレーしているよね。それについては?
デル・ピエロ――簡単なことじゃないよ。
中田英寿――自分を見失うことはない?
デル・ピエロ――ユーヴェで受ける刺激はすごく多い。多くのファンを持つと同時に、多くのアンチ・ユーヴェも抱えているチームだからね。こうした事実が、僕らへの刺激をより大きなものにするんだよ。もし他のチームに移籍したら……どうなるんだろう? 僕には分からないよ。それは、ヒデのほうが知ってるだろう?
中田英寿――例えば、チームやリーグを変えたいと思うことはない?
デル・ピエロ――興味深いリーグはあるよ。例えば、プレミアリーグやリーガ・エスパニョーラ。もっとも、僕はユーヴェと新しい契約を結んだばかりだから、今はユーヴェのことしか考えていない。ただ、将来は……どうなるかまだ分からない。ヒデはもう4チームを渡り歩いたんだよね。
中田英寿――僕は2年間くらい同じチームにいると、何か新しいことをやりたくなるタイプなんだ。
デル・ピエロ――分かるよ。あと、イタリア人選手と外国人選手の違いもある。イタリア人は、自分が一番最初にプレーしたチームにより愛着を持つ。僕は小さい頃からユヴェンティーノだし。
中田英寿――長い間、一つのチームでプレーするというのは、確かに素晴らしいことだよね。
デル・ピエロ――いろいろなチームでプレーすることもまた素晴らしいよ。もし、いつかチームを変えることになったら、ヒデに電話するよ。そうしたらアドバイスしてくれよ。「どの街が一番良かった」とかさ(笑)。
中田英寿――確かに、僕はそのチームがある街のことも気にかけるほうだからね(笑)。
デル・ピエロ――それじゃあ今シーズンだけど、ヒデは“尻上がり”で終わった年だったんじゃない?
中田英寿――うん。
デル・ピエロ――最初は大変だったけど、最終的にはレギュラーとしてプレーできるようになった。
中田英寿――そうだね、(カルロ)マッツォーネとはうまくいっているからね。パルマではあまりプレー機会を与えてもらえなかったけど、ボローニャではいつも出番が与えられた。プレー内容が良くても悪くてもね。僕ら選手はやっぱり、常にプレーしていないとダメだと思う。
デル・ピエロ――特に、移籍直後の活躍が素晴らしかったよね。ヒデが加入してチームはすぐに連勝した。
中田英寿――セリエA残留ができて、本当に良かったよ。それが僕らの目標だったから。
デル・ピエロ――見事、目標を達成したね。シーズン前半の一時期、本当に降格の危機にあった。
中田英寿――本当だよね。年内(第14節終了時点)に挙げた勝ち点は、11ポイントくらいだったから。シーズンが終わったら僕はどうなるんだろう? ボローニャに残るのか、パルマに戻るのか。今のパルマの状況を考えると……。
デル・ピエロ――デリケートな時期だからね。
中田英寿――まあ、いいや。僕はまずバカンスに行く。アレがユーロ2004でプレーしている間に(笑)。ともあれ、頑張って。幸運を祈ってるよ!
デル・ピエロ――ありがとう。頑張るよ(笑)。

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