2018.02.01

2/11・12開催 『ヨコハマ・フットボール映画祭2018』その注目作品や映画祭の意義

ライターユニット。主な著書に『氷上秘話 フィギュアスケート楽曲・プログラムの知られざる世界』『フットボールde国歌大合唱!』(東邦出版)『プロフットボーラーの家族の肖像』(カンゼン)他、がある。サッカー専門TV、海外サッカー実況中継のリサーチャーとしても活動。

 8回目をむかえる『ヨコハマ・フットボール映画祭』は、今年も世界各国で制作された多くのサッカー映画の中から8本を選び、2月11日(日)-12日(月)の2日間で上映する。サッカーファンや映画ファンにすっかりおなじみになった同映画祭だが、今回は横浜市開港記念会館での開催ということでも話題になっている。この機会に歴史的建造物の中にあるホールにぜひ足を運んでいただきたい。映画祭の実行委員長である福島成人氏に話を伺った。

文=いとうやまね

このストーリーの最末端にいるのが、まさに自分たち自身/『YOU’LL NEVER WALK ALONE』

――今年のフットボール映画祭もたいへん興味深いラインナップです。ドラマあり、ドキュメンタリーあり、コメディありと、片っ端から観る人もいるようですが、まず気になったのが『YOU’LL NEVER WALK ALONE』です。予告の字幕にも出てくる「世界一有名なチャント」ですね。リバプールファンの大合唱が有名ですが、これはドイツ映画なのですね。

福島 ドイツ映画です。監督もナビゲーターも実はドルトムントのファンです。いまやサッカーチャントで有名なYOU’LL NEVER WALK ALONEですが、オリジナルはハンガリーの戯曲なんです。海を越え、時代を経て世界一有名なサッカーソングへと昇華する歴史を追いかけたドキュメンタリーです。

――ハンガリーのオペラ『リリオム』は、アメリカのブロードウェイミュージカル『回転木馬』のさらに前ですよね。

福島 時代的には第2次世界大戦前です。モルナール・フェレンツというユダヤ系のハンガリー人劇作家が書いたストーリーで、ちょっとDV気味な男とその家族の話なんです。ブロードウェイミュージカルはかなり脚色されています。作者はナチスのユダヤ人迫害から逃れてアメリカに渡っているんですが、そこでミュージカル化の話が出たんです。

――それがトニー賞に輝いた『回転木馬』ですね。歴史的な背景は知らない人が多いかもしれません。その後映画になって、劇中歌がヒットし、いよいよスタジアムに轟くことになります。

福島 スタジアムで最初に歌いだしたのは、帰還兵が戦場で歌っていた曲を景気づけに披露したのがルーツだそうです。平和な世の中になると、スタジアムではその時々にヒットしている曲を流すようになりました。YOU’LL NEVER WALK ALONEはそのうちの一曲だったようです。

――作詞はオスカー・ハマースタイン2世で、作曲がリチャード・ロジャース。黄金のユニットですね。ミュージカルでは、お父さんが“かげながら”娘を応援する歌で、鼓舞する感じの歌ではありません。リバプールのチャントのきっかけは、ジェリー&ザ・ペースメイカーズのカバーが1963年にUKチャートの1位になったときです。

福島 はじめバンドメンバーはみんな乗り気ではなく、「ダサいからやめよう」って話だったんです。ところがふたを開けたら当たった。それをリバプールファンが歌い始めたわけです。

――リバプールから発信して、ドルトムントも歌うし、マインツも、フェイエノールトやセルティック、FC東京も歌う。今や世界中ですよね。共通語と言ってもいい。

福島 ただの流行歌という裏側に、有名なNHKのドキュメンタリー番組ですが、『映像の世紀』で見たようなことが実際に起こっているんだなっていうことが伝わってきます。戦争でヨーロッパから逃げてきた人たちが、いっしょに文化もアメリカに持ち込み、その地で花開き、それがまた時を経てヨーロッパに帰っていく。そして、テレビやレコードといったメディアが流通する時代になって世界に拡散した。我々はある種そういった恩恵を受けてサッカー文化をより深く熱烈に楽しんでいるという側面があります。文化史的な、文化人類学的な話になっていて、価値の高い映画です。

この映画は、いいままで8年間映画祭をやってきた中で、最も「自分が求めてきたもの」が詰まっていると感じました。僕自身はプレーヤでもなく、極東のいちサッカーファンです。でもそこにいる。まさに、このストーリーの最末端にいるのが自分かなって。

――ある意味、ファンは最末端ではなく「中心」なのでしょうね。そして、このチャントと心意気を受け取った。

福島 “伝播”していくさまが稲作などと同じで、軽々と国を超えてしまう。一緒に歌うっていうこと自体がいいわけじゃないですか、あの大きな空間で。きっとその向こうに何かが「連携」するんでしょうね。 僕はそう思うんです。

――映画の後半には「ヒルズボロの悲劇」の話も入っています。

福島 そのシーンではもはや、クラブやサッカーチャントを超えて「町の歌」になっている。ヒルズボロの悲劇の訴訟はすごく長く続きました。はじめはフーリガンが仕掛けたということになってたんですけど、裁判が続くにつれて、警備の不備が問題だったということが明らかになってくるんです。その決着がついたときに、日本だと「勝訴」っていう紙を掲げますよね。彼らの場合はクラブマフラーを掲げて裁判所の前でYOU’LL NEVER WALK ALONEを歌う。そのシーンは、わかっていても泣きますよ。

――まさにYOU’LL NEVER WALK ALONE(君たちはひとりじゃない)ですね。

Photo by Getty Images

世界のフットボール映画祭とお国柄

――この映画祭のきっかけは?

福島 『クラシコ』というサッカー映画の上映がきっかけなんです。松本山雅と長野パルセイロというの長野県にある2チームの地域対抗をもとにした映画を、地元以外の東京や横浜でも上映できないだろうか?という相談を受けたところからはじまったんです。どうせならサッカー映画を他にも探して、まとめて映画際にしてしまおうと。そうやってはじまったのが『ヨコハマ・フットボール映画祭』なんです。

――徐々に規模も拡大して、最近では海外のフットボール映画祭にも買い付けに行かれたりしていますよね。逆に日本の映画を出品することもあるとか。海外のフットボール映画祭というのが、こんなにあるのを知りませんでした。

福島 フリップにあるのは一部で、世界各国にあるんです。中でもドイツのフットボール映画祭が一番大きくて、すでに3回参加しています。開催期間の1週間で60~70本ぐらいの新作が公開されるのですが、世界中のサッカードキュメンタリーやドラマなど、各種あります。情報交換も盛んに行われます。

――作品内容にもお国柄が出て面白そうですね。

福島 イタリア人が作るサッカー映画はドラマ的な要素がすごく入っていて面白いです。人間的なおかしみとでもいうのか。コメディとしてちゃんと作りこんでいる。レフェリーを扱った話をフェデリコ・フェリーニ風に撮影したり、ミラノの近代的な雰囲気とローマの土着的な雰囲気をうまく融合させたり。

――今映画祭ではユベントスの映画もあります。イタリア映画は“偏愛的”なところが愛おしいですよね。悪人のキャラも立っている。

福島 『ビアンコネッリ:ユヴェントス・ストーリー』は、生粋のユーべファンの兄弟が監督なんです。錚々たる出演者の中には、選手や監督、会長をはじめとするアニェッリ家の人々のインタビューも出てきます。「カルチョポリはハメられた」と訴えます。そんなことはないんでしょうけど。

福島 英国のサッカー映画は、サポータものが上手いんですよ。『フィーバーピッチ』や『エリックを探して』の伝統でしょうか。

――今映画祭の『Celtic soul』は、アイルランド系カナダ人俳優ジェイ・バルチェルが、自身のルーツであるケルトの血に導かれつつ、憧れのスコットランドはグラスゴーの「セルティックバーク」を目指す、というセルティックファンの映画です。

福島 まさに「聖地巡礼」ですね。

――ロードムービー的なつくりだと、今映画祭では『アフリカ・ユナイテッド』というルワンダ映画があります。これは、焼けるような大地や乾いた空気、風までもが伝わってくる感じですよね。

福島 ある時、ふたりの少年とひとりの少女がルワンダから南アフリカまでの5000キロの旅に出る。その目的は、W杯のエキシビションマッチに出るため。行く先々で友達が出来たり、危険な目に合ったりと、現在のアフリカが抱える問題も、素晴らしい自然と、子供の純な心。時に小賢しかったりもして、あたたかい気持ちになれます。

プロデューサ曰く、「ルワンダというと思い浮かべるのが虐殺だったりする。イメージが非常に悪い。あの陰惨でいたましい事実は決して忘れてはならないけれど、それと同時に自分たちはもっとポジティブなところも発信していかなければならない」と。 それでこの映画を考えたようです。サッカー版の「スタンドバイミー」ですね。

サッカー映画をサッカーを楽しむための、また相互理解や文化交流の「ひとつのツール」にしたい

――日本のサッカー映画も海外の映画祭に出品したということですが?

福島 佐藤快磨監督の『ガンバレとかうるせぇ』をドイツの映画祭に持って行って、その後ベルギーでも上映されました。高校サッカーの話で、主人公は女子マネージャー。まったくわからない部分もあったと思いますが、それはお互いにそうで、あえて違いを楽しむという。上映終了後に質問を受けるのですが、手を挙げた人が、「何でこの人はこんなにミゼラブルな状態になっているのか?ミゼラブルな状況なのになんでサッカーを続けているのか?」と聞かれました。

――同じことを子供のサッカー大会で外国人記者に聞かれたことがありますね。子供の試合で泣いてるってことがあまりないらしくて、「どうしてそんなにも子供に責任を負わせるんだ」と。いや、違うと思うと。

福島 部活のサッカー自体をまず説明しなければならない。キャプテンに部員がついて来ない状況も理解できないみたいで、マネージャーという役割も海外と日本ではまるで違う。

――女子マネは日本固有の文化ですよね。映画を見て異文化と遭遇したわけです。

福島 まさにそこなんですが、文化的背景や他国への興味を広げることで、よりサッカー自体を楽しめると考えているんです。最近は情報のスピードが速くなった分、感動自体も“あっさり”している。ワールドカップなどの大会にしても、直前になって一斉に情報が出て、負けたとたんにサッとなくなってしまう。かつてサッカー雑誌が担っていた文化欄やカルチャー欄などの充実したコラムの多くが、データや結果、試合の分析のみに置き換わっています。ちょっともったいない気がしてるんです。

――もう少し“濃い味”の部分を提案していきたい、ということですね。

福島 たとえば、ロシアW杯だったら、ポーランドやセネガル、コロンビアのことだけで何倍でも飯食える気がするんですよ。ACLについてもそうです。せっかくチームやサポーターがアジアの端まで出かけていくわけですから、それを機に日本で観戦するサポーターもその国の周辺やサッカー文化を知る機会にできないかなと。『ヨコハマ・フットボール映画祭』では、そんなサッカーを媒介にした「国」そのものにも注目してもらいたいんです。

――イングランド、ハンガリー、ドイツ、ルワンダ、イタリア、イスラエル、日本…、『ヨコハマ・フットボール映画祭2018』にもさまざまな“サッカー文化”が出てきます。そんな違いや、逆に共通するところ、共感するものを見つけて楽しんでほしいですよね。

福島 サッカーを楽しむための、また相互理解や文化交流の「ひとつのツール」にしていただければと思います。同時に、日本やアジアのサッカー映画やサッカー文化も、どんどん世界に発信していければと思っています。

――楽しみにしています。

◆LINE UP
2月11日(日)
『ビアンコネッリ:ユヴェントス・ストーリー』
『ベイタル・エルサレムFCの排斥主義』
『You’ll never walk alone』
2月12日(月)
『アフリカ・ユナイテッド』
『WHO I AM ライリー・バット』
『WHO I AM ベアトリーチェ・ヴィオ』
『セルティック ソウル』
『ジョホールバル1997 ~20年目の真実』

◆ヨコハマ・フットボール映画祭2018
開催日:2月11日(日)-12日(月)
場所:横浜市開港記念会館
※タイムテーブルやゲストにイベント、チケットの購入方法など諸々の詳細は公式サイトで!

ヨコハマ・フットボール映画祭2018 公式HP

◆福島成人
ヨコハマ・フットボール映画祭実行委員長
yokohama football film festival
1972年和歌山県生まれ。横浜市立大学卒業後、株式会社ギャガ・コミュニケーションズ(現 株式会社ギャガ)に入社。劇場映画の配給宣伝業務に携わる。
その後、株式会社フィールドワークスにて、映画マーケティングデータベースサービス、プロモーション素材配布サービス、映画前売券通販サイトなどを立ち上げる。また2006年より東京国際映画祭の公式サイトの運営を担当している。
2017年、同社と退社し、現在はフリーランスとして活動中。

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