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2年目は“女子サッカーの魂”が響く大会に……台風をはねのける熱戦が繰り広げられたフジビレッジカップ ガールズチャレンジ2017

2017.11.07

永里優季のスペシャルクリニックも開催

 10月28日(土)、29日の2日間、ジュニア年代の女子を対象にした8人制サッカー大会「フジビレッジカップ ガールズチャレンジ2017」が富士緑の休暇村で開催された。

 この場所を女子サッカーの聖地にしたい――。

 そんな思いをもって、富士観光開発株式会社が今大会を初開催したのが2016年10月。あれから1年、今年もまた、富士の麓(ふもと)に多くの選手たちが集まった。台風22号の影響で終日雨模様となり、悠然とたたずむ富士山を拝むことはできず、しかも刻一刻と雨脚が強まる中での過酷な大会。ただそれでも、選手にとって、そんなことは関係ないようだった。

 今、「ジュニア年代のサッカーが盛り上がっている」と断言することはできない。2013年に約32万人の選手登録を記録した4種の競技人口は、昨年度は約29万人にまで落ち込み、女子にいたっては、2013年に初めて3万人を突破してからは下降線を描き続け、昨年度は2万7千人にとどまった。もちろん、サッカー協会が管理している数字がすべてではないが、〝なでしこブーム〟と呼ばれた2011年当時の熱狂はもう、感じられなくなったと言わざるを得ない。

 でも今大会は、そうした数字だけでは分からない、実際に現場にある〝熱〟を感じられるものだった。昨年と同様、ホストチームの山梨県女子トレセンU-12や地元の武田消毒ジェイドFCという山梨県屈指の選手たちが存在感を見せながら、東京都や神奈川県、静岡県から参加したチームが、それぞれの持ち味を発揮しながら大会を盛り上げていった。

 それに初日の午後には、永里優季によるスペシャルクリニックが開催。なでしこジャパンで歴代2位の58点を挙げてきたストライカーの登場は、今大会を一層、色濃いものにした。

「世界の舞台ではとにかく、基礎が大事。止める、蹴る、運ぶ、そして仕掛ける。その中でも今日は、キックとコントロールをやります。普段から意識してやってみてください」。

 彼女自身が、ドイツやイングランド、アメリカ、そして日本代表として世界最高峰の舞台で実証してきた技術を、子供たちに伝えた。特に顕著だったのは、キックの技術。雨が降りしきる中、デモンストレーションで蹴り込んだボールの弾道は、周囲の想像をはるかに超えていた。ゴール前から蹴られた速く鋭いシュートが、まるでスナイパーが放つ弾丸のようなスピードと威力でネットに突き刺さると、子供たちの表情は一気に興奮に満ちたものになった。

 永里は2013年から、元Jリーガー・中西哲生の“中西メソッド”と呼ばれるプレーの真髄を学び、実践してきた。「プロになってから、まだまだ成長できると感じている」。日本最高のストライカーになってからも加速度的に進化を遂げ、日々、培ってきた技術を、今度は自らが子供たちに伝える役割を担っている。現役選手だからこそできることがある。いや、現役選手にしか伝えられないことがある。永里は今回、中西メソッドの一端を、基礎技術の重要性を、子供たちに伝授していた。

選手の魂がぶつかり合う死闘

 フジビレッジカップ ガールズチャレンジは、2日間の戦いの末に優勝チームが決まる。終日、雨の中で行われた1日が終わると、2日目はさらに悪天候の中での戦いとなった。

 選手の足の負担を軽減する高品質の人工芝も、これだけの豪雨ではさすがに機能しなくなる。ピッチはところどころに水たまりができ、ボールはまともに転がらない。浮き球を多用したくても、子供たちのキック力ではまだ、ロングキックもうまく扱えない。選手たちは、そんな悪条件の中でも、ゴールへと向かう道筋を探して、懸命にピッチを走っていた。

 子供たちの体調を管理する上で、天候には十分、考慮しなければならない。ただ今大会を戦う選手の姿を見ていると、過保護すぎてもいけないのだと気づかされる。

「この環境は珍しくはない。雨でも練習をしているし、こうしたコンディションの大会もある。時期によっては雪を掻き分けてやることもある。ここは人工芝だし、気温がもっと低い冬じゃないだけましですね」。参加チームの指導者が、そう教えてくれた。

 子供たちは確かに「寒い寒い」と言っていた次の瞬間、「暑い暑い、こんなの36℃じゃん」と冗談を言って走り回っている。〝雨でテンションが上がる〟という、そんな感じだった。

 富士山が見えなくても、ピッチに湖ができてしまうほどの雨でも、この大会が、この場所が〝聖地〟として、女子サッカーの熱を伝えていくものだと、そう思えた瞬間があった。

 武田消毒ジェイドとバディフットボールクラブによる準決勝だ。互いに、高いスキルを持つ選手がそろいながら、ボールを思うようにコントロールできない中で、決定打が生まれない。バディが押し込んでいたものの、ジェイドもゴール前で決死の守備を見せる。試合はスコアレスで拮抗したままタイムアップ。そして、3人ずつのPK戦による決着となった。

 先攻のジェイドが1本を外し、後攻のバディが2人とも決めて迎えたジェイドの3人目、原田和奏のシュートは、水しぶきを上げながらGKの前でストップ。この瞬間、バディの選手たちはGKへと駆け寄り、原田のもとには、ジェイドの仲間たちが集まった。まるで公式大会の決勝戦のような光景。選手たちの魂がぶつかり合う試合は、まさしく死闘の様相を呈していた。

来年も必ず、第3回大会を開催する

 決勝もまた、熱い試合となった。大会連覇を狙う山梨県女子トレセンと、全国屈指の強豪・バディの戦い。試合はハイレベルで拮抗していたが、バディが先制すると、悪条件を感じさせないほどのパフォーマンスでゴールまで迫っていき、終わってみれば3-1で勝利。すべての選手の能力が高く、総合力が際立った彼女たちが、大会初制覇を成し遂げた。

 試合後も止まない雨。表彰式は、富士緑の休暇村の宿泊施設内のホールで行われた。優勝はバディフットボールクラブ、準優勝は山梨県女子トレセンU-12。3位決定戦も、PK戦にもつれ込む激しい戦いとなったが、最後に意地を見せたFC Fuji メジェールジュニアが勝利し、ジェイドが4位を受賞。そして、6得点を挙げたジェイドの10番・旗崎はるかが得点王、決勝で何度もゴールに絡む活躍を見せたバディの42番・小林ちさが最優秀選手に選ばれた。

「選手も保護者の皆さんも、雨の中、熱い戦い、熱い声援をありがとうございました。我々、主催者も感動しました。この場所を聖地にしたいと願っています。この大会は2回目となりましたが、来年も必ず、第3回大会を開催します。また皆さんの元気な姿を見せてください」

 富士観光開発株式会社 レジャー事業本部 取締役副本部長・金子智弘氏は、最後にそう挨拶した。「来年も必ず開催する」。主催者の思いと、それに呼応する選手たち。初開催から1年。今大会は“女子サッカーの魂”が響く大会として、また一つ、歴史にその名を刻んだ。

取材・写真・文=本田好伸

By 本田好伸

1984年10月31日生まれ。山梨県甲府市出身。日本ジャーナリスト専門学校⇒編集プロダクション⇒フットサル専門誌⇒2011年からフリーとなりライター&エディター&カメラマンとして活動。元ROOTS編集長。2022年から株式会社ウニベルサーレ所属。『SAL』や『WHITE BOARD SPORTS』などに寄稿。

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